世界創造物語・完⑩ 最上の闇

「なんて奴。まさかこれ程とは。」

 シンは、この属性名を上位の闇と言った。恐らく、最上の闇も存在するのだろう。おまけにシンは約半分とは言え理力と神術を扱える。勝てる訳無い。

―だが。

「ほう、未だ立ち上がるか。」

「当然でしょ、大切な人(ともだち)に託されましたから。何が何でもやり遂げます。」

 スピカは、よろめきながらも立ち上がった。祝詞の及ぼした効果はまだ持続している。

「ふむ。今日なったばかりの友達に、そこまでするのか。甘いな。だがある意味、兄としては誇らしく思う。」

「そりゃ、どうも。」

「そんな、お前を傷つけたくはない。」

「ならなぜ、あの少年を。」

「すべての元凶だからだ。擁護は出来ん。」

 収は確かにすべての元凶と言える存在と言える存在。シン曰くその魂はシュウの中にある。あの日、収と葉は出会い、彼女は彼に世界を救う可能性を見出した。結果、彼女は一旦死んだ。その後転生して生きていたとしてもそれは変わらない。

 這いつくばりながらラミラは、ふと考える。収と葉が出会わなければどうなっていただろう。分断された世界、その中の一つ。過酷な世界の中で生きた少女は思った。あの事件がなければ世界はもっと残酷なものになっていたかもしれないと。生まれる前、遥か昔の出来事だけれども、その出来事がなければ今の私の人生は、きっと無かったのだと。

―だからこそ

「私は、彼の行いを否定できない!」

 ラミラは、再び立ち上がる。世界を救おうとした、亡き少年の為。そして、大切な人との約束を果たすために。

「そうか、貴様。死にたいようだな。」

 ラミラとシンが睨みあう。異能による力の差は歴然。あとは、どれだけ思いが強いかそれが鍵になる。

「おやおや、私は仲間はずれですか?」

 スピカが、話の間に割って入る。三人の思いが交わり火花を散らす中、白と黒髪の少年は歯噛みしていた。

〈俺は、何も。できないのか・・・〉

 狙れているのは自分。あの二人は、自分さえ死ねば助かる。少年の中に、そんな考えが思い浮かぶ。そんな中、少年のそんな考えを他所にその父と母は、立ち上がる。

「シン!俺たちも相手してやる。」

「愛息子を、これ以上恐怖のどん底に陥れようとするなら、容赦はしないわ。」

 二人は、虚勢を張っていた。声は出ていたが、その手足は震えている。

 愚かな人間はそれぞれの守るべきモノの為に、┃地球の神の血を引くシンに立ち向かう。

「いいだろう、まとめて相手してやる。」

斥力リパルジョン音速ソニック殴打ブロー

 先制を仕掛けたのは、スピカだった。音に乗せて放たれたその拳は、相互い衝撃波を生んだ。だが、その一撃は、難なくシンの上位の闇の前で防がれた。

「風水木火・エンハンスジェットストライク」

 シンの息つく隙を与えないまま、魔法で身体強化を施して魔法の渦を発生させながら頭から猛突進をかける。

「ふん、愚かめ。闇・ホールスロー」

 ラミラのその攻撃は、楽々と闇魔法によって受け止められその後、投げられた。

「愚かで結構!斥力リパルジョン・うわああ」

 スピカは、再び攻撃を仕掛けようとしたが技の発動前に、堅と軟の近くへと投げ飛ばされた。

 付近で倒れこむスピカを見て、堅と軟は歯噛みする。勢いよく啖呵を切ったのはいいが入る隙が無い。そんな堅の足にスピカは倒れながらも掴み寄る。


〈このままじゃ、戦いにもならない。〉

 ラミラは、歯噛みしながら辺りを見渡す。そこに赤く光る物体が目に留まり、ラミラはその男に近づいた。


「どうした?もう、終わりか?」

「「そんな訳、無いでしょうが!」」

 二人は、未だ立ち上がり、ラミラの身体から、炎が漏れ出す。

「炎魔人ですらないお前が、その勾玉を使うか!いいだろう!存分に使うがよい!」

 地盤が崩れ無くなろうとしている世界の中で、鳳凰はそれを察知し一人声を荒げた。

 スピカの身体と異能も又、堅と軟の異能によって強化されていた。その身体には堅さが宿りその攻撃は相手を軟弱化させつつダメージを与える。

「「行くわよ。」」

 即席の強化を、施した二人がシンに猛突を仕掛ける。シュウはただ、それを見守る事しか出来ずにいた。

「炎風水木・エンハンスジェト―」

 上位種を含めた四属性の魔法技。その攻撃力はその相乗効果も相まって、フレイムの放った魔法技よりも数段上の高火力を生み出した。

理力フォース・堅軟猛銃マグナム―」

 強化と弱体化の両方の特性を合わせた攻撃は、より一層の卑劣さを生み出す一撃となる。

「「殴打ブロー」」

 同時に対の場所から猛突し発生された攻撃に対し、シンは両手に魔法を集中させる。

「鳳波世雷・併せて最上の闇。ホールウォール」

 その技の発生の意図には、格の違いを見せつけて諦めさせようという狙いがあった。上位の闇でも、フタリの攻撃は凌げていた筈だ。だが、両手が塞げたことに勢いづいた二人がいた。この好機、逃しては一生倒せない。そう二人は感じていた。

「軟弱化」

「堅固の拳」

 シンとナンはほぼ同時に決死の覚悟で駆け出し、シンに攻撃を仕掛けた。そしてその攻撃は、腹部へと命中した。だが。

「いい加減。目障りだ。」

 ぞっとした。暗雲立ち込めるとは、まさにこの事だった。その闇光が禍々しさを増す。

「そもそも。あの少年の魂が生きながらえているのは、恐らくあんた達の息子の名能によるもの。あんた達が、シュウと名付けなければ、こんな争いに発展しなかった。」

 名が体を表す異能。名能。その効力は、名前に由来する。もし、シュウと名付けなければ収の魂は未だ眠ったままだったかもしれない。

「「ア゙アァァ…」」

 闇魔法。それは、吸縮を現す。開かれた腕。その手の中で発生させられたその技は、その両端から二人を引きちぎった。


「…。」

 通常とは別の理の世界の中で、その動向を見守っていた女性は、声を発せず只口を押えた。


「なんて奴。」

 ラミラもまた声を出せずにいた。スピカはその光景の残酷さに呑まれ言葉をこぼす。


 世界が灰色へと移り変わり、音を消す。世界が消滅する音、そんな音が少年の中に響きわたった。


ー暗くなった世界の中、少年は立ち上がる。絶望を、その手に乗せて。

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