第3話 転生騎士

 ずっと追いかけ続けられている。

 これ以上スピードを速くすることが出来ない。


 まずい、このままだと人間に魔石のありかを見破られてしまう。

 迂回するか……でも、意味なんてないだろう。


 後ろを見てみると、息を切らしていない人間。どういう身体能力をしているの、魔女である私についてこれるなんて……。


 あの人こそ化け物じゃない!?


 絶対に逃げ切れない。あんな化け物に。


「ま、待ってって!! 何もしないから!!」


「何もしないという言葉を信じると思いますか!?」


「思う!!」


「勝手に思わないでください!!」


 ――――っ、今、笑った?


 あ、人間が木の枝で立ち止まった。

 やっと、諦めっ――……


 ――――パチンッ


 指を、鳴らした?


「――――っ!?」


 背後、影が!!


「――――紅蓮の、炎」


 振り向き、最初に目に入ったのは、人間の瞳と同じ色の炎の壁。


 やばい、勢いを止められない!!

 炎に突っ込む!!!


「水とともに消え去りたまえ!!」


 咄嗟に水魔法を発動。地面から噴水のように溢れ出る水により、炎の壁は消火出来た。


「はぁ、はぁ……」


 なに、今の炎魔法。魔力を大量に持っていかれた。

 炎の壁は決して難しい魔法でも、強力という訳でもない。


 それなのに、息を切らすほど、魔女の魔力を持っていくなんて……。


「なぁ、今、俺の魔法を相殺したのか?」


 隣から声、向くと枝の上に立っているさっきの人間。

 目が合うと、ニコッとほほ笑みを浮かべて、私の腕を掴ん……で、る……。


「話し、聞かせてくれないか?」


「…………」


 もう、どうにでもなれ……。


 ※


「へぇ、魔女。魔女なんて言う概念がの世界には存在するんだな」


 何故か私はこの人間、グレールと共に居る。

 魔石が埋め込まれている木に近付かせるわけにはいかないから、今は魔獣が現れた所まで戻り、木に寄りかかっていた。


 その時に聞いたのは、名前と、オルレアン家の騎士であること。

 あとは、絶対に私を攻撃しないという約束。


 私も、私のことを言ってしまって。気まずい……。

 でも、私の気持ちとは裏腹に、この男はケラケラと笑う。


 何なんだろう、この男。読めない……。何を考えているんだろう。


「あの、オルレアン家の騎士ということは、ツェダリア国出身ですよね?」


「ん? 出身地はまた違うが……。いや、一応、ツェダリア国と言っていいのか……」


 ? 出身を聞いたら悩んでしまった。

 ……そう言えば、魔獣と戦っている時、変な言葉を聞いたような気がする。



 ――――魔獣よ、俺は転生してチート級の能力を手に入れた騎士。この力を使うのは、正直快感だ。だから、俺の娯楽に付き合ってもらうぞ


「……あの、一つ聞いてもいいですか?」


「なんだ?」


「転生って、何ですか?」


 聞くと、グレールさんは目をパチクリとし、私を見て来る。


「あー、俺、魔獣と戦うとき口にしていたか……。一人だと思っていたから油断したなぁ」


「あはは……」と、頭を掻き顔を逸らした。

 なにか、聞いてはいけないことを聞いてしまったのだろうか。


 首を傾げていると、グレールさんは横目で私を見てきた。


「えぇっと、これから話すことは口外しないって約束してくれるか?」


 手を合わせお願いして来た。

 一応、頷く。話す人もいないしね。


「俺、実は中身、この世界の人じゃないんだ」


「――――ん?」


「君は、転生という言葉の意味を知っているかい?」


 聞くと、この男、グレールは元は違う世界で生を灯し、生活していたらしい。

 その時の名前はグレールという横文字ではなく、土屋喜也 つちやきなという名前らしい。

 地面に書いて教えてくれた。


 それで、土屋喜也 つちやきなは、とらっく? という乗り物にぶつかり死亡。

 次に目を覚ましたら、この世界に生まれていたらしい。


 代々オルレアン家の騎士として引き継いできた家らしく、よくわからないうちに騎士の訓練を受け無事に入隊。

 転生した時、チート級の力を手に入れて今では騎士の中でも位が高い位置に属しているみたい。


「へぇ……。人生って、まだまだ分からないことばかりね」


「俺もさすがにビビった。それにしても――……」


 ん? なんで私、見られているんだろう。


「俺の話、信じてくれるんだな」


「え、信じている訳ではないですよ」


「あっ、そ、そりゃ、そっか……」


 あ、顔を逸らされてしまった。


「まぁ、信じられる話じゃないしな」


 なんか、落ち込んでる。

 この人が落ち込んでいても、特に私には関係ない。けど、なんとなく心が抉れるし、勘違いしないでほしい。


「あの、私は別に、信じないとは言っていないです」


「え? でも、信じている訳じゃないって……」


「信じてもいなければ、信じていないわけでもないです。私からしたら、貴方が転生者でも、そうじゃなくても、関係ないので」


 転生しているからって、私に影響があるかないか。

 確実にない。だから、気にしていないだけ。


 それを伝えたつもり、確実に拒絶の意を見せたはずなのに、何故かグレールさんは目を輝かせ、私を見て来る。


「あ、ありがとう!!!」


「な、何が!?」


 なんか、勢いのままに両手を掴まれたんだけど!?

 な、なんで、なんで私は感謝を言われているの!?


「そんなこと言ってくれたのは君が初めてだ! 本当に嬉しいよ!」


 い、意味が分からない。

 本当に、わからない。


 なんで私、感謝を言われているの!?

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