第5話 油断

 魔石が埋め込まれている木の枝に座り、青空を眺める。

 これはいつもの日課、午前中は青空を眺め、昼は魔法の練習やクラルと話している。


 クラルとは、私の使い魔。

 魔女の中でも、使い魔を持っているのは珍しいと言われているみたい。

 私の場合は、村から逃げる時に親から預けられた。


『何か、悩んでいるのか、リュミエール』


「クラル……」


 三角帽子から聞こえる声。

 飾りとしてつけられているカードには、ピンクの猫が描かれている。


 声に反応し手を添えると、手にフワッとした感触が触れる。

 両手でフワッとしたものを掴み下ろすと、ぬいぐるみくらいの大きさのあるピンクの猫が、ジト目で私を見てきた。


 お世辞にもかわいいとは言えない見た目。この子が私の使い魔、クラル。

 見た目は猫だけど、強力な魔法を放つ時は、クラルがいないと私も魔法に飲み込まれて自我を失ってしまう。


 この子はもう、私の相棒。

 そして、親友。


『あの人間について、考えていたみたいだな』


「うん。変なんだもん。転生とか、私の魔法を見せてくれとか。意味が分からない」


 クラルを膝の上に乗せ、頭を撫でる。


『…………魔獣だ』


「え?」


 ――――ガァァァァァァァァアアアアアア!!!!


 西の方角、魔獣の声。


『悩んでいる時は、体を動かすのが一番だろう』


「――――そうだね。行こうか」


 魔石が埋め込まれている木は、魔獣に狙われやすい。

 私が、守らないと。


 体に浮遊魔法をかけ、肩にクラルを乗せ鳴き声が聞こえた方へと向かう。

 木をかき分け、風を切り向かう。


「――――見つけた」


 木々の間、クマのような巨体が歩いている。

 まだ、魔石の気配には気づいていないみたい。


 でも、このままほおっておくわけにはいかない。

 木の枝を蹴り、魔獣の後ろをとった。


「――――おっと、気づいたみたいね」


 私が後ろに移動すると、魔獣も振り返った。

 大きな爪を振り上げ、襲い掛かる。


「悪いけど、私、強いよ?」


 両親から受け継いだ、私と同じくらい大きい木製の杖に魔力を込める。

 横に薙ぎ払うと、放たれたのは水の弾。


 腹部に直撃、後ろによろめいた。

 すぐに背中へ移動する。もちろん、移動魔法を付与して。


「――――死んで?」


 杖を前に突き出し、炎魔法を繰り出す。

 左右に広がる、赤い炎。


 魔獣を炎が包み込み、悲痛の叫びが森に広がる。

 そのまま、バタンと地面に倒れると、額に埋め込まれている魔石を残して、灰となった。


 弱すぎる、つまらない。

 もっと、複雑な魔法を使っても大丈夫なような魔獣が現れてほしい。


『一瞬で終わったな』


「つまらなかったわ」


 赤い魔石を拾い上げ、太陽にかざしてみる。

 透き通るような、赤い魔石。


 透き通っているということは、中身はスカスカ。

 透き通るように綺麗とかだったらいいけど、これはそういうものではない。


 持っていても、無駄。

 地面に落とし、足で踏みつける。


 ――――パキン


「私の仲間達の魔力を、こんなことに使うなんて……」


 魔石は、もともとは私の先祖、魔女が作り出した石。

 長い年月、魔力を送り続けた石。


 その石は、他の石とも共鳴し、多くの魔石を作り出した。

 その魔石は、動物に埋め込むと魔力が体に送り込まれ、強化される。


 ただ、体が魔力に負けたら自我を失い、凶暴化してしまう。

 今のように、手当たり次第に襲い掛かってしまうのだ。


 魔石は一度魔力を送り込んでしまえば、もう使い物にならない。ただの石。


 私の足の裏で粉々になった魔石。いや、もうただの石。


『どうした、リュミエール』


「――――いえ、何でもないわ」


 何を思いふけっているんだろう。

 今更考えたところで意味なんてないのに。


 今、仲間のことを思い出しても、意味なんてないのに……。


『――――ん。リュミエール』


「なに、クラル」


『また、魔獣がこちらに向かっているぞ』


「え、また?」


 何処からだろう。今はまだわからない。


『ものすごいスピードだぞ!』


「今回の魔獣は、スピード重視の動物ということね!」


 杖を握りしめなおし、周りから近づいてくる気配を探る。


 ――――っ、みつけっ――……


 木々をかき分け向かってきた黒い物体。

 やばっ! 魔法を放つ余裕すらないっ!?


『リュミエール!!』


 クラルの声が聞こえたけど、もう黒い何かは私へと突っ込む!!


「魔女っ娘!!!!」

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