世界創造物語・完⑥ 力の差
「さて、この状況。どう動きますかねぇ。」
スピカは、地球上空へと降り立っていた。彼女は、友人と地球を覆う障壁を貫いた光を追ってこの惑星の内部へと入っていたのだ。
スピカは、上空で自身がどう動くべきかを考えていた。ポリマは、ここには居ない。現時点ではスピカのみが地球へと飛来していた。
〈うーん。ポリマがいてくれれば…迷わず行動に移すことが出来るのですけどねぇ。まぁ、しょうがないですよねぇ。弁明役がいないとどんな天罰が下されるか分かったもんじゃありませんからねぇ。〉
スピカは、友人になったばかりのヨウを汲み取りすぐさま駆け付けた。対してポリマは、自身の主に報告すべく金星への帰還を図っていた。
〈もう、スピカのヤツ。勝手な行動ばかりして…。まぁ、しょうがない。そっちは頼んだわよ。〉
ポリマは、自身の惑星へと向かう道中自由奔放な相方に苛立ちながらも、そう念じていた。
〈今頃、ポリマ怒っているでしょうねぇ。それはさておいて、あの少年。恐らくあれが、悲痛な叫び声をあげていた少年でしょう。そして、この世界においてのヨウさんと近しい関係を持った人物。〉
スピカの考えは、的を得ていた。彼女は、幾度も体験していた。声ではなく脳に直接言葉を投げかけられるあの感覚。今回の声の主は少年の様だったが、恐らくヨウが最後の力を使いその声を届けさせたのであろう。その少年を、守るために。
〈そして、金髪少女もまた。それにあたる人物ですかねぇ。ほんと、驚きましたぁ。地球野中も二つに分かれているんですからねぇ。〉
はぁー。スピカは、溜息をついた。状況は混沌を極めていた。地球に来たのはいいが、見知らぬ土地。流石のスピカでもすぐには、行動に移せなかった。そして、一応手に持っているこの男。一つ目の地面に降り着いた際、問答無用で襲い掛かってきたので迎え撃ったのだが、その後に足場が崩れ今に至っていた。
〈にしてもこの男、少々熱いですねぇ。これは、本当に人間なのでしょうかぁ。この惑星の他の人たちとあまり共通点は見いだせないのですがぁ。〉
彼女の持っている男。彼の名は、フレイム・イフリート。彼はヨウとの戦いを中断させられた挙句、ラミラに逃げられてしまったため、ムシャクシャしてその地に舞い降りたスピカに攻撃を仕掛けたのであった。そして、瞬殺。正確には気絶しているだけだが、その炎は消えかかっていた。
〈ああ、もう。考える事多すぎて嫌になっちゃいますねぇ。この男は、何処かに捨て置いて手が空いてそうな、あの白半分黒半分の少年に話を聞くとしますかねぇ。話が通じるといいのですがぁ。〉
そう思い立ったスピカは、フレイムを手放し白と黒髪の少年の元へ急接近した。フレイムは、戦いを繰り広げるラミラとシンの近くに落ちていく。
ラミラと、シンの戦いはより一層激しさを増していた。幾度となく攻撃を与え続けるラミラだが全く手応えがない。
「はぁ。はぁ。」
扱える全属性を行使続けていた少女は、魔法量と体力の限界が刻々と近づいていた。
〈こんなんじゃダメだ。全属性をただ行使するだけじゃ、埒が明かない。魔法を理解しろ?それに世界もって、そんな時間(よゆう)今は無い。ならどうする?〉
戦いの強い緊張感の中、少女は思考を張り巡らす。だがしかし、シンの猛攻は止まらない。興が乗ったのかシンは高揚のままラミラへと襲い掛かる。
「どうした?ラミラ・フーキカ。防ぐ一方か?水・ラッシュフィスト」
シンは水の魔法を拳に纏い、連打をラミラに浴びせる。対するラミラは、自身の身体能力の強化を続けたまま、魔法を繰り出し身を守っていた。
「うっさい。怪物。水木火風・エンハンスディフェンス」
ラミラにとって、防戦一方な状況が続く。攻撃に転じる余裕がない。先ほどの、
シンの言葉あれには、何か裏がある。そんな事考えても仕方がない。今は、一撃でもまともに食らわせる。まずはそれからだ。ラミラはそう思考を張り巡らせていた。
〈一撃を浴びせる。あいつの防御力は凄まじい。それを、陵駕する為の方法。一か八かやってみるか。〉
ラミラは、思いっきり地面を蹴りシンとの距離を取る。そんな彼女に対し、シンは不敵にほほ笑む。
〈ほう、何か思いついたようだな。受けてやるぞ、ラミラ・フーキカ。いや、ラミラ・フスキカ〉
シンは、ここまでの戦闘でラミラの事をある程度は認めていた。戦いの最中、ラミラの攻撃や適応能力は本人が自覚してるしていないに関わらず大きく向上するゾーンに近い状態へと張っていた。そんな中ラミラは自身の魔法を一点に集め、その拳に特異的な光が灯る。
〈ほう、もしやこの女。〉
その光にシンは、ある一つの可能性を導き出していた。そして、ラミラの魔法が身体から漏れ出る。
〈こんなんじゃダメだ。もっと、もっと。魔法を集中させろ。〉
ラミラは、ひたすらに魔法を拳に流し一点に集める。漏れ出ていた魔法がその拳へと集約していた。
「いくよ、神様。避けないでよね。」
ラミラは拳に魔法を集約させたまま、シンを挑発した。一方神の子は、その場に立ち止まったまま言葉を返す。
「いいだろ。地球の神に誓い、その子供である俺。シン・ガイースが曽於の攻撃を受けてやろう。」
「ふん。ありがとう。」
そう告げるや否や、ラミラはその姿を消した。否、目に映らぬ移動速度で、急接近。拳を、神の子にぶつける。
「一点集中・風水木火・マグナムフィスト」
魔法を一点に集約させた、凄まじい破壊力を誇る一撃がシンへと襲い掛かる。
バゴォン。
シンの腹部を捉えた拳から凄まじい衝撃波を生み出し、地面のコンクリートを剝がしながら砂嵐を巻き起こす。
やがて砂嵐がおさまり、ラミラとシンの姿が露わになる。二人は、向き合い立っていた。そして、ラミラが膝をついた。技の反動で全身が痛む。だが、シンにそんな様子は見当たらない。
「ば、バケモノ。」
思わずラミラは、言葉を零した。異能を使うそぶりを見せずこの男は、少女の正真正銘全力の一撃を怯むことなく耐えていたのだ。
―だが。ごほ。遅れながらシンは、唾を吐きその場に膝をついた。
図らずか、ラミラの放ったその一撃はナンが先ほど軟弱化させていた場所へと命中していたのだ。先ほどの砂嵐の影響か二人の姿はここにはない。周辺に散らばっていたはずの水滴も。
ラミラの隣に、男が落ちてきた。それは、空の界で相対したフレイム・イフリート損人だった。
〈なんでこいつが、こんな姿で落ちて。〉
ラミラは、不意に落ちてきた男へと視線を映す。フレイムの体は、不自然に凹んでいた。コロンと物音がし、ラミラは直ぐに向き直った。
「もう、来たか。」
立ち上がったシンは、静かにそう呟いた。ラミラは、反射的に言葉を返す。
「何が?」
「いや、こっちの話だ。それより、ラミラ。効いたぞ、さっきの一撃。魔法を使って防御しなければ死んでいたかもしれんな。」
「魔法を、使って?」
ラミラは、その言葉に少し驚いていた。そんな素振りは一切見えなかったからである。
「ああ。さっき撒いてあっただろう。魔法の雨を。」
ラミラは、思い返す。シンが先程、教鞭をとる前に振らせていた雨の事を。
「まさか。それを?」
「ああ、まぁそれだけでは足りなかったからな。それを盾にし、更に魔法を腹へと集約させ防いだのだ。」
「なるほど。」
ラミラは、安堵した。手加減されているとは言え、膝をつけさせることが出来たのだ。一矢報いるその思いは果たせた。そして、ラミラは死を覚悟し視線を落とす。
「それでも尚、俺に膝をつけさせた。褒美だ。貴様に、見せてやろう。神の子の力、その一端を。」
シンは、両手を天に掲げ黒紫の光を出現させる。ラミラは、再び顔を上げその光景を目に焼き付ける。
「闇・ホールスパウト」
突如現出した、シンを包む程の大きさのブラックホールのような黒い塊。それが、放出される。それは、ラミラの腕すれすれを通り建物の隙間へと向かっていった。ラミラは、それの行く末を目で追う。
〈あれは。〉
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