第18話 素直な気持ち

 後ろから、声。振り向くと、グレールさんがこっちに走って来ていた。


「魔女っ娘さん!!」


 その後ろには、フィーロさん。

 私の近くまで来ると、木の枝に止まって見上げてきた。


「魔女っ娘!! 大丈夫か!?」


「な、なんで? 帰ったんじゃなかったんですか?」


「帰れるわけないだろう! あんなに焦っている君を一人、置いてはいけない!」


 なんで? 私がどうなろうと、貴方には関係ないでしょ?

 なんで、そこまで必死に私の元に来たの?


「グレール様、あれ」


 フィーロさんが指を差した先には、セーブルの姿がある。

 グレールさんも追うように見ると、警戒を高め腰に差している剣を手に取った。


「…………まさか、人間が魔女を守ろうとしているの? 魔女の村を滅ぼしたのに?」


 セーブルは、グレールさんを見上げ、ため息を吐いた。

 すぐに目線を外し、魔石へと歩く。


「ま、待って!! 魔石には近づかないで!」


「僕も君と同じ魔女。リュミエールが独り占めしていいものではないわ」


 確かに、私が独り占めしてもいいものではない。

 でも、ここで魔石を取られてしまえば、人間の世界が滅ぼされる。


 ――――あ、あれ?

 なんで私、今、人間世界が滅ぼされることを心配したの?


 私は、復讐しようとしていたんだよ?

 なのに、どうして……。


 また、答えの出ない自問自答を繰り返していると、グレールさんが私に呼びかけた。


「魔女っ娘! あの魔石を守ればいいのか!?」


 守る、魔石を。

 守りたい。でも、いいのかな。だって、守るということは、私はもう、復讐できなくなる。

 ここで、止めてしまえば、私は人間の味方をすることになる。


 わからない。

 私は、どうすれば、いいの?


『リュミエール、素直になるんだ』


 クラルが、私を見上げて来る。

 素直になる、素直な気持ち……。


 グレールさんが、私を見る。

 紅蓮の瞳を燃やし、私を、見上げて来る。


 素直な気持ち、私の、素直な気持ちは――……


 あともう少しで、セーブルに魔石が奪われる。

 奪われては――――だめ!!


「あの魔石を、守りたいです!」


 言った瞬間、セーブルの目の前に炎の壁が作り上げられた。

 魔石は、ギリギリだけど当たっていない。


 もう、手を伸ばせば届く距離まで迫っていたはずなのに、魔石には当たらないようにセーブルと木の間に炎の壁を作った。


 咄嗟に後ろに跳び、セーブルは回避したため、怪我はない。

 振り向き、グレールさんを憎しみが込められている瞳で見上げる。


「…………君も、魔石が欲しいの?」


「魔石はいらん。それは魔女っ娘のなんだろう? だから、守ったのだ」


 堂々と言い切ったグレールさんは、地面に降りた。

 そのままセーブルに近付く。


「待ってくださいグレールさん! 危険です!」


 急いでグレールさんの横に立つと、セーブルが微かに動揺を見せる。

 なにを、動揺しているんだろう。


「君、人間の味方をするの?」


 味方……。

 私は、人間の味方をするの?

 その質問には、どう答えればいいの?


「人間の味方をするしないはわからんが、俺は魔女っ娘のやりたいようにするだけだ。俺の手が必要なのなら、何でもする! 俺は、魔女っ娘が笑っている姿が見たいだけだからな!」


 グレールさんは、自信満々に宣言し、私を見るとニコッと笑った。

 なんで、そんなことを言ってくれるのだろう。なんで、そこまで思ってくれるのだろう。


「まったく、グレール様は凄いですねぇ。そこまで、魔女っ娘さんを信じることが出来るなど」


「お前は、信じないのか?」


「魔女を信じないという道があると思いますか? と、言いたいですが、今回ばかりはお相手さんも魔女。言葉を改めましょう」


 コホンと、何故かフィーロさんが咳払い。

 な、何を言う気なんだろう……。


「魔女っ娘さんを信じると決めた、グレール様を信じましょう」


「なんだ、そのまどろっこしい言い方。めんどくさいな」


「いいではありませんか。この方が燃えるでしょう?」


「めんどくせぇだけだ」


 二人の主張を聞いてセーブルは、顔を下げてしまった。

 諦めてくれた…………訳ではなさそう。


 魔力が昂るのを感じる。

 それは、二人も同じみたいで、私の前に出る。


「あ、あの。私は守られなくて大丈夫だと何度も…………」


「俺達、男のプライドなんだ。女性を守りたい、だけではないんだが、そういうことだ」


「どういうことですか…………」


 女性だけど、私は普通の女性じゃない。

 魔女なんだ。魔女を人間が守るのはおかしい。


 何度も行ってきた自問自答。

 この答えは、多分私一人では答えを導き出せない。


 この後、聞いてみよう。

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