第19話 高度な複合魔法
そんなことを考えていると、セーブルが動き出した。
「やっぱり、人間はわからない。魔女の村を滅ぼしたかと思えば、今度は魔女を信じる? 守る? 意味が分からないし、理解も出来ない」
顔を上げたかと思うと、闇が広がるボトルグリーンの瞳が二人を見据える。
憎しみが込められている瞳、見られるだけで体が凍りそう。
なのに、二人はまるで何事もなかったかのように腰に差している剣を抜き取った。
「魔女っ娘」
「は、はい」
「どうしたい?」
「…………え?」
どうしたい? どうしたいとは、なにをだろうか。
思わず目を丸くしていると、肩越しに私を見てきた。
紅蓮に燃える瞳。でも、火傷しそうだとも熱いとも思わない。
優しさが含まれているからだろう。私の願いを百パーセント叶えてやるという気持ちを感じる。
なにをだろう。では、ない。
わかる、私にゆだねているんだ。セーブルをどうするかを。
ここでは、嘘を吐いてはいけない。
さっき、クラルが言った通り、素直にならなければならない。
「…………殺さないで、捕らえたいです。唯一の、私と同じ魔女の生き残りなので」
「ん、了解」
ニコッと笑い、前を向く。
魔法を出す準備をしているセーブルは、無表情のままグレールさんを見た。
「人間に守られることを願うんだ、魔女が落ちたね」
「俺達が守りたいから守っているだけだ。守られんでも魔女っ娘は、簡単にお前さんを倒すことが出来るだろう」
っ、そこまで買ってくれていたんだ。
私が女性だから弱いと思い込んで、守ってくれているのかと思っていた。
「そう、どうでもいい。魔石を手に入れなければ、僕の復讐は達成できないし、邪魔をするのなら、殺すよ」
「殺されないよう頑張らせてもらうわ」
剣を構えたかと思うと、グレールさんは地面を強く蹴る。その瞬間、姿を消した。
…………いや、消したように見えただけ。一歩でセーブルの前まで移動していた。
剣を振りかざし、セーブルを斬る。
でも、冷静に杖で受け止められた。
「男である俺のひと振りを受け止めるか――――なるほど。強化魔法を付与したな?」
「教える筋合いはないよ」
言いながら、魔力を杖に込められる。
刹那――――グレールの体が吹っ飛ばされた!
「グレールさん!?」
あっ、上手く剣で防いだみたい。
体を回転させ上手く着地し、姿勢をすぐに整えた。
「おやおや、そういう魔法もあるんですねぇ。でしたら、中距離とかはいかがでしょう」
フィーリさんは、言いながら剣を前に突き出す。
すると、魔力が集まり、周りの植物が蔓を伸ばし始めた。
「まさか、植物魔法の使い手?」
『高度な魔法を持っているな』
植物魔法は、複数の魔法を組み合わせないと出せない高度な魔法。
確か、炎と水、地の魔法を組み合わせ、植物を作り出す。または、自然を味方に付けるんだっけ。
グレールさんだけじゃなくて、フィーロさんもすごい騎士だったんだ……。
蔓を伸ばし、セーブルに向かわせる。
杖を横一線に振りかざしたかと思えば、風魔法を発動。鋭く光る鎌鼬のような刃が繰り出され、蔓を次々と斬り始めた。
姿勢を低くし、体を小さくしながら風の刃と蔓の隙間を縫い、グレールさんがセーブルへと走る。
すぐにセーブルの視線がグレールさんに向けられている。奇襲を仕掛けることが出来なくなった。
でも、それはグレールさんもわかっているみたい。
表情を変えずに、炎魔法を剣に付与し、剣先を赤く染める。足元にも付与したらしく、グレールさんが通った地面が溶けていた。
「ふぅぅぅぅ…………」
赤い息を吐き、タイミングを合わせるため、地面を強く蹴りセーブルの目の前まで跳ぶように移動した。
また杖で防ごうとしたけれど、今度は横一線に振り上げられる。
横に杖を広げていた体勢からでは防げないだろう。
「ちっ」
それは、すぐに分かったみたい。
後ろに跳んで避けようとしたみたい。でも、剣のリーチの方が長い。少しだけ掠る。
腕で防いだからかな、血が出ているみたい。
そこから炎が燃え広がる。
――――って、え? 炎?!
「グレールさん!? 殺さないんじゃないんですか!?」
「問題ないぞ、魔女っ娘。あの炎では、体を燃やすことは出来ない。燃やしているのは、魔力のみだ」
――――え、魔力を、燃やす? そんなこと、出来るわけがない。
魔女である私でも、魔力だけを燃やすなんてできない。どんな複合魔法なの!?
『ただの魔法ではないのは、確かなようだな』
「そう、なの?」
『あぁ。だが、解読が出来ない。あの魔法、何を複合しているのだ…………』
クラルでさえわからないの?
…………人間が、そんな魔法を出すことが出来るの? そんなこと、出来るの?
魔女を超えるほどの魔法を、扱うことなんて、出来る、の?
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