第14話 栗毛聖女、運営に問い合わせをする。
「……傷を癒せ、
どうして魔法が発動しないんだろう? そんな疑問を抱きながら私は街に戻ってから何度も詠唱付きで回復魔法を使ってみましたがやはり発動しません。
「ラピスちゃん、大丈夫?」
「うん、なぜか何度やってもスキルが発動しなくて……」
「あー……、だから急に凄そうな装備に着替えて杖で殴ってたんだね」
さっきの狩りの様子を思い出したアユちゃんは私の急な変化に納得したようで何度か頷きました。
「うん。実はショートカット機能っていうのを使って最初はスキルを使おうとしたんだけど発動しなくてね、スキル画面からの選択に音声認識システム、色々試してたんだけどダメだったの。たぶんバグだと思うから運営に問い合わせしてみるよ。心配してくれてありがとう」
「……ちょっと待ってラピスちゃん。ねぇ、そのショートカット機能って何?」
「あっ、あははは……、実はアユちゃんを驚かそうと―――」
2人で中央広場のベンチに腰を下ろし、アユちゃんにショートカット機能の使い方などを説明しながら運営への問い合わせフォームに必要事項を書き込んでいきます。
*-*-*-*-*-*
【件名:聖職者スキルが発動しない不具合について】
当アバターにて、
*-*-*-*-*-*
私はさっそく出来上がった文章をサポートセンターへ不具合報告として送信して、送った内容をコピーしメールとしてアユちゃんに転送しました。
「こんな感じで報告してみたけどどうかな? サポートセンターを利用するのなんて私も初めてで緊張するよ」
「不運だったけどさ、ラピスちゃんも初めての経験だったらこれもゲームだって楽しめないかな?」
「あ、―――それもそうだね! それにしてもせっかく初めての狩りだったから驚かせようと思ってたのに残念だよー」
この忘れられない出来事は二人の思い出としてずっと笑い話にできるように、アユちゃんにそう言われた気がして気持ちを切り替えます。
「ちなみに~、ラピスちゃんは何をしようとしてたのかな~?」
「え? 何って?」
「だってわたしもラピスちゃんもHP減ってなかったよね? なら驚かせるってどうやってかな~?」
何かよからぬことを企んでいたと邪推された私は、その通りなので大人しくやろうとしていたことを話すことにしました。
「……
「あははっ! ラピスちゃんってゲームの中だと元気だなって思ってたけど、それに加えて意外とお茶目だったんだね」
「……みんなからはたまにお調子者になるって言われてたからね。アユちゃんにバレたのは恥ずかしいけど、一緒にゲームしてたらいつかわかることだったかも」
これまでアユちゃんとモンスターと戦う事ばかり念頭に置いていたので、こんな状況になってゆっくりと話せる機会ができたことが皮肉のようですが嬉しく思いました。
「大丈夫だよ、きっとすぐに対応してくれるから。そしたら明日はもう少し遠くまで行こうね。フワマル以外のモンスターも見てみたいし」
「うん。アユちゃんも魔法を使うのに慣れてきたし楽しみにしておくよ」
「楽しみにしておくかー、ラピスちゃんがせっかくだからショートカット登録の仕方とか教えてくれたんだから使いこなしてみせるのも面白いかもね」
そんな私の気持ちなんか知ってるけれど知らん顔で、アユちゃんはもう明日には不具合が解消されているのを疑わず、今日より遠くへ行く話をしてきます。……たぶん私がモンスターと戦うのが好きだと思って気を使ってるのかなと思い、何気ない優しさに胸が熱くなります。
「設定できた?」
「うん、―――たぶん大丈夫!」
さっそくショートカット登録をして練習してみることになりました。
「じゃあ試しにショートカットを使って空にバブルを打ってみようか」
「おっけー! ラピスちゃん、ちゃんと見ててね」
意味深な前置きしたアユちゃんは立ち上がり、空に左手で持った杖を掲げてバブルの魔法をショートカット機能を使ってスキル名を言わないで放ちます。
「ちゃんと出来たね」
「まだだよ! ―――
私はショートカット機能をアユちゃんが使えたので良かったと思っていたら、アユちゃんは放たれたバブルに聖職者の見習いスキルである
「え、スキル連携!? 凄い!!!」
「とどめー!!! ―――
魔法攻撃に何かを付与するだけでもタイミングがシビアで難しいはずなのに、そこからさらに空いている右手を使い武道家の見習いスキル
「きれいだねぇ~」
光の泡は飛散してただのバブルの魔法とは思えない煌びやかな残像を空に花火の様に残して消えました。絶景かなといった風貌で見ているアユちゃんは本当に凄いことをしてしまいました。
「ちょ、ちょっと待って。アユちゃんいつの間に?」
「そりゃ急いで学校から帰って待ち合わせまでの間に練習したんだよ。ラピスちゃんがログインする前にね。どう? 驚いた?」
「驚いたってもんじゃないよー! 発動した魔法スキルのターゲティングとか簡単じゃないんだよ!? それを短時間で二度も連続で―――」
―――けれど、アユちゃんはその先、さらにバブルが消えるまでの残り少ない時間で再びターゲティングし、
「ラピスちゃんが丁寧に教えてくれたからできたんだよー。それにほら、私は鮎だから!」
「ごめんなさいっ! 意味わからないかも」
「あははっ、ラピスちゃん元気でたみたいで良かったー!」
「うん。元気でたし本当に凄かったよ! アユちゃんVRゲームの才能あるよ! 聖女の私が保証する!」
VRでの動きとして見たらアユちゃんはまだまだです。特にカゲミツさんなんてどうやってるのかわからないような立体移動すらしてしまいますが、一つのスキルから一人でスキルを使って連携を3つ繋げるなんて芸当は見たことがありませんでした。
「凄い発想力とセンスだと思うよ!」
「あははは、褒めすぎ褒めすぎ。それはそうとショートカット発動をやってみて思ったんだけど、スキル名はやっぱり叫びたいね」
「そうだね。対人戦とかじゃなかったらそんな意味ないしね。せっかくのVRだけどファンタジーだもん。凄くわかるよ」
ピコン!
「あ、ちょっと待ってて、メールで何か届いたから」
そんなこんなをしていたら新着メールが届いたお知らせが出てきました。差出人と件名を確認しました。
[Re:【件名:聖職者スキルが発動しない不具合について】]
「問い合わせた件の返信みたい」
「そっかー、対応早くて良かったね。それで、いつ直りそうって書いてあるの?」
運営に問い合わせをしてから返信が来るまで30分とかかりませんでした。アユちゃんは喜んでくれてますが読み進めている私はそれどころじゃありませんでした。
「⋯⋯仕様です。って書いてある」
「ラピスちゃん、ちょっと私にも見せて」
アユちゃんに届いたメールを転送をして2人で何度も読み返します。
「本当に書いてあるね……、仕様です。って」
何度見ても内容が変わる事は当然なく、メールの最期には[詳細は神父へとご確認下さい]と書かれていました。
「ラピスちゃん、ちゃんと説明してくれるみたいだしとりあえず教会に行ってみようか」
「⋯⋯うん、そうだね」
私はショックで心ここに在らずでしたが、アユちゃんのおかげで神父さんが待つ教会へとなんとか辿り着くことができたのでした。
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