第6話「先を越した男」
「ファラミウス殿」
「わかっておるわ」
燃えあがる城砦を眺める。
我が一族の者がともに燃えている。
頑強な城壁、堅固な要害。
それらはことごとく、ジェストの率いるカルタ・ノウァ騎士団によって攻め滅ぼされた。
カーリア派か、カルタ・ノウァ派か。
一族は完全に割れ、カーリア派が一同に介していた場所を奇襲した。全ては、ファラミウス氏族を生かすため。
カーリア王が生きておれば……。
見逃すこともできた。
いずれが滅びようとも生きる。
だがカーリア王は、エパルタの将軍に討ち取られたのだ。であるというのにカーリアに固執するということは、悪戯に死を招く感情的な行為だ。
自死であれば良い。
だが、あまりに巻き込みすぎる。
憂いを断つため砦を攻め滅ぼす
そして息子らをことごとく斬る。
斬った。
カルタ・ノウァに好き好んで協力しているわけではない。だが我が一族だけが反抗したとて、飢えのなか、友の肉を喰らい死ぬのみ。
かつての同胞を斬る。
息子らを、斬らねば。
クシュネシワルとの連絡が途絶えたばかりか、他の植民都市とも繋がらぬ。唯一、都市をもたぬ我々が最初に接触できたのが、カルタ・ノウァだ。
堅固な霊山である。
あまりに眩しく目を細める。
夜明けが炎と血を洗い流す。
だが、我らを閉じ込める檻なのだ。
我らはどこにも逃げる事はできん。
霊山ウーレイアを統一しても変わらぬ。
「……しかしカルタ・ノウァめ。見たこともない新型バトルジャックは良いが、まるで山岳戦を心得ておらんとはな」
「め、面目ありませぬ、ファラミウス殿」
ジェスト殿に預けられているカルタ・ノウァ騎士団、それと護民官の従士団どもは、重装甲、射程の長いプレス兵器で固めて足が遅いばかりか、少なくない事故で被害を出している。
我が兵団の兵どもを黙らせるのに苦労するほどだ。友邦に悪く言いたくはないが、いささか、思慮に欠けすぎておる。
「執政官殿直属のカルタ・ノウァ騎士団と護民官殿の従士団を統一運用可能とするためのバトルジャック統合を成したばかりなのです」
「新型はダルネイトと言ったか」
「えぇ、良いバトルジャックです」
「性能が高いのは認めよう、ジェスト殿。まるでボトルの中に船を組むがごとく精緻で複雑だ。我が軍のラーミア・サリィとまるで違う」
愛機を見上げる。
黒曜の装甲には多くの傷がある。
何度、交換し、磨き、修理してもまた刻まれる傷の数々を受けてなお、我が娘で踊り子は狂いを知らぬ。
「まあ良い」
気が進まぬ親族殺しの途中だ。
眼前には最後の要害が聳える。
数日に渡る攻城戦で、ようやっと巨人の家の扉を叩ける位置に辿り着いた。高所はラーミア・サリィらがおさえ、ボルトを撃ちおろしている。
ツミであるな。
「硬い殻だけでは無駄よ。山では素早さが物を言う。脆弱なバトルジャックでは、道を歩くことさえもできまい。ジェスト殿、頼みます」
「我が騎士団の活躍、御照覧あれ!」
ジェスト殿のダルネイトがゆく。
橋の上を歩くような危険な道中であるが、カルタ・ノウァのバトルジャックどもは微塵も恐怖を見せず狭い道に敷き詰められたほど過密にゆく。
もし、どれかが狂えば、他のバトルジャックは谷底へと落ちて砕けるだろう。僅かでも心の弱さがあれば多くの死だけを悪戯に積む。
しかし、信じられぬ精神性だ。
カルタ・ノウァのダルネイトは、城壁からの迎撃で胸が半分、バリスタで撃ち抜かれようとも陣形をいささかも乱さない。
中の操演者は下半身を潰されている筈!
「カルタ・ノウァか……」
唸っていると遠眼鏡で観察する者が言う。
「城壁の上、ラーミアではありません」
「城壁か。バトルジャックを防ぐ城壁に道を作って城壁など過言であろう。押せば通れる。何がしたいのやら」
城壁を斜面で埋めておる。
城壁を崩すことはできんが……。
踏み越えれば良いのである。
「しかしボルトの射線が延々届くな」
遠眼鏡を覗く。
いても少数のカーリアの剣であろう。
戻って来られたとは聞かぬが、ラーミア程度であればわざわざ報告もするまい。
城壁の上にカーリア軍のバトルジャックだ。ラーミア……似ているが形が大きく違う。何より手足の比率がおかしい。いや、小さいのか。
「工房で改修したのか?」
ありえる話だ。
バトルジャックは容易に手を入れられる。
工房と工匠がありさえすれば良いのだ。
だが所詮は……待て、ダインスレイフ?
城壁の上に『死神』が立っていた。
あれを、見間違えようがない!!!
「不味い! 全軍を後退させよ!!」
直後──城壁が火を吹いた。
火花を散らすような弱い火。
しかし、そこからやってきたものは!
城壁に取りつかんと密集していたダルネイトが、数機纏めて、正面からバラバラに砕け散った。
城塞からの攻撃なのは明らか!
「おのれカーリアの疫病神のハゲめ!」
城壁の上を睨みつける。
ラーミア擬きが斜堤の上。
塹壕の中からプレスランスの目を向ける。
特徴的なのは前掛けに似た重厚な追加装甲。あまりに単純明快な構造過ぎてバトルジャックと言うよりは城壁の一部だ。城塞の大半は城塞ではない。この新型バトルジャック、ラーミアと似ても似つかない集団が城壁に入ってそびえておったのだ!
新型がもう一つの特徴を動かす。
プレスランスだ。
ただし『規格外』の!
プレスランスは通常、ランスの名のとおり、バトルジャックの腕でもつ。中には腕そのものとするバトルジャックも無いわけではないが……ともかく腕ではあるのである。
しかし“これ”違う、違いすぎた。
特大プレスランスを背負っている。
腕で持てないなら背負えば良い。
ことはそう単純ではないのだ。
大口径プレスランスの魅力は古今東西、大きなものであり幾度も作られてきた。そして失敗してきたからこそプレスランスの『最適な大きさ』が決められた。
長年の経験からだ!
エパルタの忌々しい破城砲でさえ、バトルジャックを複数機使うことで強引に巨大化させることに、かろうじて成功しているに過ぎない。
ハゲのラーミアは違うというのか!?
ダルネイトが新型に対してプレスランスを放つ。黒曜石の石叩きが、ボルトを弾いて撃ち出した。
威力は充分にある。
並みのバトルジャックなら撃ち抜ける。
だが、ボルトはラーミア擬きの城壁のごとき……否『城壁さえ超えた装甲』に当たり砕け散った。
高密度オブシディアン……。
反撃がくる。
ラーミア擬きが特大プレスランスを斉射。
桁違いに重質量、超高速のボルトだ。
盾を何枚重ねようが意味など、無い。
ボルトが盾をダルネイトを貫通した。
ダルネイトの半分が砕け散っていた。
なぜ黒曜石がこれほどの衝撃を耐える!?
「おのれ……ハゲめッ」
「ファラミウス殿をおさえろ!!」
撃ち合いでは勝ち目などない。
ラーミア擬きの装甲は非常に厚く、腰の抜けたボルトでは欠けもしないではないか。斜堤と塹壕のせいでダルネイトまでの射線が通っている。
そしてラーミア擬きのボルトは強力だ。
「……負けだ。さっさと下がらせよ」
ジェスト殿が死んでなければ良いが……。
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