世界創造物語・完⑪ 人の本質
「よくも!父さんと、母さんを!」
少年の心に、憎悪、苦しみ、怒り、悲しみ等の負の感情が沸き起こり席捲していく。心に生じる闇。それは誰であれ、その人を飲み込もうとする。
シュウは勢いよく、駆け出した。これはまずい。二人はそう思った。このままでは、あの少年も父と母の二の舞になる。全身全霊で異能を流し込み、中和を図る。だが、最上の闇の前では意味をなさない。
「ウォォォオオ。」
少年の拳が、シンへと命中した。シンは、微動だにせずそれを受け止めた。
「貴様も、ようやく理解したようだな。家族を失った人の悲しみを!」
シンの眼により一層の禍々しさが宿る。少年は、負の感情に身を預け幾度となくその拳をシンへとぶつける。目障りに思ったのか、シンは少年を蹴飛ばした。その後、スピカとラミラを放り投げる。
勾玉の魔法量が尽きる。堅と軟による強化も尽きる。詠唱の効果も又、底をつきようとしていた。
「お前たち、二人に問う。別に俺は貴様らに何の恨みはない。今なら、見逃してやる。早くこの場から立ち去るがいい。」
シンは、そう告げた。それは、最後の警告のように思えた。だが、二人の意思は硬かった。二人は、立ち上がる。
「理解できんな。今日世界の真実を知らされた二人。始めて出会った、少年を助ける為に命を差し出す。実に愚かとしか言いようがない。」
「確かに。そうですね。私にも分かりません。何が正しいかなんて。ですが、強い敵と戦うのは、いつになってもワクワクします。」
スピカは、自身の惑星の神に挑むほどの戦闘狂。挑み過ぎた挙句、若干卑屈になりハンデをお願いする事はあれど挑むことはやめなかった。
「あんた。相当な阿保ね。でも同感。強い奴との戦いはなんか燃える。」
ラミラも又、戦いを好んでいた。時には、ヨウの制止を振り切って迄戦いに挑むことがあった。
「やはり、人の本質は争いか。」
シンは、昔。姉と話し合ったことを、思い起こす。彼女は、人の本質は優しさだと言った。だが、今。彼女達を突き動かしてるのはそんな感情ではない。シンはそう判断した。
「人の本質ね。ヨウもそうなこと言っては。まぁ、彼女の言っていたのはあんたと真逆。優しさだってね。」
「人の本質が優しさね。面白いことを言いますねヨウさん。でも確かに、言いそうですね。」
ラミラとスピカは、それぞれ別のヨウを思い浮かべたが、いくつかの共通点があった。
「でも人の本質は、争いでも優しさでもないと私は、思うわ。」
「同感です。」
かつてヨウは人の本質は、優しさだと説いていた。だが、それはある教え子に問いただされた。それが、ラミラ。以降、ヨウはそれに賛同した。
シンはそんな二人のやり取りに、心打たれそうになった。なら、人の本質とっは一体なんなんだ。
「お前たちの中に、その答えがあるというのか。矮小な力しか持たない、お前たちの中に。」
「ええ。」
「勿論。」
二人は自信ありげにそう、答えた。シンは、その自身に怯みそうになり問い続けた。
「ならば、問う。人の本質とはなんだ。」
「そんなの決まっている。」
「ええ。たった一つこれだけ。」
二人は、その表情を崩さない。彼女達は、持っていた。人の本質、その確固たる答えを。
「それは―」
「それは―」
「「自由です!」」
自由。それは、束縛されていない事。では具体的に、それは何なのか。自は、自身の心を表す。そして由は、根源とそれに従うことを表す。つまり自由とは本心が束縛されずそれに従い行動する事。それが彼女達の、人の本質とは何かの答え。
「何だと。」
二人から出た答えに、シンは何の言葉も出ず驚愕した。答えになっていない。そう思った。だが、その後に気が付いた。気が付いてしまったのだ。自身の過ちに。そもそもの発想が間違っていたのだ。支配者を君臨させようとした。それが、間違っていた。
―シンに隙が生まれた。
「シュウ。お前は、このまま立ち止まるのか?」
どこからか、そんな声がした。その声は、シュウの元にだけ届いた。白と黒髪の少年。その白髪部分が僅かに輝きを放つ。少年は、立ち上がった。様々な人の思いを、その手に集中させる。
隙を見せるシンに駆けより、全身全霊をもってシンに拳を突き付ける。異能が開花していない者の
シンは、怯んだ。シュウが拳をぶつけたその場所は、幾度となく父と母が攻撃を与えた場所だった。
「やはり、そこに居たのですね、収。」
こことは別の場所。通常とは違う世界の理の中で、ルナはそう呟いた。
〈にしても、人の本質は自由とは。確かに、そうかもしれませんね。〉
クスっと、ルナは笑った。だが結局、守りにあたるもの、先導者がいなければ崩壊するだけだとも考える。
「一旦は、ここで幕引きにしましょう。結論を出すのは、これからです。」
シンは、その気配を感じ取った。そして、不敵な笑みを浮かべてこう告げる。
「今日は、ここまでにしてやろう。収穫もあったしな。だが、結局。支配者が必要という結論は変わらない。まぁ、精々あがけ愚かな人間よ。この惑星が完全崩壊するその日まで。フッハハハハ」
禍々しい笑い声と共に、シンは姿を消した。スピカとラミラはシュウに駆け寄る。シュウはいち早く眠りについていた。
「「これは、一体。」」
少年の身体に、傷は残ってなかった。掠り傷一つさえも。ボロボロの少女二人は、訝しげな表情を浮かべお互いを見つめる。
―そして、地球にいる魂全てがその光を見て夢に落ちる。
「最上の光。ホールドリーム」
ホワイトホール。それは、高密度なエネルギーを放出するという未観測の事象。シンは、その光から、逃げるかのようにルナのいる場所とは別の場所に移動したのであった。
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