第5話
雅季が久賀をマンションから無理やり連れ出すと、久賀は眩しげに目を細めて、サングラスをかけた。
停車している車まで戻ったが、久賀は乗車せず、助手席のドアに腕を組んで凭れた。何やら思案にふけっているようだ。
雅季は車のドアを開け、車内にこもった熱気を逃した。
久賀が今どんな表情をしているのか知りたかったが、あいにくその目はサングラスに隠れて見えない。
久賀は、おもむろに電話をかけ始めた。さっき間に合わずに切れてしまった相手のようだ。
久賀の、対応する声は事務的だったが、まだ緊張と苛立ちは十分に伝わってくる。なぜか雅季は自分が責められているように感じた。
雅季もスマホでメールをチェックした。青鞍からショートメールが入っている。
いい情報だ。児相(児童相談所)の職員が過去に二度、須田家を訪問していた。
久賀に知らせようと、顔を上げた。だがまだ電話中だった。久賀の横顔は、苛烈な暑さを感じさせないほど涼しげだ。そのまま見惚れてしまう。
確かに、先ほどはもう少し須田善行に突っ込んでみるという選択肢もあった。
だが、もし、父親があと一言でも仁美を詰るような発言があったなら、久賀がどうなっていたかわからない。
そうなったら、きっと自分一人では彼の暴走を止められなかっただろう。
とは言っても、雅季は彼が暴走したところを一度も見たことがない。いつでも冷静で、感情をうまくコントロールしている。
しかし、以前共同捜査をしていた時に、稀だが行き過ぎと感じた言動があったことも事実だ。それは自分への彼の想いを告白されたことも含めて。
そんな彼を知っているからこそ、先ほどの父親への不用意な発言は聞き逃せず、また、彼の緊張が極限まで張り詰めているのを肌で感じた。
もし相手に容赦なく挑んだ時、自分一人でそんな彼を抑えられるかどうかは自信がなかった。今、須田両親への心象が悪くなれば、捜査はやりにくくなる。
今日の引き際のタイミングは、間違っていなかったはずだ。
雅季は、その緊張の糸が切れる前に連れ出せたことに内心安堵していた。
電話を切ると、久賀は雅季に向き直って言った。
「すみません。庁舎に戻ります」
「わかりました」
車に乗り、雅季はエアコンを強めに調整した。生暖かかった風が、だんだん冷えてくる。
「今の電話、事務官の柏木さんでした。新楽部長が至急私に話があるということなので」
新楽——中継ぎの検事。彼の女上司。
「あの、それは後ではダメですよね」
「残念ながら。すみません」
このまま一緒に署に戻り、筋読みをするつもりでいた雅季は、無意識に声に不満を滲ませていたのだろうか。久賀は眉尻を下げてもう一度謝った。
「でも、事件の報告ならまだ何も……」
「その件ではないと思います。ただの挨拶だと思いますよ。私が出歩いているのも良しとしてないのかもしれません」
シートベルトを締めて、車を発車させた。
「捜査なんですけどね。まあ、確かに久賀さんは検事にしては自分で動きすぎですけど」
「まだお互いよく知らないという点では、そこも一度話さないと色々誤解を招きそうですね。上は部下の行動に責任がありますし」
「理解してもらえるといいですね」
一般的に、検事が独自で捜査会議に出たり、捜査に同行することは珍しくはない。
だが、まだ手探りの段階で警察の艦どりにまで付き合うというのは、目に余る行為とされても仕方ないかもしれない。
警察の捜査の粗を探し、それを指摘し、指導するのが検事の役目の一つなのだが、それは地検の調べ室で警察の報告を精査して十分にできることだ。
久賀もこの事件以外にも他の案件をいくつも担当しているのだし、こんなふうに刑事と一緒になって勝手に動き回られていては、上司に咎められても仕方がないかもしれない。
「私の捜査に篠塚さんを連れ回している、とは見てもらえないですかね」
「それは無理があるでしょう。あ、道混んでますね。少し時間かかりますよ」
「大丈夫です。ところで、どう思いました? 須田夫婦……」
久賀はいきなり話題を変えた。その声音から彼が、二人を重要参考人になる可能性があるかを尋ねているのだと悟った。
雅季は目の端で久賀を見た。彼は、スーツから手帳を取り出すところだったが、その横顔は真剣だ。
「一応、二人のアリバイを調べる必要はありますが、たとえ父親を疑うとしても、見た感じではあれだけの暴行を、何日も加えられる体力と精神力があるとは思えません」
雅季の脳裏に、善行の様子が浮かぶ。Tシャツから出ていた腕は、筋肉が落ち、骨ばっていた。手の甲などに痣なども見当たらなかった。暴力には力がいる。
もし、善行が娘を素手で殴っていたなら、彼の拳にも痣が見当たらないのはおかしい。
そして、あの遺体の状態から判断して、暴行は何日も繰り返されたと思われ、それには相当の精神力を必要としたはずだ。
あの両親に、娘へのそこまでの憎悪があったのか。「親の言うことを聞かない」だけで命まで奪うような動機につながるとは思えない。
あの母親の投げやりな態度から、殺人に至るまでの気力はないと、雅季は考えていた。
交差点で信号が変わり、停車させる。
「それに、万が一動機が娘への怒りだとして父親が殺害して、その先の行為に及ぶ理由がわかりません」
雅季は自分で言いながら、口にしたことを後悔した。
久賀は手帳にペンを走らせながら「確かに」と呟く。
「遺体を運ぼうにも須田家には車がありませんし。売ったって言ってましたよね。ですから、共犯者の線もちょっと考えにくいですね。あまり目立つようなことはしないと思うんです。……あと、過去に二度ほど児相が来てますから、それなりに近所の目など気にしていたのではないかと」
「それは?」
久賀が驚きの表情で、雅季に向いた。
雅季は内心含み笑いをし、青鞍からのメールの内容を伝えた。
「なんだか、須田仁美の方も一筋縄じゃいかなさそうですね」
久賀が口を挿んだ。青信号になり、車をスタートさせる。
「金銭が絡んだトラブル、とかでしょうか」
「具体的に?」
「……それは、まだわかりませんけど。可能性の一つとして、です」
雅季は須田家の逼迫した経済状態にはあまり触れたくはなかった。今の厳しい生活を強いられていることに、彼らに責任はない。
「ドアの錠はどうでしょう。付けなければならなかった理由は? そしてなぜ壊されたのか」
久賀が話の矛先を変えたので、雅季はホッとした。
「それは……、やはり父親がらみですかね。あと、きょうだい間では喧嘩が絶えなかったと言っていましたから、自衛、とか?」
「錠をつけるほど、追い詰められていたってことですか。篠塚さんはどう思います?」
「殺人に関与しているセンはなさそうですが、何かあの家族は何かありそうですね。今日の様子だけでは具体的に何が、とは言えませんが。それがわかれば、仁美の行動も見えてきそうな気がします」
「父親が何か隠していそうですね。ああ……だから、さも娘に失望していたかのように侮辱したとか?」
久賀はどうも、父親に固執しているようだ。
「演技、ですか? 一応、須田善行にはDNA鑑定も受けてもらおうと思いますが、おそらくシロでしょう。たとえあの家が現場だとしても、一緒にいた母親が精神的に先にまいりそうな気がします。娘の素行が本当にどうしようもなければ、二人が強く結託していたかもしれませんけど」
「あと、娘の性交渉の現場を目撃したという話」
「そこまで具体的には……」
「篠塚さん、そういう意味で確認したんでしょう。それに、異性と部屋で仲良く喋っているだけで父親は『手がつけられないほど』荒れないと思いますけど。要するに、この事件は顔見知りの異性関係のトラブルという可能性もアリですね。あ、なるべく早くその相手も確認してください。しかし、それだけで娘をそこまで憎みますかね」
「そうですね……。あ、思ったより、早く着いてよかったです」
雅季は前方に見えてきた検察庁の建物に、久賀の注意を向けた。
露骨に話題を終わらせたのを、久賀は多分気がついている。
いくら彼が有能な検事だとしても、三十という若さでは、彼が親の気持ちに納得いかないのも理解できる。久賀がこれまでに、事件で児童虐待を扱ってきたとしても、だ。
しかし、目の前で性行為を目撃し、相手の男を責めるならともかく、自分の娘を不良呼ばわりするだろうか。裏切られた、という気持ちに憎悪が増したのだろうか。
「久賀さんはそう言いますが、実際それを目の当たりにしたら普通の父親にはきついと思いますよ。だから、憎む……、それを含めても、手に余ってコミュニケーションが取れていなかったのかもしれません」
久賀は重い溜息をついた。
「そんなものですか」
雅季は、それに答えなかった。
雅季は小学五年生の時、暴行未遂に遭っていた。下校中、家の近所で男に路地裏に連れ込まれ、拘束されて自由を奪われた。無抵抗な体を撫で回されたのだった。後日、犯人は逮捕されたが、両親は怒りはしばらく消えることはなく、世間の目や、トラウマから全力で彼女を守った。
もちろん、両親は犯人への怒りを露骨に雅季に見せたことはないが、子供ながらに、その負の感情は痛いほど感じていたのだった。
**
久賀が帰庁し、自分の検事室に寄って鞄を置いたあと、事務官の柏木弘に断って、そのまま同じ階にある次席検事の部屋へ向かった。
元、奈須次席の部屋だ。
ドアをノックし、返事を聞いてから入室した。机に向かって書類を読んでいた新楽が顔を上げる。確か、歳は五十前後。耳にかかるくらいのショートカットの髪、化粧に派手さはないが、はっと目を惹くものがある。紺色のスーツに身を固め、一部の隙も感じられない。
新楽は机の前に立つ久賀を見て微笑した。目元の皺が目立つが、それでもずっと若く見える。
「忙しいのに呼び出して悪かったですね、久賀検事。
新楽は応接セットの方へ久賀を促した。彼女もファイルを片手に立ち上がる。
革のソファの座り心地は良いが、緊張をほぐすほどではない。樫の一枚板のテーブルを挟んで向かい合った早々、新楽が口を開いた。
「一つ聞いておきたいことがあります。久賀検事は、正直に答えてください」
久賀はやや身構えるが、相手は微笑し、続けた。
「検事は、この中継ぎに不満がありますか」
相手の意図が読めず、久賀は眉をひそめた。——彼女は何を引き出すつもりだろう。一瞬考えを巡らせても、何も思い当たらない。正直に答え、相手の出方を見ることにした。
「いえ、何も問題ありません」
「よかった」
予想通りだったのか、口元はまだ微笑んでいたが、腹の中はわからない。検事という職業上、相手に感情を読まれるようではいけない。
「では本題に入りましょう」
新楽は透明なマニキュアを塗った指で、ファイルを開き、パラパラとめくった。
「久賀検事の過去、現在の仕事にはざっと目を通しました。新任明けは横浜だったのね。今年で六年目。噂通り、ずいぶん優秀なようで安心しました。奈須次席が重宝していたのも納得するわ。ずいぶん捜査は綿密なようですね。見かけによらず執拗というか、容赦ないというか。……あら、失礼」
「いえ、真実の追求に関しては、そうですね。手抜き捜査で、弁護士にひっくり返されるのは嫌なものです」
新楽は頷いた。
「そのためには手段を選ばない。単独プレーが目立つのは……そのせいかしら」
ああ、そういうことか。
久賀はこの会話の矛先が、どこへ向いているのか見えた気がした。刹那、新楽が鋭い口調で切り込んできた。
「検察官、一人一人が独任性の官庁として単独で捜査できることは百も承知です。しかし、上への報告を怠ることは、奈須さんや他の部長は大目に見ても、私にまで、それを期待してもらっては困ります。私は検察官として特に秩序守ることを重んじてここまで来ました」
この手の駆け引きは苦手だ。久賀は内心ため息をついた。
自分が仕掛けるなら話は別だが、相手は上司で、立場から不利だ。
それに薄々と感じてはいたが、相手はどうやら、自分の奔放な動向が気に入らないらしい。仕事で十分な結果は出しているはずだが、それ云々よりも、秩序ファースト……か。
久賀と新楽の視線が正面から交錯する。久賀は視線を外さずに、口を開いた。
「それは奈須次席への評価ですか? それとも私に何か至らないところがあるとおっしゃりたいのですか」
「そのどちらでもありません。ただ、私がここに来た以上、検事として目に余る行為は無論、制限されると承知しておいてください」
「わかりました」
それ以外の答えはない。
「私の期待を裏切らないでくださいね」
その一言で、久賀は新楽が、全てをコントロールするタイプだと判断した。
「それにしても、鳴海東署も、検事をこき使うなんて、検察をよっぽど暇だと思っているのかしら。全く、神経を疑いますね」
『新』上司は、ファイルを閉じて背筋を伸ばした。
「で、鳴海東署の様子は?」
突然話が変わり、久賀は一瞬戸惑った。
「今回の事件ですか?」
「それも、ですが、とりあえず私が聞きたいのはどんな集団かということです。とりあえず捜査課ね。噂だけで概要が全くわかりませんので。その辺りは久賀検事が詳しいかと」
新楽は微笑しているが、目は笑っていない。
——どんな集団? 警察は警察だろう? それに噂って何だ。
久賀の頭に疑問符がいくつも浮かぶ。久賀はやや身を乗り出した。
「お尋ねなのは、今回の事件のことではなく、捜査課自体のことですか」
「検事が同じことを二度聞くなんて、ちょっと驚きだわ」
久賀は相手の挑発を無視した。
「そうですね……、帳場もたったばかりですし、初動でなんとも言えませんが、組織としてチームワークはいいと思いますし、捜査に粘りがありますから、人員不足を除けば、今のところは問題ないと思います」
そう願いたい、というのが実は本音でもあり、願いであった。
「問題ない……? 本当に?」
新楽の笑みが広がった。久賀は嫌な予感に身構える。
「面白いわね。ちょっと聞き齧ったところでも鳴海東署の課員は、問題ばかりという印象なのだけど。田舎の所轄ということを大目に見ても」
何を仄めかしているのだろうか。先が読めない。
新楽は何かを掴んでいて、久賀に吐かせるよう、感情を煽る言葉をわざと選んでいるのかもしれない。
沈黙している久賀から、新楽は思わせぶりにファイルに目を移した。
「定年間近の署長、副署長はともかく、まず始関警視、それもキャリアでありながら所轄の係長のポストで甘んじているのも理解できないし、それ以下は……」
上司はそこで一拍おき、久賀の反応を伺う。だが、彼が黙っていると、話を続けた。
「だいたい、どうして久賀検事が欠員の穴埋めになっているんですか?」
「鳴海は人が足りないんです。穴埋めではありません。検事が捜査に加わっても全くおかしくないでしょう。的確な指示があれば、それだけ早く解決に近づきます。だいたい、こうしている間も、犯人は野放しです」
「それはいい。でも、この篠塚巡査部長ですが、以前、性暴力の被害者で心療内科に通っていたって聞きましたけど、捜査能力の方は大丈夫なのかしら」
同じ女性として、決して彼女を心配しているわけではない。相手の声音と表情で久賀はそれを容易に読み取ると、胸がむかついた。
感情を押し殺し、平静を装う。すでに身についた
「……全く問題ありません」
そんな久賀の動揺を見透かしたように、新楽は微笑した。
「どうでしょうね。トラウマを抱えているような精神的に不安定な人って、ここぞという時に使えないですから」
「篠塚巡査部長は良い刑事です。実績もあります。篠塚刑事の今日までの勤務態度は、警察の鏡とも言えるのではないでしょうか」
「警察の鏡」
新楽の笑みが消えた。久賀は、ここからが本題なのだと、身構えた。
「それは、今まで運が良かったんですね」
「運も実力のうちとはよく言いますね」
「やはり、噂は本当のなのかしら。久賀検事が篠塚刑事を庇うってことは」
「噂?」
やはり、新楽は久賀を牽制するネタを掴んでいたのだ。
これまでの茶番に、久賀は馬鹿馬鹿しさと同時に怒りを覚えた。
「久賀検事と篠塚刑事がお付き合いしていると。部下のプライベートに関与するつもりは全くありません。あくまで噂だと言われればそれまでですし。ただ、捜査に公私混合は感心しない、という話です」
噂が真実を凌駕する、というのは今までの人生経験からも否定できない。
久賀自身、その噂を全く知らなかったわけではなかったが、それがすでに新楽の耳に入っているとは驚きだった。
「私たちは、そういう関係ではありません」
まだ——、と心中で付け加える。
新楽は怪訝な表情で、久賀を見ている。
「お互いをよく理解し合える、ただそれだけです。噂は、噂でしかありません」
新楽は、「ふん」と喉を小さく鳴らし、ソファーの背に凭れた。
「久賀検事。あなたは根本的に間違っています。あなたが警察を理解する必要はありません。彼らをちゃんと働かせる。それが私たちの仕事です」
「私は警察と違う視点で捜査を見れます。共同捜査は、捜査の進展に大きく役立つと思っています」
答えながら、久賀自身、新楽に対する自分の忍耐に感心していた。
「だいたい、案件はそれだけじゃないでしょう? 検察が有罪を勝ち取るために警察が貢献する。我々は彼らから報告を聞き、有罪までの緻密なストーリーを描き、足りない証拠を集めさせる。取調室で事足ります。それを忘れないでくださいね。ああ、本当に私がここにきて正解」
新楽は、長い前髪を耳にかけた。
「では一応、今回の事件の概要を聞いておきましょうか」
テーマが変わって久賀は心底ホッとした。それでも、新楽に対する不信やわだかまりは消えていない。
久賀は、気を取り直して、捜査の進捗を報告した。
「父親の容疑が濃いのでは? すぐに事情聴取しなかったんですか?」
「一応、母親からは大体のことは聞き出せたので、それに、娘さんを亡くした直後ですから、また日を改めてと思いまして」
父親への嫌疑は、雅季と意見を交わしてからは、ほとんど薄れていた。
「重要参考人にするには今の段階では早すぎですし、明日あたり、警察が動くでしょう」
「そう」
新楽は腕を組んで思案するように目を伏せた。すぐに顔を上げる。
「すでに関わってしまったのだから、この件は久賀検事に配当しますが、逐次報告は上げてください。そして、検事の自覚を忘れず、節度ある行動でお願いします」
「心がけます」
久賀は頷いた。
「私の方はそれだけです」
久賀は立って、釈然としないままに軽く会釈し、ドアへ向かった。ただ、一刻も早く退出したかった。新楽から遠ざかりたかった。
ドアノブに手をかけた時、「久賀検事」、新楽が呼び止めた。
久賀は背後に首を巡らせた。
「はい」
「もう一つだけ。久賀検事はかなり長身だし、スーツにその束ねた長髪はとても似合ってますね。これはわたしの個人的な推測だけど、検事、女性にすごく人気があるでしょう」
久賀は今度こそ話の先が読めずに困惑し、じっと相手を見つめた。
「でも、その髪……。客観的に見ると、どうしても検察官の秩序が守られているとは思えません。切った方がいいと思います」
新楽はにっこりと口角を上げたが、その目には有無を言わさぬものがあった。
久賀は一瞬止めていた息を吐き、答えた。
「わかりました。善処します」
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