第16話 中の人、原因を調べる。
都会の喧噪も今は鳴りを潜め、深夜のビルの一室ではカタカタというタイピング音だけ鳴り響く。
「VRMMOなんてハイテクなもんの運営会社がパソコン使って報告書を作成とか笑えるよな」
夜勤で21時から出社した俺、
*-*-*-*-*-*
【件名:聖職者スキルが発動しない不具合について】
当アバターにて、
*-*-*-*-*-*
ラピスというユーザーから送られてきた不具合報告に目を通し、聖職者スキルが使えない条件があるなら早急に対応が必要だと思い詳細を調べ上げた。結果は《加護スキル》の未取得が原因だとわかった。
「それにしてもクソAIが。少しは融通を利かせやがれ」
会社のマニュアルに従い、プレイヤーの状況を入力してどう対応するかを専用AIに訊ねたところ仕様なので対応の必要なしとの回答が出た。その文章は改変できずプレイヤーへとメールとして返信される。―――けれど、俺はその結果に納得がいかず二通目を作成し、実際にラピスというプレイヤーと会ってみることにした。
「成果はあった。原因の『夜天の宝玉』破壊なんて本来は行われるはずのないことが起きた時期も知れた。―――ならここからが俺の仕事だ」
VRMMORPGとしてサービスが開始された最初のタイトルが
「あの子は《加護スキル》を取得していないことでスキルが使えない事に納得していた。なら本当にアイテムが消えた事になるが……、あれは受け渡し不可のアイテムで全オブジェクト判定があった時でも破壊不能のはずだ」
運営アカウントによりNPCキャラを一時的にアバターとして利用できる機能を使って
「VRにそんなリアリティ求めていません! か、リアルってのはもっと
俺は
「仕事をちゃんとやってるか顔を見たいんだとよ。あの子は顔を見なくても信頼する事が出来るってのによ」
なぜVRオンラインの技術を持ちながらVRリモートワークで仕事をしないのか? そんなことを思った時期もあったが、理由は単純に監視と低コストだからだと先輩が言っていた。
「あー、だから仕事は楽しくないのか。出来ない、出来ない、って違うだろ! もっと信頼しろよ、期待しろよ!」
MMORPGでの
「あの
MSOは大型モンスターが跋扈する世界のため5人以上のパーティが推奨され、最新マップでのソロ狩りは不可、ヒーラー必須と言われるほどの高難易度のゲームだ。そんなゲームで聖職者の上位職になるというのは見ず知らずの数多くのプレイヤーとパーティを組んでこなければ不可能だった。
「けど、そんな子がもうヒーラーを出来ないなんてな……」
MSOでプリアというプレイヤーに『夜天の宝玉』を渡したと言っていたので、プリアのプレイヤーデータを本社のデータベースから呼び出して『夜天の宝玉』を検索した結果、確かにラピスからアイテムを受け取っており―――消滅させていた。
「……重要アイテムに攻撃して消滅させるとかバカなのか? ―――いや、そもそもなんで重要アイテムの取引が出来るんだ?」
ラピスからプリアに確かに『夜天の宝玉』は渡されていた。重要なクエストアイテムで受け渡しにも関わらずだ。違和感を感じて急いでアイテムの詳細情報を開くとプレイヤー間取引不可、売却不可のロックが何故かかかっていないことに気が付いた。
「何が仕様だよ。不具合じゃねーか」
確かに事象としては〝仕様〟と呼べるが、元を正せば不具合から始まっていた。さらにアイテム情報を遡ると、アイテム強奪スキルが使えるモンスターの攻撃で一度プレイヤーであるラピスから所有権が消えた事が原因だった。
「なるほど、―――わかってきた。《加護スキル》実装時に受け取った『夜天の宝玉』を持ったまま当時の最高難度のダンジョンに挑んだ。アイテム強奪を受けてモンスターへと『夜天の宝玉』は移動、この時にアイテムの保護設定は解除されてラピスからプリアへの受け渡しが可能になったわけか」
そうなると話は変わってくる。信仰神によって聖職者スキルが使用出来ないのは仕様であり《加護スキル》を取得せずにコンバートしたのはプレイヤーの過失である。何故ならば、重要アイテムというのは必ず該当プレイヤーが所持しているので警戒メッセージが表示されるから、そういう理由で仕様という回答をAIが示した。だが、《加護スキル》未取得で『夜天の宝玉』という重要アイテムを所持していないケースを想定していなかったのだ。
「これなら運営に責任があって個別対応で《加護スキル》取得という補填をしてやれるかもしれない! よしっ、やるぞ!」
深夜に書き上げた報告書、その結末は―――。
*-*-*-*-*-*
『夜天の宝玉』の譲渡は本人の意思で行われた行為であち、すでに〝仕様〟として解決した問題である。そのため個別に補填は行わない。しかし、同様の事案が発生する可能性があることから『夜天の宝玉』を強奪した
以上。
*-*-*-*-*-*
神父の中の人、南出勇太はこの件がきっかけでサポートセンター業務から移動となる。それでも彼は自分のやった行動は正しかったと最後まで胸を張っていた。―――その姿は『夜天の宝玉』を燃やしたから《加護スキル》が取れなかったと言ったラピスと重なるものがあったが本人も含めて誰も気付かなかった。
栗毛聖女の受難【改稿作業中・随時修正】 たっきゅん @takkyun
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