第11話 魔獣の対策

『小童二号』


「あ、あなたは、もしかして、使い魔と呼ばれている魔獣ですか!?」


『魔獣は失礼だが、そうだ。我はそこの魔女の使い魔、クラルという。小童二号、お前に聞きたいことがあっ――』


 クラルが質問しようとした時、フィーロさんが目を輝かせクラルを抱き上げてしまった。


「これが噂に聞く使い魔!! 上級魔女しか扱うことが出来ず、使い魔のいる魔女は、魔女の村でも家宝と同じ扱いされ、大事に育てられると聞きます!! 使い魔にもクラスがあり、上級使い魔は魔女の魔力を使わなくても魔法を放てると聞いたことがあります!!」


『グエッ! お、おい、離せ…………』


 クラルが絞められている、苦しそう。

 でも、フィーロさんが嬉しそうにしているから、離してとも言いにくい。


 それと、そこまでの情報をどこで知ったんだろう。

 魔女の情報はもう、抹消されたはずなのに…………。


 考え込んでいると、クラルが私に手を伸ばして助けを求めてきた。

 でも、フィーロさんはまだペラペラと使い魔について語っている。


 どうしよう、ここで止めたら気分を害してしまうかな。

 でも、もうそろそろクラルが心配――――あれ。


 グレールさんがフィーロさんに近付いて行った。


「もういいだろう、フィーロ。使い魔が死ぬ」


 あ、止めてくれた。

 グレールさんの言葉にフィーロさんもハッとなって、力を緩めてくれたみたい。


「す、すいません。興奮してしまうと、今のように周りが見えなくなってしまうのです。悪い癖と自覚はしているのですが、なかなか……」


「いえ……」


 私にクラルを返してくれた。

 腕の中でグテッとしている。


 なんか、ここまで疲れているクラルを見たのは初めてかも。なんか、少し可愛い。


『何を笑っている……』


「何でもないよ」


 頭を撫でてあげると、鼻を鳴らし落ち着いてくれた。


『ゴッホン。フィーロとやら、中々やるな』


「そのようなお言葉を使い魔様から頂けるなんて、恐縮です」


 胸に手を当て、腰を折る。

 仕草などは全て綺麗だなぁ。



『それより、主は魔女の情報をどこで手に入れた? 我々が聞く権利くらいはあるだろう』


 クラルが聞くと、フィーロさんは少し困ったように眉を下げてしまった。


「お答えしたいのは山々なのですが、生憎、私の判断ではお答え出来かねます」


『理由は?』


「機密情報だからです。ですが、流石に魔女様とその使い魔様です。王に確認すれば、お伝えできるかもしれません」


 え、王様に? でも、王様は国で一番偉い人なんでしょ?

 騎士という立場で、お話しは許されるのだろうか。


「どうやって王と話すんだ?」


「貴方がいるではありませんか。なに、呆けていらっしゃるのですか? グレール様」


 ものすごく爽やかな笑みを浮かべて、隣にいるグレールさんを見た。

 最初はよくわかっていないらしく首を傾げていたけど、徐々に言葉の意味を理解したグレールさんは、顔を青くした。


「何を考えている……」


「王のお気に入りである貴方でしたら、お話しできるかもしれませんよ?」


「勘弁してくれ……。あの王様と話をするのがどれだけ大変か、フィーロならわかっているだろう」


「ですが、魔女っ娘さんの為ですよ? 出来ないのですか?」


 え、私?


 二人が私を見る。

 え、ど、どうすればいいんだろう。なんて言えば、いいんだろう。


 困っていると、グレールさんは頭を抱えてしまった。

 深い溜息を吐き、「わかった」と、言ってくれる。


「だが、保証はしない。そこは理解してくれ」


『わかった』


 なんか、話の中心である魔女の私が一番置いて行かれているような気がする。

 まぁ、いいか。よくわからないけど、私のために動いてくれるということだと思うし。


「では、今日はここでお暇しましょうか。グレール様も」


「あぁ、今行く」


 二人はそのまま森を出ようと歩き出す。

 背中を見送っていると、グレールさんがくるりと振り返った。


 な、何だろう。


「魔女っ娘、またな!!」


「え、は、はい。また……」


 さっきまでとは違う元気な笑み。

 私に向けて手を大きく振ると、そのままフィーロさんと共に居なくなる。


「…………」


 グレールさんって、私相手と、他の人相手だと、態度が違うのかな。

 それとも、ただの思い上がり?


 でも、もしそうだとしたら、何でだろう。

 なんで、私に対しての態度が違うんだろう。


 女だからかな。

 でも、私は魔女。普通の女とは違う。だから、優しくしてもらわなくても大丈夫なんだけど。


 大丈夫なのに、なんで……。


『どうかしたか?』


「…………なんでもないよ」


『そうか』


 気になるけど確証はないし、思い上がりだったら普通に恥ずかしい。

 これは、私の中で留めておこう。


 ※


 またしても、数日の時が過ぎる。

 グレールさんは来ない。交渉してくれているのかわからないけど、まぁ、どっちでもいい。


 私は、いつものように魔獣を相手に魔法を振るうだけ。

 今日の魔獣は、熊。大きな熊だ。


 どれだけ大きくても、私の魔法にかかればどうってことない。


 炎の弾を放ち、終わり。

 魔獣は横に倒れ、動かなくなる。


「…………」


『最近、魔獣の出現が多くなってきているな』


「やっぱり、そうだよね」


 今までは数日に一回のペースだったのに。今では、毎日一回は出てきている。

 幸い、一発で倒せるほど弱いから問題はないけど、このまま数が増えるのなら、なにか対処しなければならないかな。


 この森には、守らなければならない樹木がある。

 魔石が込められている魔女にとって、命より大事な樹木。


 結界を張っているけど、それも完璧ではない。

 結界が破られてしまえば、終わりだ。


 そうなる前に、対策だけでも考えておこうかな。


「んー。ねぇ、クラル」


『なんだ』


「魔獣って、どこから来るの?」


 魔獣はどこから、どのようにして生まれて来るのか。

 どうやって作られているのか。私は何もわからない。


 それがわかれば対策可能だけど、わからなければ何も出来ない。

 クラルはわかるかな。


『魔獣は、動物に魔石を埋め込めば誰でも作り出すことが出来るはずだ。人間の仕業の可能性が高い』


「人間……。もしかして、魔女の魔石を狙っているの?」


『可能性は、ゼロではないな』


 人間の仕業……。

 まさか、グレールさん?


『言っておくが、グレールの線は低いぞ』


「なんで?」


『悪意をまったく感じん。手練れだったら感じさせずに近付くことは可能だが、それにしても純粋な言葉、想いを感じ取れるグレールは、白だと考える』


 クラルがそこまで言うということは、グレールさんは信じてもよさそう。

 でも、それならフィーロさん?


『ちなみにだが、フィーロは確実に白だ。根拠はないが言い切れる』


「根拠はないんだ…………」


『あぁ』


 それはそれで、なんか、信用してもいいのか?

 まぁ、クラルが言うなら信用しても大丈夫か。


「クラル。私、魔獣の出どころ、調べたい」


『だが、どうやってだ? ツエバルからは離れられんだろう』


「そうだけど…………」


 でも、調べないといけない。これ以上、酷くなるのだけは避けたい。

 どうすればいいかな……。


「今の話は、すまんが聞かせて貰った」


「え、グレールさん!? と……フィーロさん。こんにちは」


 二人がいつの間にかツエバルに来ていたみたい。

 流石にびっくりしてしまった……。

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