第7話 栗毛聖女、友達と合流する。
セピアさんと別れる前に
「茉実ちゃんは何に転職するのかな?」
一人残された教会の中で聖職者という職業、その1次職である修道女に転職した私は友達が選ぶ職業に興味を持ちます。
「そういえば……、もう聖職者に拘る必要もないのにまた聖職者の道を選んじゃった」
MSOで聖職者を選んだ理由、それはお父さんから人との繋がりを持って欲しいという話と共にゲーム機とソフトを渡されたからでした。
「けど、転職も出来るからいいかな。聖女は一度でも転職したらなれなくなるけど、先になっておけばいいし」
正直に言えば、初心者と遊ぶなら慣れた職業の方が安心するという理由が大きいですけど、聖職者という職業しか頭になかったのも本当で、せっかくなら違う職業も今度は遊んでみたいなと思いました。
「……さすがに効果もなければ防御力もほとんどないね」
セピアさんの助言で鎧を[見習い修道女の服]、杖を[見習いロッド]に変更します。これは転職時に神父さんから貰った装備でMSOの聖職者用の装備とは異なり白を基調としたものになっていました。
「さて、見た目も初心者っぽいしこれでよしと」
この町は他のスタート地点よりも人が少ないのでコンバートして持ち込んだ装備は凄く目立つそうです。おまけに周辺のモンスターの強さも厄介で、倒せない初心者に仲間になって欲しいと付きまとわれる人が後を絶たないとか。
「指輪は目立たないからこのままでいいね」
指には[流星の指輪]を装備しておきます。コンバートで持ち込んだ装備の性能は封印状態にあり、全てが10分の1にまで下げられていました。それでも元の数値が高い分【見習い】として貰った装備よりもかなり高い数値になっています。
「えっと、茉実ちゃんとの待ち合わせ場所は―――、ふふっ、冒険者ギルドだったね」
どこで待ち合わせをするかという話になった時、茉実ちゃんが「やっぱり冒険者ギルドでしょ! なんかいっぱいテーブルのあるとこ!」と言っていたのを思い出して
笑ってしまいましたが、私はさきほど見つけた冒険者ギルドへと向かいます。
「あ、ラピスちゃん! こっちこっちー!」
カランカランと扉を開けるとベルが鳴り、すぐに私を呼ぶ女の子の声が聞こえてきました。
「えっと、アユちゃんでいいかな?」
「うん! それにしても髪色以外本当にまんまラピスちゃんだね。ささ、とりあえず座って座って」
壁際のテーブルに腰掛けた澄んだ青髪の少女に呼ばれて近寄り、名前を呼んで確認すると優雅に立ち上がってその長い髪をバサーっとして……、いつもの茉実ちゃんの話し方で明るく私を迎えてくれました。
「いやー、自由度が高すぎるのも大変だねー。瞳の色が良い感じになるまで苦労したよー」
「……なんか凄いね。神秘的というか何というか。―――それに大人っぽい」
活発なリアルの茉実ちゃんとは全然違う印象を受けて、少し戸惑います。頑張って色を出したという黄黒の瞳は見ていると吸い込まれるようで、表現に困るほど芸術的だと思いました。
「あ、ラピスちゃんはもう転職しちゃったんだね」
「うん。初めてのコンバートで不安だったから」
私の服装に気付いたアユちゃんが転職のアレコレを聞いてきました。けれどコンバートしてきたためか私は教会で祈りを捧げるだけで転職できたので特に話すこともなく、すぐに話題は
「えっと、こんな感じで側頭部をトントンって叩くと
〚こうかな? ラピスちゃん、
〚うん、完璧。もう一度同じ動作をすれば解除できるし、メニューにある設定で切り替え動作やアバターの叩く位置を変えられるから後でやり易い様に変えるといいかも〛
「おっけー。ありがとね、切り替えはもう大丈夫っぽい」
私はまずは囁きモードについて説明します。これでリアル関係の話を多少は出来るのでいちいちログアウトしてやり取りする必要がなくなるはずです。それから順番にメール機能、アイテム欄、装備欄と説明を続けていきます。
「―――そう、その中にある《装備》と《アイテム》って画面を同時に開いてトントンとアイテムをタップするとこんな感じで装備変更できるんだけど、まだアユちゃんは装備持ってないもんね」
「うん。その【見習い】だっけ、装備は転職すれば貰えるんだよね? ならさ、さっそく転職しに行こうよ!」
私の話を聞いて既にウズウズしてるアユちゃんはさっそくと席から立ち、私も続こうとします。
「―――あ、あのっ! 待ってください!」
しかし、私の背後から突然声が聞こえて振り返ると見知らぬローブ姿の女性フレイヤーが隣のテーブルから身を乗り出してるのが目に入りました。
「……私たちですか?」
「はい! 悪いとは思いながらも話を聞かせてもらっていたんですけど、コンバートしてきたと聞こえたのでベテランのVRプレイヤーさんですよね!?」
縋りつくような気持ちが私に対して向けられるのを感じ、咄嗟にアユちゃんが私の前に庇うように出てくれました。
「アユちゃん、私は大丈夫だよ。まずは話を聞いてみようよ」
「ラピスちゃんがそういうなら……」
「えっと、自己紹介がまだでしたね、私はルマって言います。ちょっとクエストでモンスターを倒してきてと言われたんですけど倒せなくて困ってまして……」
私はルマさんの話を聞きながら、さきほどセピアさんに言われたことを思い出して慎重に会話を進めます。
「―――そうなんですか。すみません、私は見ての通り聖職者ですし、アユちゃんは魔法使いになる予定なのでルマさんのお手伝いは難しいですね」
「けど! コンバートで持ち込んだ装備があればいくらでも耐えられますよね? その間に私たちが1ダメージでも与え続ければ……」
「―――ちょっと! 話を聞いてれば好き勝手言ってー! ラピスちゃんはあなたのモノでもNPCでもないんだよ!?」
アユちゃんの言葉ももっともで、たぶんこの人が一人で冒険者ギルドにいるのはそういう身勝手さが周りに伝わってて誰もパーティーを組まなくなっているからなのだろうなと思いました。
「えっと、ルマさん。アユちゃんの言うようにネットゲームはアバターの向こうに相手がいるんです。きっと私が仮にそのクエストを手伝って終わらせてあげてもそんな風に遊んでいるとまたすぐに手詰まりになりますよ?」
「もういいです! 引き留めてすみませんでした! 早く出てってください!」
逆切れしたルマさんに追い出されるように冒険者ギルドを後にするとアユちゃんが感激したように私の手を握ってきました。
「ラピスちゃん凄い! リアルが嘘みたいに頼もしいね!」
「ちょっと、リアルを引き合いにだすのはマナー違反だよ~! アユちゃんだから許すけど、できればやらないでね?」
MSOでも他のプレイヤーを利用することしか考えてない人はいました。けれど、そういう人たちはゲーム上で人間関係をちゃんと作ることが出来ず、
「けどラピスちゃんがあそこまで言うなんて珍しいんじゃない?」
「……VRでもそうじゃなくてもネットゲームってね、なんでネットゲームという形をとってるかアユちゃんは分かる?」
「みんなで遊ぶため?」
「大正解。その本質はどんなゲームだって同じなんだよ。ゲーム自体が多人数プレイを前提に作られてるの」
よくアニメとかである
「たとえ目的のモンスターが一人で倒せても、周りから複数のモンスターに襲われたりする状況も平気であるからね」
「あー、なるほどー。協力プレイできないとどうしようもない状況はいつかくるわけだ」
「うん。だからそのことに早く気づいて欲しいとは思うけど……」
冒険者ギルドを振り返ってみると、誰か都合のいい王子様が迎えにくるのを待ってるルマさんがまだいるんだろうなと思ってしまいました。
「……あれはセピアさん?」
「ラピスちゃーん! 魔法使いの転職場所ってどこー?」
「あ、うん。案内するよー!」
冒険者ギルドへと入っていくセピアさんの背中を見て、あの人が説得してダメなら多分無理だろうなと思いながらも後を託して、私は友達の転職に付き合うことにしました。
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