世界創造物語・完⑧ 大切な友達の為に

〈あれは…やばい。助けなきゃ。〉

 その技が向かう方向に、先程の少年の気配を感じる。助けなきゃ、と考えるものの技の反動と魔法切れで体が動かない。ラミラは、自分の無力さに歯噛みする。

 その技は建物を飲み込み、跡形もなく消し去った。並の人間では回避することも不可能だろう。回避しようとしても、吸い込まれるのがオチだ。無属性・闇魔法。その魔法の威力は途轍もないモノだった。

―だが。

 その近くから、一人のシルエットが浮かび上がる。よく見ると、別の建物の物陰に三人の姿があった。どうやら、少年は無事なようだ。ラミラは、ほっと胸を撫でおろす。

「本当、危ないところでしたよぉ。死んでしまうところでしたぁ。」

 三人の命を救った少女は、飄々とした口調で、それでいて鋭い眼差しでこちらへと向かってくる。

「貴様、何故?そいつを助ける!」

「ヨウさんの、大切な家族だからです!」

 シンの問いに、蜂蜜色の髪の少女は答えた。この時ラミラは知る由もかったが、彼女は空の界でのヨウの友人だった。

「それで、この俺に歯向かうつもりか?惑星の侵攻者が!」

「まぁ。そうですねぇ。この人たちを、見逃してくださるのなら話は別ですかねぇ。」

「見逃すわけ無いだろう。」

「そうですか。」

 その姿が、見えなくなる。いや、余りにも高速すぎて目で追えなくなったのだ。数秒後、その余波と衝撃波がくる。シンは、軽々とその拳を手で受けていた。

「これを、止めますか。」

「ああ、当然だろ。」

 シンの手から、血らしきものが流れ出る。押すように力を入れ、スピカとの距離を取る。その手は腫れていた。

〈こいつ、強いな。さて、魔法がどれ程通用するかこいつで確かめるか。〉

 魔法。理力の代わりに、地球に住まう一部の人間が操る異能。火星の神・マルスの操る理力に対して、地球の神・アースの魔法は全くと言っていい程通用しなかった。

「貴様、名は?」

「私の名はスピカ。ヨウの友人。そして、これは秘密なのですがぁ。貴方と同じ、神の子ですぅ。」

「何?」

 シンは、驚いた。もし仮に彼女の言うことが正しいのであれば、神術を扱い時空を操る事が可能かもしれない。だが、簡単に秘密を暴露した少女の言葉は、まだ続く。

「とは言え、神術の類は扱えないんですよねぇ。あの二方、好奇心旺盛過ぎてぇ本当に自身が神々から生を受けたのか怪しいのですよぉ。」

 やれやれと言う口調で、スピカはそう話す。シンは、唖然としていた。この女、馬鹿なのか?たとえ扱えないとしても、隠しておけばブラフとして有効のはずなのに。

「やれやれ、豚に真珠とは正にこの事だな。」

「どういう意味ですかぁ、それぇ。」

「別に、こっちの話だ。」

 シンは、思わず言葉を漏らしたが再び思考を張り巡らせる。馬鹿にされている事だけ気が付いた少女は、不機嫌そうにこちらを見ている。

〈とはいえ、こいつの理力は本物だ。魔法だけで通用するのか?〉

 シンの異能は、魔法だけではない。だが、引力と時間支配を得意とするものの、斥力と空間支配においては実用可能レベルには達していない。

「なぁ、今のうちに逃げた方がよくないか?」

「そうね。」

「ばれないように、こっそり動くぞ。」

 抜き足、差し足、忍び足。進藤家の三人は、小声で作戦会議をした後ゆっくりとその場からの逃走を図る。

「逃げても、無駄だぞ。」

 彼らの動向に気が付いたシンは、そう警告する。彼らの逃げる時間を確保する為にも、戦わなければとスピカは覚悟を決め、ラミラは自身の回復を急ぐ。

「最初から、本気で行きます。」

 彼女はそう言うと、目を瞑り祈るような仕草をする。これはまずいと、悟ったシンは魔法を繰り出す。

「清・スパウト」

〈あれは、清冷族(セイレーン)の…。〉

 シンの繰り出した魔法は、水の上位種・清冷族の魔法だった。その水の温度は凍てつくほど冷たい。

「冷た。」

 それを受けた、スピカは思わず口を零す。だが、彼女の祈りの手は解けない。

〈やはり、通用しないか。ならば。〉

「波・スパウト」

 次にシンが放った技は、水の最上位種・波王(ポセイドン)の魔法だった。その温度は、絶対零度に達する。それが高圧力で噴射された。

「うう。」

 スピカは呻き声を零し、手を解く。その手は、青白くなっていた。手がかじかむそんな生半可なものでは無かった。

〈うう、力を開放するにもここでは時間がかかりすぎますねぇ。それにこの手ではもう。〉

〈これは、手ごたえありだな。あとは、威力。〉

〈あの女、さっきから何を?でも、秘策な筈よね。でも、どうすれば。〉

 三人の思いが錯綜する中、ラミラは辺りを見渡す。ラミラの魔法量は、自然豊かなこの地の影響かそれから離れて行った奪取だけでも、その半分が回復していた。周囲にあるものを見つけたラミラは、手に火の魔法を集中させ立ち上がる。

「今度は、私が相手よ。」

「お前は、馬鹿か。あれほど力の差を見せつけたのにまだ立ち向かうというのか。」

 そう言われながらもラミラは、蜂蜜色の長髪少女に視線を送る。そして、シンの傍で倒れているある男の方へ視線をやる。

「行くわよ。」

 その言葉は、シンに放った言葉では無かった。たが、シンはその真意に気が付かない。ラミラは足に風の魔法を集中させ猛突進をする。

〈あの少女の力じゃ、恐らく相手にならない。私ですら…〉

 スピカは、少女の動向見守りながら思考を張り巡らす。手が冷えて痛い。なんとか、異能を流して応急処置をしているが、壊死するのも時間の問題だ。そんな中、スピカは金髪少女の手に赤い光が灯っているのが見える。

〈さっき、あの少女。こちらを見ましたよね。そしてその後、あの辺りを…なる程。そういう事ですか。〉

 スピカはラミラの考えを察し、足に異能を集中させる。それを感じ取ったラミラは、ニヤリと笑い再度足に魔法を集中させる。

「風・エンハンスジェットストライク」

 ラミラは、シンに向かい猛突するが彼の方を見ていない。シンは、それを躱すとラミラはその奥の建物の壁に激突した。

「馬鹿め。」

 だが、ラミラの目的は達成した。先ほどのシンの奥建物に至るまでの間に、その男はいた。その男にラミラは、自身の火属性魔法をありったけ流し込んでいた。その男が、目覚める。その男はスピカと共に建物の物陰に居た。

「どなたか存じませんが、力。お貸していただけませんかぁ?」

「何となく、状況は分かっている。」

「なら話が早いですねでは、失礼して。」

「冷た。」

 スピカは、その男の肌へと手を触れる。その男は、怯みつつも魔法を彼女の手に流しこみその手を熱する。

「ありがとうございます。それと、時間稼ぎ頼みますぅ。」

「言われなくても。」

 フレイム・イフリート。彼は、白の炎を灯しシンに立ち向かう。

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