第14話 本題
王の部屋というだけでやっぱり、玉座の間と同じくらい豪華。
玉座の間を小さくしたような部屋に案内され、グレールは促されるまま部屋へと入った。
中心にあるテーブルの周りには、椅子が置かれている。
ロデリック王は先に椅子に座り、前に置かれている椅子へグレールを促した。
座るのは嫌だったが、ここまで来たらもう最後まで話すしかない。
そう自分に言い聞かせ、グレールは座った。
同時に、ロデリック王が予め頼んでいた紅茶が届き、ついでにお茶菓子にと、クッキーがバスケットの中に綺麗に飾られていた。
ロデリック王は、簡単に礼を言って受け取り、テーブルに置いた
やっと、二人の空間になったことにロデリック王は喜び、ニコニコとグレールを見た。
視線を送られているグレールは目だけを逸らし、紅茶を啜る。
「さて、話とは何だい? 君から声をかけてくれるなんて思っていなかったから心から嬉しいよ」
「…………俺は、出来るだけ話したくなかったけどな…………」
小さな声で毒を吐くグレールに、ロデリック王は「またそんなことを言う」と、わざとらしく悲しんだ。
「貴方が悲しもうが喚こうが泣こうが怒ろうが俺には関係ないんで、本題に入ります」
「流石に酷くないかい? 確かに君をこちらの世界に勝手に連れてきたことは申し訳ないと思っているよ。でも、そこまで怒らなくてもいいじゃないか……。こっちの生活も悪くはないだろう?」
眉を下げて言うロデリック王を見て、グレールは素直に頷くことが出来ない。
でも、ロデリック王の言うように、グレールはこっちの生活も悪くないと思っていた。
騎士の皆は優しく、お互いを高め合える。
最初の出会いでキャラ付けされてしまい、冷たい印象を植え付けてしまったグレールだが、それでも周りの人は仲良くしてくれていた。
こっちの世界に来る前の世界の方が残酷だったかもしれないと思うほどに、こっちの世界は快適だった。
それでも、ロデリック王の言葉に素直に頷きたくない。
眉間に深い皺を寄せ、怒っているような表情を浮かべる。
「そ、そこまで考えることか?」
「いえ。この世界は快適で素敵だと思います。ですが、貴方の言葉に頷くかどうかを迷っていました。負けを認めた感じになりそうなので」
「そこ!?」
そんなところを考えているとは思っていなかったらしく、ロデリック王は声を大きくしてしまった。
「ま、まぁ、その話はやめようか」
「はい」
「そこは素直に頷くのだな……」
「早く本題を話して終わらせたいだけです。そして、今すぐここから出たいです。一秒でも早く」
「本当に酷いな……。私、これでも王なんだけど」
「今は、召喚士と異世界人です」
「都合がいいな」
呆れながらもロデリック王は、咳払いをして本題に入るように促した。
「それでだ。そこまで嫌っている私の元にわざわざ来たグレール君は、なに用かな?」
「今回、話したいことが二つあります。まず一つは、魔女についてです」
魔女という言葉に眉をピクッと動かし、ロデリック王は目を細めた。
「魔女、だと? なぜ、グレールが魔女をしっている?」
「少々、変わった出会いがありまして」
「変わった出会い、だと? まさか、魔女に会ったとでも言うのか?」
焦りを感じる質問に、グレールは不思議に思いながらも頷いた。
「まさか、でも、そうか……。魔女の生き残りがいるという話は本当だったということだな」
「知っていたのですか?」
「まぁな。魔女の生き残りがいるということだけだがな。何処にどのような魔女がいるのかは聞いていない」
言いながら腕を組み、「しかしなぁ」と、なぜか唸ってしまった。
なぜここで悩みだしてしまったのかわからずグレールは、首を傾げロデリック王を見る。
「…………ちなみにだが、グレールは魔女についてどこまで聞いた?」
「魔女本人からは聞いていません。カルテで調べて魔女という種族を少しだけ学んだ程度です」
「言い方に含みがあるな。何を考えている?」
探り合いの会話を繰り広げる二人。
ロデリック王の言葉にグレールはどのように言葉を伝えるか考える。
「…………魔女は魔力が多く、人間など簡単に滅ぼせるほどの魔法を扱うことが出来る。敵に回してしまえば、人間世界は簡単に滅ぼされる。と、聞いています」
「そうだな」
「ですが、それは魔女自身が滅ぼそうと思えばの話ですよね?」
グレールが何を言いたいのかわからず、ロデリック王は眉を顰めた。
「魔女自身が人間世界を滅ぼそうと思わなければ、その情報は意味のないものになる。それに、この世界も危険が一切ないとは言い切れません。自分の身を守るためにも、魔法が強いのはメリットでしかないと思います」
言い切ったグレールの紅蓮の瞳は赤く燃え、まっすぐロデリック王を見つめる。
一瞬息をのみ、言葉を詰まらせる。同時に、ロデリック王は気持ちが高揚し、口角が自然と上がった。
だが、すぐに気持ちを落ち着かせ、咳払いをした。
「そうか。それは面白い考えだ。だが、それだけではない」
「それだけでは、ない?」
「人間がなぜ、魔女に恐怖を感じているのか。それは何も、魔法だけが理由という訳ではないのだ」
それを聞いて、グレールは身を乗り出して聞いた。
「どういうことですか?」
「魔女の魔力は、強い。だからこそ、制御できない可能性がある」
その言葉に、グレールは目を微かに開く。
「それはつまり、暴走する可能性があると言いたいのでしょうか?」
「人間というのは、見えない不安を抱える生き物だ。大きな力は、そのうち自身へ牙を向く。そうなる前に――……」
最後まで言わせてなるものかと、グレールはバンッと机を強く叩いた。
「まさか、魔女っ娘が力を暴走させ、我々人間に牙を向けるとでも言いたいのか? 見たことも話したこともないのに、そう決めつけるつもりか?」
殺気にも似た空気をロデリック王は真正面から受け止める。
ビリビリと体に突き刺さり、鳥肌が立つ。
「はぁ。そうは言っていない。これは、魔女の村を滅ぼした時の王の考えだ。私が平和主義なのは知っているだろう?」
「そんな平和主義者は、戦争のために俺を別の世界から無理やり連れてきて、簡単に魔法と魔力について話しただけで前線に立たせていましたけどね」
顔をサッと逸らし、ロデリック王は誤魔化す。
そんな彼の様子を見て、過去のことだしこれ以上は何も言わないと、、グレールは空気を変えるために紅茶を啜る。
「…………今の話は過去のことなので、今はどうでもいいです。それより、魔女についてです」
「そうだな。先ほど、グレールが興奮した時に漏らした言葉が気になるぞ」
紅茶をカチャンと置き、グレールはロデリック王を見る。
「魔女っ娘、と魔女のことを言っていたな。可愛い名前を付けたらしい」
「――――まぁ、まぁ……まぁ」
「焦りすぎて誤魔化す言葉すら出てこないか」
ケラケラと笑い、ロデリック王も紅茶を啜る。
カチャンと置き、空色の瞳を向けた。
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