第15話 魔獣の目的
「仲良くしているらしい」
「仲良くはわからないですが、嫌われてはいないと思います」
「そうか。その魔女っ娘は、優しいらしいし、これからも大事にするんだぞ」
「わかっています。それで、一つ許可が欲しいのですが、よろしいでしょうか?」
グレールの問いかけに、ロデリック王は目を丸くしつつも頷いた。
「カルテにある魔女の資料について、魔女っ娘の使い魔に聞かれているのです。お答えしてもいいですか?」
「使い魔…………だと? なぜ、そんなことを聞かれている。なぜ、答えなければならない」
いきなり空気を変えたロデリック王に、グレールは紅蓮の瞳を開いた。
一気にこの場の空気を変えられ、グレールの額から一粒の汗が流れ出る。
「と、特に、なにも……。話の流れで聞かれてしまい、フィーロが王に確認しなければという話になってしまって…………」
なんとか絞りだした声は震えている。
それくらい、ロデリック王の出す空気は冷たく、背筋が凍ってしまう。
ロデリック王は、普段誰にでもフレンドリーで話しやすい。
だが、一度スイッチが入れば誰にも止められないほど強く、騎士の中でトップクラスのグレールでも勝てない。
そんなロデリック王から放たれる空気は、グレールでも恐怖を感じ、口を開くことが出来なくなってしまった。
「……………………フィーロなら、テンションに任せそのような話になっても仕方がないか」
フィーロについては、ロデリック王も知っていた。
というより、フィーロは魔女についてだったら何でもするため、ロデリック王に直談判して魔女の資料を誰よりも早く見せてもらえるようにお願いしていた。
そのため、ロデリック王はフィーロについて警戒していた。
「それなら仕方がない。魔女っ娘とその使い魔は信じられるのだろう?」
「はい」
「即答か。君の目は確かだ。信じよう」
ロデリック王は、カルテについて説明しても良いと許可を出した。
ついでに、なぜ魔女の本があそこにまとめられているのかという理由も話す。
「――――つまり、魔女の村に潜入していた騎士の一人が集めた資料が、カルテに集められているということでしょうか?」
「もちろん、それだけではない。だが、そのような資料もあるということは伝えても良い」
腕を組み、ロデリック王は天井を見上げる。
何かを考えている様子に、グレールはまだ続きがあるのかと思い待った。
「…………もう、なにもないな」
「八倒してやろうか。さっきまでの時間を帰せよ」
「今、この時間が王である私の時間を奪っているとはならんのかい?」
ニヤニヤしながらそんなことを言われ、グレールは何も言えなくなる。
こうなるから嫌なんだと、心の底から思った。
「それで、他にも聞きたいことがあるらしいじゃないか。なんだ?」
魔女についてはこれで終わりだと、話を次に移す。
「ロデリック王は、魔獣について知っていますか?」
「…………馬鹿にしているのか?」
「そういう意味で聞いたわけではなかったのですが、まぁいいです」
そこで一拍置き、グレールは再度口を開いた。
「最近、ツエバルへの出動命令が多いため、魔獣の数が増えているように感じています。なので原因などはなんだろうと思ったのです」
「あぁ、そのことか」
またしても腕を組み、唸りながら天井を見上げてしまった。
何かを考える時は、天井を向くのが癖なのかと思いながら待っていると、ロデリック王は静かに口を開いた。
「魔獣は、魔石を持っている者なら誰でも作れる。だからこそ、そこまで強くはないだろう? 今はそこまで警戒しなくていいだろう」
「それはなぜですか?」
「魔獣は、この世界に沢山いる。もしかしたら、ツエバルにある何かに惹かれ、魔獣が近付いているだけかもしれないのだ。というか、今はその可能性が高いだろう。なにか影を見たわけでもあるまい?」
ロデリック王の言葉にグレールは頷きつつ、少し納得できない部分もあり唇を尖らせた。
「今は、の話だ。もっと、情報を集めるがよい、もしかすると、意外な理由があるかもしれんぞ」
もう、ここは素直に引き下がるしかないと思い、グレールは再度頷いた。
安心したように紅茶を啜るロデリック王は、ふと、疑問を感じ顔を上げる。
「そう言えばだが、グレールと会った魔女は、ツエバルにいるのか?」
「…………」
「何もせんよ。答えよ」
ここですぐに答えられなかったのは、リュミエールに何かするつもりなのかを疑った結果だった。
だが、ロデリック王は無駄な争いはしない。あまり答えたくはなかったが、渋々頷いた。
「なら、魔女を狙っている可能性があるな。それか、魔女がそこにいる理由の何かを狙っているか」
「それは、フィーロも同じようなことを言っていました」
「そうか。まぁ、そう思うのは普通だろう」
ロデリック王が紅茶を飲み干し、グレールは最後の一口を啜る。
カチャンとテーブルに置き、立ち上がった。
「話を聞かせていただきありがとうございます。少し、魔女っ娘に聞いてみます」
「おう、無理はするでないぞ」
「はい」
そのままグレールは一礼をして、部屋を後にした。
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