第4話 二つの性格

「あ、あの、離してください!!」


「あっ、わ、悪い!」


 無意識だったらしい。やっと離してくれた。


「はぁ、もういいですか? 私、忙しいんですけど」


 本当はすごく暇だけど、こうでも言わないと、この人はここから離れてくれないような気がする。


「そうだな。思っていた以上に長居をしてしまった」


 慌てたように太陽の方角を確認している。

 周りを見たかと思うと、また私を見てきた。


「君は、この森で過ごす魔女なのかい?」


「まぁ、ここしか住む場所がありませんので……」


 なぜ、そんなことを聞いて来たんだろう。


「それなら、この森に行けば君に会えるということだね。ありがとう!! また時間を見つけて来るとしよう!」


「わかりまっ――え?」


「ばいばい」と、手を振り去って行くグレールさん。

 思わず「分かりました」と言いかけてしまったけど、どういうこと? また来る? え?


「……………………え?」


 あの男、何を考えているの?


 ※


 グレールさんと出会ってから数日、また一人で過ごしていた。

 魔獣がたまに現れたけれど、私一人でどうにか出来る。


 今も、目の前には熊のような魔獣が私を赤い瞳で見下ろしてきている。


 二足歩行で、両手を振り上げる。

 私が小さいから、舐めているのかもね。


「でも、ざんねーん。私は魔女の中でも、強かったんだよ?」


 手に持っている、自分と同じくらいの大きさの木製の杖。

 右手に持ち直し、横一線に振る。


 そこから現れたのは、水の弾。

 複数作り出し、魔獣へと放つ。


 鋭い爪で叩き落すが、数が数。全てを弾くことが出来ず、体に突き刺さる。


「よしっ!」


 地面に倒れ、気絶。

 魔獣の額に埋め込まれている魔石を取り除くと、ただの熊。今日の食材ゲットだぜ!!


 ――――パチパチ


 魔獣を倒すと、後ろから拍手。

 振り向くと、そこには一人の男性がいた。


 紅蓮の瞳、口元に浮かぶのは笑み。


「お見事だ、魔女っ娘」


「その言い方やめてください、グレールさん」


 後ろから歩いて来ていたのは、数日前、私を追いかけまわした転生騎士、グレールさんだった。

 私の前まで移動してきた。


「仕方がないだろう。名前、教えてくれないのだから。呼び方がわからないんだ」


「だからって、魔女っ娘はやめてください。他の呼び方でお願いします」


「それなら、マジョリーナ?」


「ダサい」


「酷い!!」


 落ち込んでいるグレールさんの後ろから、数人の騎士が現れる。


「グレールさん!! 待ってくださいよ!」


 騎士の仲間かな。

 目を丸くしていると、グレールさんが私を隠すように振り向いた。


「済まなかった。少し急ぎの用があってな」


 ・・・・・・・・・・???????


 え、誰?

 なんか、さっきまで犬みたいな人だったのに、振り向いた一瞬で、空気と表情が変わった。


 キリッとした表情、星がキラキラと放たれている。

 まるで、王子様のような――え、誰?


「急ぎの用、とは?」


「いや、何でもない。もう少ししたら行く。先に目的の場所に向かってくれ」


「わかりました!」


 そのまま、後ろから来た騎士達がいなくなる。

 完全にさっきの人達が見えなくなると、クール皇子っぽかったグレールさんが、また笑顔で振り向いた。


「今日は用事があって寄っただけだから、もう行かないといけないなぁ、ありゃぁ」


 頭を掻き、苦笑い。

 グレールさんって、二重人格?


「――――ん? どうしたんだ?」


「さっきと今とじゃ、なんか、表情が違うなと。あと、空気感がまるっきり違うのですが、どっちが本当の貴方なのかなって思っただけです」


「真顔でそんなことを……」


「たはは……」と、困ったように今度は眉を下げてしまった。


「んー、どっちが本当の俺かはわからないが、どっちも本当の俺だぞ?」


「でも、全然空気感が違った……」


 今は元気活発で、幼い感じ……は、少し言いすぎか。

 でも、さっきは、本当に違った。


 紅蓮のような瞳は冷たかったし、表情は硬かった。

 口調もパリッとしていたし、硬い。


 今とさっきとじゃ全然違う。

 どっちも同じグレールさんって感じしない……。


「あっ、疑ってんな?」


「フギュ!!」


 は、鼻をつままれた!!


「まぁ、確かに違うかもな。今の俺は、転生前の俺。騎士達の前は、グレールとしての俺なんだ」


「性格を変えているということですか?」


「というか……。そういうキャラ付けをされてしまった……」


 なんか、遠い目を浮かべてる。

 転生という物を通して、色々あったんだ。深く聞かないでおこう。


「それじゃ、今度こそ俺は行くな」


「はい」


 私から離れ、歩き出す。

 本当に、少し寄っただけなんだ。


「あっ、そうだ」


「はい?」


 また、肩越しにこちらを振り向いた。なんだろう。


「君の魔法、もっと見せてくれ。また来る」


 それだけを残し、今度こそ歩き出す。


「…………魔法?」

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