魔王アスラ、現代の魅力に取り憑かれる
人間のメスに手を引かれながら歩くこと数分。
道すがら見かける空飛ぶ箱(メスは車と言っておった)やら、デバイスとか言う変な板を触ってる人間やらでお腹いっぱいになりそうじゃったが、何とかメスの家らしき場所へ辿り着いた。
正直これが今まで見かけた奴よりも驚いたんじゃが・・・。
「な、なんなんじゃこの建物は」
妾の視線の先には、横に大きく広がる巨大な建造物。
空を衝く程の高さはないが、広さで言えば間違いなく我が魔王城に匹敵する程の大きさを誇っておる。
「ふふっ、私でも迷子になりそうな位広いんですよ。今朝も大学に行くのに手間取っちゃって・・・」
「そりゃそうじゃ。大学?とやらは知らんが、こんなに広ければ迷うのも当然じゃろ」
にしてもこやつ、ここまで広い建物を所有しているとは、もしやかなりの金持ちか?
今まで出会ってきた人間のメスにしてはおっとりしている印象があるが、それが貴族や王族関係の者ならばこの危機管理のなさは納得できる。
にしても一体何人の使用人がいるのやら。
「うふふ、分かりますか?私以外誰も居ないのに、あんまり広すぎて嫌になるんです」
と思ったら一人で住んでおるらしい。
見渡す限り殆どこの広い建物の私有地っぽいんじゃが、こんな広い建物に一人とか寂しくないんじゃろか。
「んなっ!?ひ、一人で住んでおるのか?・・・理由は聞いても良いのか?」
「うーんと、あんまり小さい子に話す内容じゃないので。ご、ごめんなさい」
「・・・そうか」
そう言って心底申し訳なさそうに微笑むメスに、少しいたたまれなくなる。
妾も広い場所にポツンと一人でいるのはあまり好きではないからな。ここを売り払えば多少の金にはなるだろうに、誰も人を雇わずに一人で住んでいる辺り大体察しがつく。
大方、肉親の形見なんじゃろうな。
小さな魔力溜まりから生まれた妾、親という存在がいない。それゆえあまり共感は出来ぬし、失った悲しみとやらも分からぬ。だが気持ちだけは、少しだけ理解出来る。
形は違うが、妾にだって部下や使用人がおるからの。
「す、すみません。何か気まずい空気にしちゃって」
「よせ、その程度で気を悪くするほど妾も狭量ではないし、気になるからと言ってそこまで詮索はせぬ。それにしばらくお世話になることじゃしのぅ」
「えへへ、ありがとうございます・・・って、暫くお世話になる?ど、どういうことですか?」
妾が自信満々にそう言うと、人間のメスは不思議そうな顔を浮かべて問うてきた。
哀しんだり不思議がったり喜んでいたりと中々反応が面白い奴じゃし、悪い奴ではなさそうじゃ
それに妾の活動拠点としてこの屋敷は都合が良いし、ここでぐうたら・・・ではなく、この地を征服してみるのもありじゃな。
む、別に支配しなくてもよい?何を言っておるニャー介よ。無断で城を抜け出して雑務を全てメルフェージュに任せておるのに、なんの成果もなければ妾が怒られてしまうぞ!
というわけじゃ。少なくともここを妾が利用するために、このメスに取り入らなければならぬ。じゃがそう簡単には行かぬであろうことは、魔王的直感で分かる。
───ふっ、出すしかないな。あの“技”を。
妾はほくそ笑みながら、丹田に力をググッと込めて喉の調子を整える。
これは、我が国では禁術である。
魔王城が誇る四天王すら一度でダウンさせ、メルフェージュは数秒もしないうちに陥落。
たまーに城にやってくる人間どもにこの技を使った時は、一分も経たずに胸を抑えて地に伏せていた。
さぁ、いざ放たん。これこそが妾の真骨頂───ッ!
「え〜?わらわぁ、“お姉ちゃん”のこと気に入ったのじゃ♡じゃからもう少し一緒に居たいのじ・・・居たいなぁ〜♡」
───全力で甘えるっ!!!
・・・ん?いや何もおかしいことでは無いぞ。
実際に試した時は四天王達も一瞬で言うことを聞いてくれたし、妾がわがままを言い過ぎてメルフェージュが拗ねた時に使えば瞬く間に機嫌が良くなる魔法の言葉じゃ。
「ッ!そ、それならしょうがないですねぇ〜でへへ。あっ、でもご両親に連絡とかは?」
ちょろい。このメス、見た目通りちょろい!
取り敢えず嫌な顔はされておらんから、後は親の存在をどうするかじゃが・・・遠くの方におることにするのが一番かの。
「あ〜、ちょっと遠くの方にいて会えないんじゃ」
「そう、なんですか。いつ頃帰ってくるとかは?」
「それは分からん。それどころか今後帰ってくるかどうかも分からぬがな」
「───そ、それって」
妾がそう言うと、酷く悲しそうな顔で口元を抑え出した。何事かと思って顔を覗き込めば、いきなりガバッと抱きしめられてしもうた。
え、なんじゃこの状況?
なんでいきなり泣いた?そしてなんで抱き締められているんじゃ妾。
びっくりして抵抗できんかったせいで、思ったより強く抱き締められてしまっておる。ぬ、抜け出せん・・・。
「おい待て、少し落ち着くのじゃ。妾何かおかしなことでも言ったかの?」
「だ、だって。遠い所にいて今後帰ってくるかも分からないって・・・しかもこんな小さい子を置いてなんて、きっともうご両親は・・・うぅ」
「あー、そういう事かぁ(小声)」
これ妾の親が死んだと思われてるな、間違いない(遠い目)
そりゃここまで心配されるし、抱きしめて泣かれるわけじゃ。
人間たちのこと嫌いじゃけど少しだけ胸が痛いし苦しい、物理的に。
きつく抱き締められておるから窒息死しそうじゃ・・・ええいこの
「ぬぅ・・・なら、妾と一緒に住んでみぬか?ちょうどいいことに住む場所もない故、誰かの家に居候しようと考えとったところなんじゃ」
「住む場所がない・・・?うぅ、勿論いいですよぉ!こんな小さい子に出てけなんて言えないですぅ!!!」
「うぶっ、ぐるじぃ」
更にきつく抱きしめられてしもうた、死ぬぞ妾。
───☆
「はい、これがキッチンです」
「は?デカすぎじゃろ」
───☆
「はい、これがお風呂です」
「は?クソでかい力士でもおるんか?」
───☆
「はい、これがアスラちゃんの部屋です」
「・・・魔王城にあった妾の部屋より広いんじゃが」
───
──
─
「どうですかアスラちゃん、大体場所は分かりましたか?」
「あぁ・・・」
あれから全部見回るのに一時間は掛かった。
ある程度見なくてもいい部屋を引いて、一時間じゃ。
一部屋ずつまわる度に部屋の広さと設備の良さに驚きと敗北感がずっと付きまとうし、名前を教えたら嬉々として呼びまくるしで、精神的にかなり疲れたのじゃ。
大体なんなんじゃ、勝手に料理してくれるキッチンじゃとか、絶対零度で完全に保存出来る冷蔵庫?じゃとか、勝手に服を洗って乾燥してそのまま畳んでくれる機械じゃとか・・・技術力が違いすぎて倒れそうになったわ。
あとこやつの名前じゃが、どうやら『
「ふふ、疲れちゃいましたか?」
「うむ。正直ここまで広いとは思わなんだ」
「我ながらそう思います。結構寂しいんですよ?こんなに広いのに、住んでるのは私だけ。お帰りもただいまもなくて───でも、今日からアスラちゃんが一緒に居てくれるので、寂しさも吹っ飛んじゃいました!」
「そうか。なら、妾も遠慮なくお邪魔してやるのじゃ・・・って、お主!いつまでアスラ“ちゃん”等と呼んでおる!もっとこう、アスラ様とかアスラ殿とかあるじゃろうが」
「え、でもアスラちゃんの方が可愛くないですか?」
「むぅ!」
こやつめ、何故この妾の偉大さが分からぬ!?
幼くも色気のある顔、聞くものを蕩けさせる艶やかな声、抱き心地のある柔らかな肌、そして何者にも負けぬウルトラスーパーつよつよ魔王ぼでー。
どう考えても偉大じゃろ。
しかしこの短い間ではあるが、草菜のやつはどこかのほほんとしておる。有り得ないかもしれぬが、もしかすれば妾の正体に気付いていない可能性もあるな。
どれ、ここは一つ詳細な説明でもしておくか。
「先程も言ったがな、妾の名前はアスラ。魔族の中でも15000年以上も生き、史上唯一の魔王の称号を得た上で無敗を貫き通した最強最古の魔王ぞ?この魅惑のぼでーに絆されたか知らんが、とっっっっても偉くて強い魔族なんじゃからな?」
「魅惑のぼでーですか・・・?それに魔王・・・?よ、よく分からないですけど、アスラちゃんが可愛くていい子なのは分かりますよ!」
「・・・嘘じゃろ」
なんじゃこいつ、無敵か?
妾の情報筋によると人族ならば絶対に知らんやつはおらんはずなんじゃが、もしかして妾ってそんなに知られてないとかか?
それなのに自信満々に経歴を誇った挙句、ドヤ顔で偉いんじゃぞ!と宣っていたとしたら・・・待て、恥ずかしすぎる。
結局その後、顔を抱えて蹲った妾を草菜が抱えて妾に当て振られた部屋へ運んで貰った。
ついでに初心者にはオススメと
最初のうちはこの箱みたいなものがそんな事出来るはずがない、と馬鹿にしておったのじゃが。
───
──
─
三日後。
「ふぉぉぉぉぉ!!!カナエたん萌えなのじゃぁぁぁぁ!!!!」
見事にスマホの虜にれなっておる妾がいた。
い、いや違うんじゃ。弁明させてくれ。
確かに最初は物凄く馬鹿にしていたんじゃ。しかしふと妾の認識が人間界でどうなっておるのか調べてみたら、『のじゃロリ魔王』じゃとか『性癖の詰め合わせパック』じゃとか『まおーあすらさま!』じゃとか馬鹿にされていたんじゃ!
しかもどんどん調べていくうちに、妾の絵を描いている者たちを見つけたのじゃが、何故か『ざぁ〜こ♡』と人間を煽るような絵が多かった。服装に関しても、それ殆ど紐じゃろ!みたいなツッコミどころしかないようなモノも多かった。
あのな、妾これでも沢山人殺しとるんじゃぞ?近隣の人間の王は妾を毛嫌いしておるし、なんなら妾も人間嫌いなんじゃが・・・なんでここまで人気なんじゃ?
アホなんかコイツら。いや、馬鹿なんじゃな。
妾は理解した。
故に妾は考えるのをやめる───という訳にもいかず、今度は魔王について調べてみた。
そうしたら出るわ出るわ、妾ではない創作のキャラクターらしきものが次々と出てきた。一瞬、この前首をへし折った殺した魔物の姿らしきものが見えたが、流石にあの強さで魔王なんて呼ばれるわけない・・・よのう?
まぁそこは一旦置いておくとして、あらゆる創作の魔王や大魔王の出処が気になった妾はアニメ?とかいう映像を見てみることにしたんじゃが。
「はぁ!?な、なんじゃその攻撃・・・ぐぬぬ、カナエたん頑張れなのじゃ!」
ネットの海に溺れたせいで完全に染まってしまった。もうスマホがない頃に戻れないのう(たった三日前)
そうそう、魔王からは逃げられないとか、魔王には第二形態があるじゃとかとんでもない情報が出回ってたのじゃが、これ妾も第二形態とか「それは上級魔法ではない・・・初級魔法だ」とか出来るようになった方がいい感じ?
後者は別として、妾に第二形態とかないんじゃけど。普通に考えてある訳なくない?でも戦ってる魔王がまだ変身を三回残してるとか絶望感あるから、それはそれで結構気に入っておる。
「アスラちゃーん、ご飯のお時間ですよー!」
今期最高と謳われる神アニメを心の底から楽してんでおると、下の階から草菜の声が響く。
ちょうどお腹も空いておった頃合じゃ。
よっこらせ、とジジくさく立ち上がって下へと降りた。
テーブルの上にはこれでもかと並べられた皿に盛り付けられた料理がわんさか並んでおる。全自動で料理してくれるキッチンのお陰で、食べたい物を言えば勝手に食材をお店から買って輸送して貰い、そのまま調理してくれるらしい。
うちの魔王城にも欲しい・・・。
「はいアスラちゃん、これフォークとナイフです。スプーンもあるから自由に使ってください」
「む?お、おぉ助かる」
草菜の奴から渡されたフォークとナイフを手に取り、いざ目の前に並べられたご馳走に手を伸ば───。
「はい、あーん」
───す前に、妾の口元へスプーンに乗った料理が運ばれて来た。
「・・・のう」
「ん?どうかしました?」
不思議そうに首を傾げる草菜。
「
「だめ、ですか?」
「・・・まぁよい」
フォークとナイフをテーブルに置き、餌を宛てがわれた雛のように口を開ける。草菜は嬉々として妾にご飯を食べさせると、嚥下するペースに合わせて皿と口元を行き来して何度も「あーん」をさせて来た。
まぁ、住まわせて貰ってる側じゃしあーん程度の事で特に目くじらを立てる必要は無いのじゃが、如何せんこやつは距離が近い。
今もスプーンを口元に近づける度に、どんどん体を寄せて来よる。その証拠に一皿目を食べ終えた頃には、妾の体にピトッとくっついておるくらいじゃ。
「むぐっ、んぐんぐ・・・っん。なぁ、なんかお主距離近くね?」
「へっ?気のせいですよアスラちゃん!」
「いや気のせいではないんじゃが・・・」
その後も草菜の奴は餌付けするように何度も妾に馳走を食べさせ、全て平らげる頃には満足したように微笑んでおった。汚れた皿は全部機械が洗ってくれるようじゃし、腹も膨れた妾は再び神アニメを視聴するために上の階に上がろうとしたのじゃが。
何故妾は今草菜に抱き上げられて居るんじゃろうか・・・。
「えへっ、アスラちゃんって良い匂いしますね」
後ろから抱き締められながら、草菜の股の間に胡座をかいて座る妾。目線の先には、プロジェクターとやらで映されている映像が流れおる。
確かこの映像は最近話題の映画な筈じゃ。
「むぅ、お主やっぱりくっつき過ぎじゃ!動きにくいじゃろ!」
「えへへ〜すみません!でもアスラちゃんって抱き締めると柔らかいし、良い匂いするしで・・・誘惑に勝てませんでした」
余すところなく抱き締められているせいで映画に集中出来んし、後ろから柔らかいブツが押し付けられるし、草菜の吐息とよい香りのせいで逆に居心地が悪い。
じゃがこの程度で怒ることはない。と耐えていたのにこやつ、今度は頭に鼻を押し付けてスーハースーハーとヤバめの呼吸をして来よった。
もしかして妾、居候先間違えたかの・・・?
ゲーム世界から飛び出してきたのじゃロリ魔王様は女子大生に恋をする! 羽消しゴム @rutoruto
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