第7話「余計な種を蒔いた奴」

「カルタ・ノウァのダルネイトだったね」


 城壁の名残りがある場所から、大破して捨て置かれているバトルジャックを観察する。回収するのは無理そうだが、見れば大体わかる。


「知っているのか?」


 と、リアー姫が詰めてくる。彼女の後ろでカーリア王家の旗が揚げられていた。


「グーゴル加速装置点検作業開始!」


「盾の交換作業急げよ!」


「ボルト弾を保管庫から出すぞ!」


 真四角の外装に頭が埋まって肩と頭が水平な、単純極まりないただのラーミア・フェランギらが群れを成している。


 一般的な高性能機とは真逆だ。


 ラーミア・フェランギは、一対一で敵機を圧倒するようなバトルジャックではない。群体として、どんな操演者でも数人と数機で、高性能かつ強力な騎士を狩るために設計した。


 格闘戦は不利と捨てた。


 代わりに霊山ウーレイアの地形を考慮して、敵を止める能力を高めている。つまりは分厚い装甲と一撃で撃破するロングプレスランスだ。


 ラーミア・フェランギは不足する資材の中で数を揃える為に、手足を詰めている。短いため小さいのだが、歩行はともかく剣で斬り合うには脆弱化してしまっている。


 弱点はまだあり、規格が変わった腕のせいで最小のプレスランスの保持さえ難しくなった。


 おかげでテミストスから散々な評価だ。


 だが──欠陥バトルジャックじゃない。


 ジュデス防衛戦には、王都の貧弱な設備の工房と、腕の悪い工匠どもに鞭打って五〇機も揃えられた。


 劣悪な環境でさえも大量に生産可能だ。


 極端に単純だからこそ大雑把でも動く。


 装甲の外套は醜いまでに単純を極めた。


 ローブでさえない装甲外套は、どちらかと言えば前掛けと置き盾だろうね。中距離より遠ければロングプレスランスを確実に弾き、耐えてくれる。


 大問題は火力だった。


 格闘戦ができない。


 標準プレスランス装備できない。


 なので頭に大口径プレスランスを載せた。


 簡易グーゴル式プレス機構により、高密度オブシディアンをどんなプレスランスよりも高圧でボルトを放てる。


 極端な歯車の組み合わせだ。


 高いギア比と基礎魔法の発展技術で、理論上は圧縮された空気がプラズマ化し、ボルト弾も高熱の砲弾として溶けるように敵機を貫通する筈だが、流石の僕でもそこまでの力を取り出せない。


 ただの強化されたプレスランス止まりだ。


 ちょっと強化されたプレスランスは、黒曜石の耐熱性向上が不可欠ではあるが……黒曜石を根本から性質を変えられるのは、ほぼ、魔法だけだと言って良い。


 僕は魔法が使えないので知識不足だ。


 なので黒曜石の耐熱性向上を目指さずに初速をあげる方法を模索した。加速器を幾つか用意して順番に、砲身内で継続的に加速を与え続けることで、圧力を維持したまま長い距離を使い初速を上げている。


 破城砲と同じでは自壊するしね。


 エパルタのそれの発展型なんだ。


 そして、それを揃えて斉射した。


 ダルネイトの密集陣に大打撃だ。


 僕は、G型ランスと僕は名付けてる。


 ラーミア・フェランギは、分割した、装甲外套とG型ランスが売りなわけじゃない。


 ラーミア・フェランギが野戦の塹壕陣地で巨大な工房とも言えるものを作り上げる。人が、整えられた足場と屋根のある建物でやることを、バトルジャックがやっていた。


 黒曜石を加工する。


 修理する。研磨する。


 水を撒く。持ち上げる。


 切り出したばかりの無垢の黒曜石は、みるみるうちにボルト弾用の圧縮オブシディアンに加工されていく。ラーミア・フェランギは群体で工房でもあるのだ。


 群体で工房を構成する最小単位。


 移動工房構想がラーミア・フェランギ。


 体力が無い人間でも安心なドォレムだ。


「ダルネイトの基礎を設計したのが僕」


「やっぱりハゲの仕業かー!!」


 リアー姫はやっぱり怒っていた。


「落ち着いてくださいリアー姫」


「そうだな、そうであるな。忘れていた。お前はカーリアの裏切り者で大罪人であることを忘れていた」


「カーリアでは有罪でしたね」


「こやつ! 反省は無いのか」


「僕はドドォレム開発しただけです。仕事を受けて、ですよ。それに研究室でやっていたのは学校の全員で共有していたんです。各国、同じような基礎知識はありますので、僕だけがどうこうは、不当に個人の性格と責任をくっつけていますね」


「こやつッ」


 ひえッ!?


 リアー姫が拳をあげた!!


 だがその拳は空で止まる。


 するすると拳が降りてきた。


「怒っても仕方があるまいな……カーリア国はいまだエパルタの傀儡でしか存在できん。犯罪者でも貴重な手駒というもの」


「粉骨砕身頑張りますよ、姫様」


 リアー姫に小突かれた。


「フェランギには欠陥がありそうだ」


 と、リアー姫が、実戦投入されたばかりのフェランギ完全武装体へ鋭い視線を向けている。


 ラーミア・フェランギは、確かに、カルタ・ノウァのダルネイト部隊を撃退することには成功した。しかしそれは性能差からじゃない。


 ダルネイトは決して弱いバトルジャックではないのだ。僕が初号機を組み上げたしね。当時とも大きな性能の違いはない。


 劣悪環境でこしらえたラーミア・フェランギと、カルタ・ノウァの熟練工匠が手掛けたダルネイトでは勝負にはならないだろう。


 カルタ・ノウァは、ラーミア・フェランギとの戦いから学習して、次に活かす筈だ。バトルジャックの戦闘とは、いかに環境へ対応できるかが全てと言っていい。


 魔法で動く黒曜石。


 バトルジャックの基礎なのだが、それはつまり、内部構造はすこぶる単純を極めるのだ。それこそ、同じ技術を使うヴィークル・ドォレムと比較しても、バトルジャックは戦場で自由に改装できるほど簡素だ。


 霊山ウーレイアは一大黒曜石産地。


 資源には微塵も困りはしないだろう。


 お互いどの勢力もね。


「まあ、ラーミア・フェランギの欠点は操演者達に聞き込みをして洗い出します。見ただけで全てが理解できるような人間もいませんし。正しい情報収集が最短、ですよ」

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