第9話 魔獣

「…………なんだ」


 怒りを抑え、グレールはフィーロの次の言葉を待った。


「魔女の村を滅ぼした時、たった一人だけ、逃げきれた魔女がいたらしいですよ」


 その言葉に、グレールは目を大きく開き「え?」と素っ頓狂な声を漏らす。


「その魔女は、魔女の村の中でもずば抜けて優しく、それでいて力が強かった。当時、まだまだ子供だったその子は、親の魔法で逃げ切ることができ、今もどこかで生きている。さて、貴方が出会った魔女とは、いったい誰なのでしょうか?」


 クスクスと笑いながら話すフィーロに、グレールは何も言い返せない。

 頭の中にはツエバルで出会った魔女、リュミエールが思い描かれる。


「…………俺が出会った魔女は、俺が仕えているオルレアン家が滅ぼした、魔女の生き残り?」


「その可能性は十分にあります。ですが、必ずしもそうだとは言い切れません」


 強く握っていた拳を緩め、グレールはフィーロを見た。


「魔女の歴史は他にもさまざまあります。まぁ、どれも信憑性にかけるものが多く、今お話ししたものが一番現実的だったのですがね。なので、確信は持たないでください。これは、あくまで私が現段階で調べている中での、情報です」


 いつもの笑みを浮かべ、フォーロは話を終わらせた。


 何も話さなくなったフィーロを横目に、グレールは沢山ある魔女について書かれている本を見上げた。


「この中にある話は、すべてが真実ではないと言うことか」


「その通りです。私もすべてを読めているわけではありませんが、真実と嘘が入っており、誠に面白い空間です」


 一つの本を抜き取り、フィーロはグレールに差し出した。

 その本を受け取り、表紙を見る。そこには、『魔女』としか書かれておらず、内容が予測出来ない。


 顔を上げフィーロを見ると、ニコッと笑みを返される。


「その本は、唯一貴方が読める文字で書かれております。他は、数年勉強しなければ解読できない文字で書かれていますので、あまりオススメできません」


 周りの本棚を見上げながら、フィーロは優し気に言う。

 彼の横顔は、周りの人が噂するように儚く、今にも消えてしまいそう。だが、グレールは知っていた。


 フィーロは、見た目では予想が出来ないほどの――……


「では、私はここで魔女についてと、魔法について調べますね。魔女の生き残りがいるかもしれないとわかった今、もっと強くならなければ。いつか、命を懸けた戦いができるのを楽しみにしています」


 ────戦闘狂であると。


 グレールは苦笑いを浮かべながら、受け取った本を見下ろし、壁側に置いてある椅子に腰を下ろし読み始めた。


 ※


 グレールさんが魔女について調べると言ってから、数日。

 私は、いつも通りの日々を過ごしていた。


 今は、魔力のコントロールを精密に出来るように修行中。


 周りに魔獣がいないことは確認済み。

 一応、魔石が込められている樹木から離れ、結界をしっかりと張り直し手から行っている。


 使い魔であるクラルは、帽子から姿を現し私の様子を外から見てくれている。

 変に魔力が動いたり、私の気づかない変な癖を見てもらう為だ。


 他にも、魔獣が襲ってこないかも意識してくれていた。

 そのおかげで、私は自分の魔力に集中出来ている。


 目を閉じ、視界に映る者すべてをシャットアウト。杖の先端に魔力を少しづつ送り続ける。


 莫大な魔力の放出は、簡単に出来る。

 何も考えず、魔力を放てばいいだけだから。


 でも、微弱な魔力を一つに集中するのは、根気が必要だ。

 集中も高め続けなければならないため、いい訓練になる。


 魔力が一つに集まっている感覚は掴めている。

 クラルからの指摘もない。


 このまま、ずっと同じ魔力を留め続けないと。


『――――リュミエール』


 クラル?

 すぐに魔力を消し、目を開けクラルを見た。


「どうしたの?」


『魔獣が近付いている。簡単に倒せるだろう』


「わかったわ」


 魔獣か……。それは、行かないといけないね。

 放置すると、魔石に近付かれてしまう可能性がある。


 魔獣の気配は――――ここから近い。こっちに近付いて来ている。

 待っていれば来るかな。トラップ魔法を仕掛けておいた方が楽そう。


 私の周り、半径二十メートルにトラップ魔法を仕掛ける。

 引っかかると、下からトラバサミが現れ魔獣を捉えてくれるトラップ魔法だ。


 このまま来て、私のトラップにはまって。


 目を細め、魔獣の気配が近づく方向を見続ける。

 すると、木々の隙間から大きな狼が姿を現した。


 周りの木と同じくらいの大きさ、額には魔石。

 涎を垂らし、猛スピードでこっちに向かって来る。


「捕らえなさい」


 杖に魔力を込めると、同時に魔獣はトラップを踏む。ガシャンと大きな音を立て、前足を捕らえた。


 周りに助けを求めるように咆哮。でも、無駄だよ。

 私のトラップはそう簡単に壊れないし、他の魔獣が襲ってきても、私に届く前に捕らえられる。


「それじゃ、さようなら」


 炎の弾を放ち、魔石を破壊した。

 悲鳴を上げ、魔獣は倒れる。


 魔石を回収、今回のも濁っているなぁ。


「ふぅ。仲間もいないみたいだね」


『そうだな。今回も無駄のない対処。流石だ』


「ありがとう」


 それにしても、魔獣は何で、何処から現れるのかな。

 今まで考えたことなかったけど、ふと気になってしまった。


 しかも、この森に複数体。

 多分、動物の直感で、ここに大量の魔力があると察知しているからだろうけど。


『何を考えている?』


「何で魔獣が現れるのかなぁって思ったの」


『唐突だな』


「ふと思っただけだから、気にしないで」


 気にしたところで、何も出来ないし、私はここから動けない。

 絶対に魔石を埋め込まれている樹木を守らなければいけないのだから。


 これは、魔女である私の使命。

 魔女は、存在していたんだっていう証を、守らないと。


 絶対に、守り切らないといけないんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る