第10話 栗毛聖女、見習い転職ツアーに付き合う。

 冒険者ギルドへとアユちゃんと待ち合わせのためにやってきた私は、目の前で繰り広げられている光景に頭を抱えました。


「あなたコンバートしてきたプレイヤーじゃないの!? なんでそんなに弱いのよ!」

「そうはいってもSTR筋力上げてないんだから仕方がないだろ」

「剣士がSTR上げてないって……、これなら他の初心者と組んだ方がよっぽどマシね!」


 中央のテーブルでは長い赤髪が目立つ男のプレイヤーが昨日、私たちに絡んで来たルマさんと揉めているようでした。周囲のプレイヤーも二人の様子を黙って見ているようです。


「もうけっこうです! こんな剣士、私から願い下げなので!」

「せっかく誘ってやったのに酷い言われようだな」

「―――っ! 失礼します!」


 二人の話は決裂したようで席に座っていたルマさんが立ち上がり、出入り口に立つ私の方へと向かってきます。そして私に気付いたようで舌打ちをして冒険者ギルドを出ていきました。


「「「うぉおおお!!!」」」


 すると周囲から歓喜の声が上がり男を取り囲みます。聞こえてくる内容的にみんな困っていたようで、冒険者ギルドに依頼を受けに行くたびにルマさんに手伝って欲しいと言われていたようです。


「よっ、さっきアレから舌打ちされてたようだが何かあったのか?」

「いえ大したことはないです……、ってセピ……、ナツキさんだね。こんばんわ」


 私は巻き込まれないように少し遠くの席に座っていたのですが、渦中にいた赤髪の男の人から声をかけられました。聞いたことのあるような声で、もしかしたらと思っていましたが、振り返ると案の定というか揉めていたのはナツキさんでした。


「ナツキさんの姿で活動することもあるんですか?」

「いや、これは……、まぁ、そんなことよりもアレと何があったかまずは話してくれないか?」


 ナツキさんに促され、昨日あった出来事を話しました。内容が内容だけにナツキさんは次第に険しい顔をしていきます。


「そんな感じで最後はお説教みたいになっちゃったけど、私たちを誘うのを諦めてくれたんだよ」

〚……なぁ、ラピス。ちょっとこっちでいいか〛

〚それはいいけど、……何かありました?〛


 昨日起きた出来事の話が終わり、それを聞き終えたナツキさんは囁きwis機能を使い内緒話に誘ってきたので、私も囁きモードに切り替えて会話を続けます。


〚本当は伏せて見守ってやるつもりだったけどよ……〛

〚ん? ナツキさんがセピアさんとして活動してるのと、エミルさんから言われて見守ってくれているって話は前にも聞いたよ?〛

〚違う、そうじゃない。いや、そうだがそういう話じゃないんだ。このままだと危なっかしいから言っちまうが……〛


 驚かずに聞いて欲しいと前置きしてからナツキさんはとんでもないことを私に話してくれました。


〚え、ちょっと待って。ナツキさんって森永先生なの!?〛

〚―――ああ。本当ならリアルの話をするのはマナー違反なんだが、どうしてもラピス、お前に言わなければならないことがある〛

〚あ、はい。なんですか?〛

〚ゲームの中ではこれまで通りでいいぞ。そんなふうに態度を変えられるのが嫌で伏せてたんだからな。―――それより、どうしてお前がラピスだとわかったと思う?〛


 アバターを操作している中の人、もといプレイヤーがリアルの知り合いである担任の先生であることを知り、態度を変えようとする私を牽制して止めてくれました。その行動にナツキさんが友達のままでいてくれると言っているようで嬉しく思いました。


〚えっと、名前ですか?〛

〚それもあるというか、狐島が大声でGFOの話もしてるしな。だが、それよりも問題があるのがお前の容姿だ〛

〚え? 栗毛だし全然リアルと印象違うって茉実ちゃんが言ってくれたけど……〛

〚それ、逆に言えば髪の色以外はリアルのお前そのままってことだろ。そのは何年も前に大人びた理想の姿で作ったアバターだろうが、今のお前そのままだぞ〛


 そう言われるとそうかもしれないと思いましたけど、リアルでの発言を気を付けようってだけの話ではないような気がしました。


〚あまり他のプレイヤーと揉めないようにしてくれ、リアルが特定されやすいお前は特に……〛

〚あっ、……そうだね。向こうじゃああいうプレイヤーに絡まれることがあっても他のみんなが対応してくれてたから気にしてなかったよ〛


 ナツキさんは森永先生として私に、犯罪に巻き込まれないように気を付けろと注意を促すためにこの話をしてくれたようです。そして、何かあったらすぐに相談しろと言われ、何事もなかったかのように冒険者ギルドを後にしていきました。


「ラピスちゃんおまたせー。今、あの人と何か話してた?」


 入れ替わりで茉実アユちゃんが現れますがセピアさん先生のリアルのことは話さないほうがいいと思い、私たちは学校で話していた見習い転職ツアーを行うためにすぐさま移動を開始しました。




「さて、まずは聖職者から行こうかな!」

「それならあの教会だね。色々ありすぎて昨日、あそこで転職したのも昔のように感じるよ」


 アユちゃんは見習い転職で手に入るスキルを全部集めて、それから魔法使いに正式転職できないか試してみたいということで、まずは教会へとやってきました。


「あの神父さんが聖職者への転職をしてくれる人だよ」

「おっけー。すみませーん! ここで転職できると聞いてきたんですけど、聖職者見習いになれますか?」

「転職希望者ですか。聖職者についての説明は必要ですか?」


 そのアユちゃんの見習いになりたいという直球な質問は無視され、私の時と同じ返事が神父さんの口から放たれました。


「えっと、まずは話を合わせて進めてみない?」

「だね。魔法科学研究所でも最初は普通に職業説明されてたし。ラピスちゃんは二度目だけど話は聞く?」

「うん。とりあえず説明は全部聞いた方がいいかな。もしかしたら初心者判定に影響がある可能性もあるからね」


 それから説明を全て聞き終え、陽光神ライティオに祈りを捧げたところで見習い聖職者となってスキルを習得できたようです。そして、神父さんから私と同じ[見習い修道女の服]と[見習いロッド]をアユちゃんが受け取ります。


「おー! 魔法攻撃を聖属性に変えられるスキルもらったよ!」

「おめでとう! 水属性だけでいこうとするアユちゃんには凄い役に立ちそうだね」

「あと、MP全消費で使える範囲魔法も!」


 とても使い勝手のいいスキルを入手できたようでよかったです。もう一つの方は極大消滅魔法、長いので私たちは極滅魔法と呼ぶことにした系統のスキルで、こちらに関しては他職業での効果減少を考えたら水属性魔法に聖属性付与の方がダメージが大きそうなので使うことはまずなさそうなスキルでした。


「では聖職者への転職の条件を―――」

「ありがとうございました。失礼しまーす」

「すみませんっ! ありがとうございました!」


 神父さんが正式な転職課題を出そうとしたところでアユちゃんが踵を返して教会を出ていったので、私も急いで後を追いました。


「なんかNPCに対して申し訳ない気持ちしかないよ」

「けど、引き返せるタイミングがわからないんだからスキル貰ったら退室が正解じゃない?」

「言いたいことはわかるんだけどね、お世話になった神父さんが不憫なのは私的になんとも……」


 神父さんに同情しながらも信託の町にある施設を巡って、基本職とよばれる剣士、商人、武道家の職業も同じように見習いスキルと装備を回収してアユちゃんは無事に魔法使いに転職を果たしたのでした。

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