世界創造物語・完⑨ シンvsスピカ
(やはり、白どまりか。〉
勾玉を使用すると、通常二段階上の炎を扱える。しかし、黄色の炎を扱えるようになったばかりのフレイムは、その一段上の白の火までしか引き出せなかった。
〈鳳凰様、すみません。無許可で、勾玉を使ってしまい。〉
フレイムは、心の中でその主に謝罪する。相手は、明かに格上。出し惜しみしては、速攻殺される。
「なんだ?火だるま。お前が、俺の相手をするのか?」
「ああ、そうだよ。文句あるのか?」
フレイムは、息を切らしていた。一度尽きた魔法量。ラミラのお陰で目覚めることが出来たとは言え、万全とは言い難い。そして、強化後初めての勾玉の使用。意識を保つのがやっとだった。その上、相手は神の血を引くもの。威圧感が物凄い。
「文句はないさ。だが、手加減はしないぞ。」
「望むところだ!炎・フレイムフィスト」
自身の名前を冠した炎の拳を、神の子へ飛ばす。その熱量はすさまじく、地下1M圏内を消し炭にしながら、シンへと襲い掛かる。
―だが。
「この程度か、最強の炎魔人。拡散しすぎだ、未熟いやそれ以上のあほめ。」
シンは、そう言い放ち息を吸う。そして、ろうそくの火を消すかのように息を吐き、その炎を消す。
「な、なに―」
フレイムは、気絶させられた。それは、あまりにも一瞬の出来事で何が起きたか、わらなかった。
「よっわ。」
思わず、シュウは声に出して呟いた。だが、フレイムが弱いわけではない。シンがただ強すぎるのだ。
〈あの役立たず。〉
突っ込んだ建物の中に身を潜めていた、ラミラは心の中で呟いた。辺りが静まり返る。そんな中、ある地点が突如として金色に輝いた。
フレイムが、勾玉を行使した数秒後。スピカは、再び目を瞑り祈りの仕草をしていた。そして、手を天に掲げ祝詞を口にする。
「
彼女の放つオーラが、より一層煌びやかなものへと変化する。フレイムとの戦闘を終えてシンは、その姿を目で捉える。
「スピカが、力を開放したな。」
「そうですね。これは、何かありましたね。」
金星に存在する神々が、それに反応した。スピカがその力を開放する事は、滅多にない。神術無しの戦いにおいて、その神とスピカとの戦いは神のショウ率が6割といったほど。幾ら神とはいえ万全な状況でなければ、そのスピカには神術無しでは勝てない。
スピカの頭上に、金星を表す惑星記号が浮かび上がる。その威圧感は、神にも匹敵する。
〈どうやら、神の子というのはハッタリではないようだな。〉
〈凄い。あいつ、本当に強いんだ。〉
シンは、冷や汗をかいた。そして、ラミラは感心した表情を浮かべる。それを見た他の人々はその姿に魅了されていた。
「行きます。」
「来い!」
その一言が、戦いの合図となった。スピカは、斥力を用いて地面を蹴りシンへと猛突する。
「
引力で、自身の拳にシンを引き寄せ斥力を用いて全力でぶん殴る卑劣な技。それを、連続で浴びせる。少し、間を開き今度は蹴りを加える。
「
シンは、魔法で対策を練ろうとするがどれも不発に終わっていた。最上位種の魔法の単体使用、複数同時使用しただけでは、歯が立たない。
〈魔法。かつて、地球の神は火星の神にそれを行使したが無属性以外何の効果を発揮できなかった。その後、永遠と続く戦いの中で進化した姿。上位種と最上位種。その魔法は、先程確かに通用した。だが、力を開放したこいつには敵わない…〉
攻撃を喰らいながらも、シンは分析した。一方的にやられ続けるシンに訝し気になりながら、スピカは攻撃を浴びせ続ける。
「おや、おや。やられぱなしですか?お得意の魔法はここまでですか?」
スピカは挑発する。それの意図する中に他の異能を行為させないという狙いがあった。神術を扱われれば、成す術がなくなる。
「な訳、無いだろう。」
シンは、そう言いながらにやりと笑った。理力や、神術を扱えばスピカには勝てるだろう。しかし、それだけでは地球を狙って攻めてくるであろう他の神々には勝てない。神の扱う力の約半分しか持ち合わせていない以上、唯一の差である魔法での対抗策がなければ神々に勝つことは難しい。シンは、手に魔法を集中させる。そこに小さく黒紫の光が灯る。
「闇・ホール。」
スピカの拳が、その光に吸い込まれそうになる。スピカは、自身の手に斥力を流し込む。
「なんの!斥力(リパルジョン)・反発(リぺリング)」
吸い込まれようとされる拳に、斥力を流すことでその魔法を弾いた。その反動で、シンはその手を後ろに逸らす。
〈闇魔法が通用しないだと。母上の力には劣ると言え、これは…〉
〈これが、無属性の魔法。厄介ですね。そういえば、修練の際。無がどうたらこうたら言われましたが、この事ですか。お陰で一応対抗できましたが。〉
無属性の魔法。それは、火星の神に唯一通用した魔法。無属性は、闇魔法、光魔法、無魔法に分類される。地球の神と火星の神との一戦。地球の神が制したこの戦いだが、その噂は広まりそれに対抗する策が練られていった。その戦い後すぐに、地球は閉ざされた惑星となった為、誰も試したことがなかったが、どうやら少しは通用したようだ。
スピカは、自身の手に目をやる。感覚が鈍い。先ほどの闇魔法を受けた後遺症だろう。恐らく、尾を引くレベルではないが戦闘中はこれが続くと考えた方がよさそうですね。
「まさか、無属性の魔法がその効果を発揮できないとは。成長したのは、魔法使いだけではないようですね。」
こことは別の場所。通常の理とは別の場所からその戦いを見守る、もう一人の神の子・ルナは言葉を漏らした、
「やるな、金星の神の子。これは、驚いた。」
「それは、どうも。」
「だが、魔法は進化した。お前たちに対抗すべく。」
「それがどうしました?悉く通用してないようですが。」
「それは、どうかな?」
シンは、再び魔法を手に流しこむ。そして先ほどより濃く、その手に黒紫の光が灯る。
「炎・清・樹・山・鳥、合わせて、上位の闇・ホールフィスト」
「なんですって?」
スピカは、驚愕した。そしてそのまま拳へと、引きずり込まれる。斥力を展開するが、今度はまるで通用しない。
〈これは…やばいですね〉
「
なんとか発声し、強化を施した技を展開するも効果が発揮できない。スピカは、踏ん張りながらも拳に吸い込まれる。吸い込まれるのは、スピカだけでは無かった。
始めてのその技の発動。その為か、その技は拡散し意図せず他の物に影響を及ぼした。建物や地面に転がる砂利等も引き込まれる。ブラックホール、それに引きずられた物体は、極限まで引き延ばされやがて分裂し消滅すると言われている。
建物にしがみつく進藤家の三人。幾らか離れている場所に居るが、その技の影響力は恐ろしい。シュウはまだ異能を開花させていない。そんな我が子を守る為、父と母は覆いかぶさり息子を守る。
〈このままじゃヤバイ。〉
スピカの真の力をもってしても、あの男には敵わないと悟ったラミラ。彼女は引きずりこまれそうになりながら破れかぶれで魔法を行使する。
「うぉおおおお・ブラストハリケーン」
技名の発声もままらないまま、両手から全力で魔法を放つ。破壊力をもった暴風の渦がシンに向かって放たれ接触。シンはラミらの方を覗き見、魔法を中断。スピカに拳をぶつける。
その後の反動は、引き延ばされたゴムが急に離されたかの如く影響を及ぼし、闇魔法が及ぼした力の向きと逆方向に突風を引き起こした。
「ふむ。少しやりすぎたな。」
崩壊していく世界の中で、不必要な破壊を行った神の子は自省した。
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