第8話 魔女ファン
部屋の奥に向かったグレールは、どこから調べればいいのかわからず立ち尽くしていた。
「どこに何があるんだろうか…………」
天井から吊るされている電灯を頼りに、本棚へと近づく。
一つの本に手を伸ばし、引き抜いた。
見ると、一人の魔女が横向きに描かれている表紙が描かれている。
「――――魔女の始まり?」
タイトルを読み上げ、本を広げる。
中は、普通の文字ではなく、見たことがない文字が並んでいた。
グレールは最初、何が書いているのかわからず眉間に深い皺を寄せた。
何とか読み解こうとするも、見覚えのない文字なため不可能。諦め、他の本を開く。
だが、それも無理。
近くにある本を全て開くが、どれも同じ文字で書かれており、グレールは青筋を立てた。
「同じ本棚だからか…………?」
他の本棚に向かい、本を抜き取り開く。
だが、同じ。
さすがに肩を落としてしまい、グレールは本をパタンと閉じた。
「わかんねぇ…………」
項垂れていると、エレベーターが何故か音を出し動き出した。
さっきの人が戻ってきたのかと思い、振り向く。
エレベーターに近付き、扉が開くのを待つ。
チンッと音が鳴り、さっきの女性が出て来ると思っていたグレールは、出てきた
「なっ!?」
「ん? おやおや、こんな所でお会いになれるとは思っていませんでしたよ、グレール様」
藍色の腰まで長い髪をハーフアップにしている男性。
普段からニコニコと、妖しい笑みを浮かべているこの男性の名前は、フィーロ・ロゼリアという。
「な、なんでフィーロがこんな所に来るんだ!?」
「それはこちらのセリフなんですがねぇ。貴方、本に興味がありましたか? それに、魔女の本しか取り扱いのないここに……。魔女について、誰かからお聞きしたのでしょうか?」
首を傾げながらフィーロは、青色主体の騎士の服を身にまとい、優雅に歩く。
コツン、コツンと静かな足音が静かな空間に響く中、先ほどまで冷たい表情を浮かべていたグレールが顔を真っ青にし後ずさる。
「逃げないでくださいよ、グレール様。魔女について調べている理由をお聞きしたいだけですから」
「な、なんとなくだ…………」
「ほう。貴方はなんとなくで、転生しこの世界についてまだ知らないことが多い中、魔女についてお調べになるのでしょうか? 魔女という概念すら知らなかった貴方が? なんとなくで?」
壁まで追い込まれたグレールは、自身より小さいフィーロに見上げられ、支線をそらす。
今まで見えていなかった深緑色の瞳が苦笑いを浮かべているグレールを見つめた。
足で逃げ道を封じられ、グレールは話すしかないかと諦めた。
「わかった、わかった。頼むからそれ以上脅さないでくれ、マジで怖い」
「ご理解いただけたようで良かったです。では、お話しください」
「…………離れてくれねぇの?」
「話してからここから避けますね」
「…………はい」
もう、このまま話すしかないと諦め、グレールはツエバルで出会った魔女について話し出した。
なぜ、魔女について調べることになった経緯も話すと、フィーロは徐々に目を輝かせる。
「――――それは素晴らしい!!」
逃げ道を封じ込めていた足を下げ、逆にグレールの両手を握り顔を寄せた。
「近い!!!」
「おっと、失礼。興奮してしまうと周りが見えなくなる癖は、治さなければなりませんね」
蹴り上げられたグレールの右足をひらりとかわし、笑みを浮かべながらフィーロは考え込む。
やっと距離が離れたことに安堵の息を吐き、グレールは頭をガシガシと掻いた。
「ところでだが、フィーロ。なんでそこまで興奮したんだ? 魔女について何か知っているのか?」
「知っているも何も。私は今まで魔女について調べてきたのです。魔女のすばらしさ、美しさ。それでいて儚く散ってしまった女性達。そんな魔女について調べて、更生に引き継ぐのが私の使命です!!」
まるで、演説しているような、無駄に大きな動きをしながら、フィーロは魔女について語る。
げんなりしているグレールは、今だペラペラ魔女について語っているフィーロを見て、ふと、一つの疑問が浮かんだ。
「なぁ、そんなに好きなら、フィーロはなんで魔女について今まで誰にも話さなかったんだ?」
もし、そこまで好きで色んな人に語っていたのなら、グレールの耳に入っていてもおかしくはない。
それなのに、グレールはツエバルでリュミエールに出会うまで魔女という存在すら知らなかった。
不思議に思い問いかけると、今まで楽しそうに話していたフィールの口元が下がり、輝いていた瞳は閉じられた。
「そうですね。話せたらどれだけ良かったことか……。いいですか、グレール。魔女についてはあまり外では言わない方がいいですよ。貴方の命のために、今後のために」
振り向き、フィーロは淡々とした口調で言い切った。
雰囲気が先ほどとは異なり、グレールは体を強張らせる。
「今後の、ため? どういうことだ?」
「魔女は、確かに素晴らしく美しい。ですが、それだけではないのです」
「それだけでは、ない?」
「はい。魔女は、一度人間によって滅ぼされているのです。魔女の村を、我々が仕えているオルレアン家が、滅ぼしたのです」
今の言葉に、グレールは強い衝撃を受けた。
「お、オルレアン家が? なぜ?」
「魔女は、人間ではありえない力を持つ。それは、底なしの魔力です」
「底なしの、魔力?」
魔力は、人それぞれ生まれた時から持っている。
だが、その量も様々。必ず、限界がある。
その、限界が、魔女にはないということを知り、グレールは目を見開いた。
「魔力に底がないということは、どういうことかわかりますか?」
質問の糸が掴めない。
グレールは、汗がにじみ出る感覚を感じながら首を横に振った。
「莫大な魔力を利用し、魔法で人間の世界を滅ぼせるのです」
フィーロから放たれた言葉に、グレールは冷たかった瞳に炎を宿し、怒りを口から吐き出した。
「そんなこと!! 魔女っ娘がするわけないだろう! 馬鹿馬鹿しい」
「そうかもしれません。ですが、その子に限った話ではないのです」
言い返そうと再度口を開くが、それより先にフィーロが話し出してしまったため、掠れた声は空へと消えた。
「人の中にも善と悪がおいででしょう? それと同じで、魔女の中にも悪がいると、数百年前のオルレアン家の王は考えたのです。そのため、騎士を総動員させ魔女の村を滅ぼした。魔女が牙をむく前にという考えだったらしいです」
話をすべて理解できず、グレールは歯ぎしりする。
拳を握り、怒りをどのように吐き出そうか考えた。
その様子に、フィーロはフッと息を吐き、柔和な笑みを浮かべた。
「この話には続きがあります」
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