第9話 栗毛聖女、【魔陣機】の存在を知る。
魔法科学研究所の隣に備え付けられた実験棟へと、鉄板が敷かれた渡り廊下を通って私たちは移動します。
「さっきの機械といい不思議な施設だね。ここで魔法科学を研究してるのかな? 魔法科学が何かわからないけど」
「きっとロボだよ! きっと大きな最終兵器的なモノを開発してるんだよ!」
「……どうしてお前さんがホルア帝国の極秘に開発を進めている【魔陣機】の存在を知っている!!!」
見習い魔法使いとして杖とローブを貰って装備したアユちゃんに対し、先頭を歩いていた所長のマリアンヌさんが問い詰めにかかります。その反応から、もしかしたらプロローグに出てきた【厄災】という存在に国を挙げて対抗手段を作っている可能性を私は考えました。
「いや~、普通に考えたらそれしかないないんじゃない?」
「普通に考えたら、代わった施設だね~で終わると思うよ?」
「こうなったら仕方がないね……、口止め料としてこいつを受け取りな」
「え、何これ! ありがとう!」
それを軽く躱し、ここまでがイベントだったのか無言で再び歩き出したマリアンヌさんを追いながら、アユちゃんは口止め料として渡された属性を模した4色の玉が規則正しく並んで繋がっているブレスレットを早速装備しました。
「アユちゃんアユちゃん、それどんな効果?」
「この[魔陣機のブレスレット(試作品)]が気になるの?」
「うん。イベントで手に入るアイテムだからね。性能がどんなものか知りたいの」
私は好奇心に負けて歩きながらアユちゃんに性能を尋ねます。
「んっと、このブレスレットの防御力は3で効果欄には消費MP半減って書いてあるよ」
「ぶっ壊れ装備っ!?」
あまりにも強すぎる効果に思わず叫んでしまいました。けれど、それくらいアクセサリー単品で得られる効果として、あり得ないほど強い性能をしているのです。
「けど発動条件っていうか制約があってさ、光っている属性の魔法しか半減しないし、効果が発動すると次の属性を使わないと変わっていかないみたいなんだよねー」
「……さすがに条件がかなりキツイね。とりあえず防御力が上がるなら装備しておいていいけど、もっといいアクセが手に入ったら変更かな」
「だね。私も水魔法使いになりたいし、他のスキルを上げてる余裕はないからね」
4属性全部のスキル制約は狙って発動条件を満たすのは難しく、それをしようとするとスキル系統を分散させたバランス型になり、強力なスキルの取得が遅くなるデメリットもあるので効果の方がおまけと考えておくのが良さそうでした。
「こんなの貰ったら初心者は普通、バランス型の魔法使いになろうとするよね……」
「使いこなせればそれなりに強そうだけどね。もしかしたらこれも魔法使いに転職して適当にスキルを振ったプレイヤーへの救済なのかも」
そんな会話をしながら実験棟に辿り着いた私は目の前のモノに対して言葉を失いました。そしてアユちゃんは喜んで先ほどの単語を連呼します。
「ロボ! ロボだよね!? どう見たってロボだよね!! ロボとかメカとかそういう言葉がさっきのイベントのフラグだったらこれ見た人の大半はあのブレスレット貰ってるよ!?」
広い工場のような機械や配管が周りのいたる所にある実験棟だが、中央部分は綺麗にされており、そこに鎮座しているのは一体の
「さて、それじゃアユだったね。あんたに複属性魔法を教えようか」
「いよいよ私も魔法使いなんだね! わくわく!」
マリアンヌさんが右手をアユちゃんの胸の前に持っていき何やら呪文を唱えると魔法陣がアユちゃんの頭の上に広がって光を放って消えました。
「これで火と水、水と土、土と風、風と火の4パターンの複属性魔法を使えるはずさ。スキルを確認してごらん」
「あ、本当にある! ラピスちゃん! スキルポイントも減ってないよ!」
「おめでとう! けど、いいなー。けっこう羨ましいかも」
初めて取得したスキルを使うのはワクワクするものです。私もたぶん知らないスキルなので、どんな効果でエフェクトなのか楽しみにしながら発動を待ちます。
「ありがとう! あ、わたし時間だからそろそろログアウトするね! 今日はありがとう! また明日、学校でー!」
「あ、うん。またねー」
けれどゲームに厳しい茉実ちゃんの家なので、恐らくは門限的なゲームをするのは何時までという条件があったのでしょう。魔法がその日に発動されることはありませんでした。
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翌日、茉実ちゃんは学校で朝からVR空間の凄さを周りに語っていました。
「でさ、目に入る景色がすっごい綺麗だしゲーム機は高いけどそれに見合った感動があったんだよ! あ、ラピスちゃん! おはよー!」
「おはよう、茉実ちゃんは朝から元気だね」
「そりゃあ、あんなゲームで遊んじゃったら興奮もするよー! 本当に凄いとしか言えないもん」
私は茉実ちゃんが凄く喜んでくれたことが嬉しくて下を向きます。自分の好きなことを好きになってくれて本当にありがとうと心の中でお礼を言いました。
「ちょっと狐島さん、もうすぐホームルームが始まるので静かにしてください」
「……宮木さん、ごめんなさい」
「ラズベリーさん、あなたに対して言ったのではないので謝らないでください」
「そうだよ、ラピスちゃん。委員長は私に対して言ったんだから気にしないの」
「あなたは気にしてください。それに私は委員長ではないので―――」
チャイムが鳴って宮木さんは話の途中で切り上げて自分の席へと戻っていきます。茉実ちゃんと宮木さんはいつも何かしらで揉めてますけど、嫌いとかそういう感情はないようで、茉実ちゃんは他のクラスメイトとの衝突を、宮木さんは教師との衝突をお互いに回避するように立ち回っているようでした。
「それじゃホームルームはじめるぞー」
チャイムが鳴ってから少し置いて担任の森永先生がホームルームを始め、私のいつも通りの学校生活が今日も始まります。
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昼休みになり、私は茉実ちゃんと机をくっつけて持ってきたお弁当を食べながら昨日の話をしました。主に勝手にログアウトした件についてです。
「ああいうのは良くないから、時間が迫ってたら早めに教えてね。いきなり《落ちる》》とみんな混乱するから」
「はーい。それにしてもログアウトのことを落ちるっていうんだね。そっちの方がかっこいいし私も次から落ちるって言おうかな」
茉実ちゃんも反省したようなので、これからのプレイスタイルについての話し合いに話題を切り替えます。
「アユちゃんは水属性魔法が使いたいんだよね?」
「うん、鮎って魚だからね。こうブシャーっと水魔法を使いたいんだー」
茉実ちゃんのアユというプレイヤー名は好きな魚の名前から取ったらしいです。昔に川で食べた鮎の塩焼きが忘れられなくて、いつか一緒に食べようと前にも話していました。
「水属性魔法は基本的に威力が弱いけど応用力が高いのがポイントなの。別のスキルを重ねることで威力の底上げが出来たり、上位スキルまで覚えるとスキルで出した水を凍らせたりもできるよ」
「そうなんだー、ラピスちゃんって本当に詳しいよねー。けど、どうして聖職者以外のスキルとかまで覚えているの?」
「えっとヒーラーの仕事はね、パーティメンバーの動きを見て的確に支援や回復を行わないといけないの」
茉実ちゃんが首を傾げながら聞いてきます。確かに私は聖職者しかしていないのに他職について知り過ぎているのは疑問に感じるよねと自分でも思い説明を始めました。
「HPの減っている人に回復魔法をかけるだけじゃダメなの?」
「うん。色々な職業のスキルを覚えていないとスキル硬直でアイテムが使えないまま倒れちゃったり、威力を上げるために掛ける補助魔法の選択が的確に取れなくなっちゃうの」
「そうなんだー。わたしも覚えた方がいいかな?」
「遊んでるうちに自然と覚えるから大丈夫だよ。普段見ないスキルは覚えててもしょうがないからね」
茉実ちゃんとのお話はいつもよりも楽しくて、時間はあっという間に経過していきました。そして私は
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