第13話 栗毛聖女、GFOにて初戦闘を行う。

 再び先程のフワマルをターゲティングし、戦闘の準備が整いました。けれど、アユちゃんは何か考えているようで一向に動きません。


「アユちゃん、もう攻撃してもいいよ? やり方は昨日、魔法を使った感じで大丈夫だから」

「んー、このフワマルって攻撃してこないけど……、本当に倒してもいいモンスターだよね?」


 私が攻撃を促すとアユちゃんが武器を構えたままフワマルに触れられる距離まで近寄ります。それでも襲ってこないフワマルにアユちゃんは疑問を口にします。


「うん。この子は攻撃反応ノンアクティブ型モンスターっていう種類だと思うから、こっちから攻撃しないと攻撃してこないはずだよ」

「そうなんだー。モンスターだしてっきり無差別に攻撃してくるものかなって思ってたけどそういうのもいるんだねー」

「アユちゃんの言ってるタイプのは認識攻撃アクティブ型モンスターだね。だけど、ノンアクティブでも攻撃が入ったら襲ってくるから注意してね?」


 MMORPGネットゲームでは一般的ですけど、家庭用のゲームでは基本的にモンスターは遭遇と共に襲ってくることを思い出し、アユちゃんの反応に納得してモンスターの種類アクティブ、ノンアクの説明しました。


「こんな可愛いのに〜、戸惑わないなんてラピスちゃんは流石ベテランだよねー」

「可愛くてもモンスターは倒さないと経験値もアイテムも貰えないからね。それじゃ改めて、好きに攻撃してみて?」


 アユちゃんとの二人での冒険は、私がモンスターの攻撃を受け持つ壁になるつもりですけど、せっかくのVRでの最初の攻撃なので今回はフワマルのタゲは取らずに自由に攻撃してもらうことにしました。


「攻撃を受けたらすぐにヒール回復してあげるから大丈夫だよ」

「わかった! それじゃいきまーす! っと、―――バブルッ!」


 アユちゃんが杖をフワマルに向けてスキル名を叫びます。初期設定の音声認識によるスキル発動により、1秒ほどの詠唱時間が過ぎてから魔法が発動して泡がフワマルを包み込みます。


『きゅきゅ〜〜〜』

「ラピスちゃん! なんか苦しそうなんだけど!?」

「私もこんな反応は知らないよ! とりあえず反撃に備えて、もし攻撃が避けられそうなら避けて!」


 フワマルの落書きの顔が苦しそうに歪みます。もしかしたら効果が抜群な特殊演出に入ってるかもしれませんが初めてのモンスターで普通がわからないので、私もいつでも回復が飛ばせるようにHPバーの減りと行動に注意をしておきます。


「襲ってこないならこのままもう一回! ―――バブルッ!」


 動けなくなっていたフワマルはなんとかバブルの魔法が解けると同時にアユちゃんの方へと移動をしようとしたようですが、再び放たれたバブルに包まれて身動きが止まります。


 キュッ!


「―――あっ!」


 私たちが見守る中、バブルによる継続ダメージによりフワマルはそのまま萎んでいきゴムが擦れるような音と共に消滅したので無事に討伐できたようでした。


「やった! 倒したよー! 初勝利っ、Vブイッ

「ぶ、ぶいっ! ―――っ!」


 とても楽しそうにアユちゃんが人差し指と中指を立ててVサインをしてきたので私も慌てて返しますが、返した後に子どもっぽかったかなと少し恥ずかしくなりました。


「そ、それにしてもあそこで二発目を打つなんて凄いね、それに魔法の威力も!」

「あははっ! なんとなくいけるかなって思ってさ、ラピスちゃんが避けてって言ってくれたのに勝手してごめんね?」


 けれどそれを悟られないように必死でいつもの余裕がある感じを演出してアユちゃんとの会話を続けます。


「ううん、アユちゃんが自分で考えて動いてくれたことが嬉しいし気にしないよ。 あの感じだとステータスはやっぱりINT知力に全部振ったの?」

「うん! ステータスは極振りっていうんだっけ? ラピスちゃんがそうした方がいいって教えてくれたからね。私を守ってくれるって言ってたから迷いなんてなかったよ」


 二人で遊ぶときは守りを私が担当するのでINTに全てを振り分けるステ振りもありだと話していたことをアユちゃんは覚えていてくれたようです。恥ずかしいことも言ってくれてますけど、一緒にこれからも遊ぼうって言われているようで嬉しく思いました。


「あははっ! それにしても、始めてちゃんと魔法を使ったけど魔法使いになったみたいで楽しいね!」

「今のアユちゃんは誰が見ても魔法使いだよー。……けどさ、アユちゃんが少し羨ましいな」


 恥ずかしい気持ちであわあわしてしまいましたけど、それが落ち着くと純粋にゲームを楽しんでいるアユちゃんが羨ましくなって心の声が漏れてしまいました。アユちゃんが目をパチパチし、何故か私をぎゅーっと抱きしめました。


「ラピスちゃんと2人だから楽しいんだよ? ラピスちゃんも私との冒険は初めてだよね。だったら初めてを楽しまないとっ!」

「⋯⋯うん。ありがとう」


 本当に茉実アユちゃんはラピスの気持ちを察するのが上手です。返事が少し鼻声だったけどアユちゃんも微笑んでくれてるし笑って応えれたよね?


「あ、ほら。アイテムが落ちてるよ」

「ほんとだ」


 抱きしめられていた数十秒の時間はまるで数時間のように感じました。アユちゃんが私から離れてドロップしたアイテムを指で指して教えてくれたのでそちらを見ると地面に青い宝石のようなアイテムと風船の欠片が光っていました。


「えっと『フワマルの欠片』は通常ドロップっぽいね。こっちの『フワマルの涙』はレアっぽいけど価値はよくわかんないかな」

「初勝利の労働の対価だー! お金になるやつだー!」

「うん、後でまとめて精算するから楽しみにしててね」


 一部のモンスターを除いてゲーム内通貨はドロップしないため、モンスター系統特有のドロップアイテムをNPCに売却するのが一般的なお金の稼ぎ方です。基本的に狩りに出かけて帰って来たらアイテムをお金に換金して人数で分配する精算をするまでがパーティでの遊び方だとアユちゃんに説明しました。


「ほんと仕事みたいでリアルだよねー」

「相手もリアルにいる人だからね、前にも言ったけど協力プレイってのがネットゲームでは大切だし、そのための信頼関係ってのも凄く大事なんだよ」

「ふむふむ。ラピスちゃんがいない時に他の人と遊ぶこともあるかもしれないしちゃんと覚えておくね」

「そうした方がいいよ。またその人とパーティを組むかもしれないし、悪い噂が流れると他の人とも組んでもらえなくなるからね」


 アユちゃんがパーティープレイの流れを理解して、信頼関係の大切さをわかってくれたことに安心します。


「それじゃ次のモンスターを探しにいこっか(移動速度増加スピードインクリーズ)」


 私はアユちゃんを驚かそうとショートカット登録してある移動速度増加のスキルを使おうとして違和感を感じました。


(あれ?押せない?)


 そういえばスキルの取得が出来るのを確認しましたが、使用できるかの確認をしていないのを思い出し、もしかしたらコンバート時に何かしらの不具合をきたした可能性を考えます。


「うん! とりあえずフワマルなら安全に倒せそうだしいっぱい倒してレベル上げしようよ!」

「……そうだね。けど、さっきのがクリティカルだったり偶然の可能性もあるから次からは私が最初に杖で殴ってタゲ取りしておくね」

「えっと、タゲ取りって?」

「あ、ターゲットのことをタゲって略すんだけど―――」


 ターゲット固定タゲ取りは後衛の魔法使いなど火力職に攻撃がいかないようにモンスターのヘイト怒りを先に攻撃して前衛に向けておく行為だと伝えておきます。


「前衛がやられそうな時にタゲを後衛が奪ったりもすることがあるけど、原則はそう覚えておいて大丈夫だよ」

「おっけー。じゃあ、ラピスちゃんよろしくね!」


 私は魔法が使えない不具合に見舞われているようですが、他の部位も全部[流星シリーズ]の防具を身に付けて防御力を上げることで回復いらずのアユちゃんの盾になり、今日の狩りを無事に終えることができたのでした。

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