世界創造物語・完⑤ 魔法の真価

「水木火風・エンハンス」

 ラミラは、扱えるすべての魔法属性を使い身体能力などの強化を行う。だが、先程の小競り合いでの力の差は明白。それに、相手はその異能を見せていない。

〈魔法量の配分なんてしてる場合じゃない。魔法切れ覚悟で戦わなきゃ殺される。〉

 神の子に歯向かおうとしているのだ。生半可な気持ちでは戦えない。シンに劣るであろう最上位種でさえ、ラミラは一度も勝てた事も勝てる見込みもない。炎魔人三人との戦闘で、多少強くなったとはいえ。その実力差が極端に縮まっているとは考えにくい。

 金髪少女が冷や汗を掻きながらシンを見つめている一方、シンは何か期待している様子でラミラを眺めていた。彼は、彼女を殺すつもりなんて更々無かった。

〈ふむ。中々の魔法量だ。それに…。だが、あまりにも稚拙。扱いが雑すぎる。これでは、宇宙からの侵略者相手に勝てる見込みなど万に一つもないな。さて、この戦いで力の使い方を学習してくれるといいが。〉

 シンは、妹に託されたこの世界を完全には見捨ててはいなかった。取り敢えず、最後の日までこの惑星は地球人の惑星として存在させるというのが、現段階での彼の考えであった。

「中々の魔法量。興が乗った。こちらも魔法を使おうとしよう。」

「…。」

 シンのその言葉で、より一層緊張感が高まる。シンを睨めつけているラミラの心拍はより一層高まっていた。

「但し、一属性だけな。」

 シンは静かにそう告げた。そう告げられるやな否や、先に行動を起こしたのはラミラだった。ラミラは、ありったけの魔法を使い急接近。この時、ラミラは気が付いていないがその速度は先ほどまでのシンの移動速度を陵駕していた。

「水木火風・バーストボム」

 ラミラはその速度を落とさないまま、強化魔法(エンハンス)に重ね合わせる形で魔法を発動。通常発動時でも木造一軒家ぐらいなら木端微塵できる程の威力。殴った衝撃の後にも生じる爆発波は重ね合わせの影響を受け更なる破壊力をもたらす。だが、シンには通用しなかった。否、正確にはシンに後ずさりさせるほどのダメージは与えた。だが、外傷としてはやや頬が赤くなる程度であった。

〈こんなんじゃ、全然ダメだ。攻撃が思うように纏まらない。〉

 先ほどの一撃は、ラミラにとって自身の全属性を扱った渾身の一撃だった。だが、その属性は思うように共存せず拡散してしまっていた。

「ふん。この程度か。次はこっちから行くぞ。」

シンはそう言うと、指から水滴を出現させる。近くに居るラミラヵらも見えるか見えないほどの大きさのそれをシンは空。いやより正確には雲に向け投げた。

「一体、何を。」

 思わずラミラは、心中を吐露する。この男が無駄なことをする何て少女には思えなかった。そんな少女を見てシンは微笑みまるで教鞭をとるかのように、言葉を発した。

「貴様も知って居るだろ?魔法は定着する。」

「それが何?あんな少量の魔法じゃそれは不可能。」

「不可能?それはどうかな。」

 シンは不敵にほほ笑み、手の甲を空に向けたまま手を掲げる。ラミラは、彼の様子を臨戦態勢を保ちながら窺っていた。

「水・レイン」

 突如、膨大な雨が空から降ってきた。しかし、それ自体に攻撃力は言うほど無かった。

「これは、只の雨?」

 空の界でもごく稀に普通の雨が降る事はあった。そして、雲の多いこの世界では雨が降ってもなんら不思議なことではない。そうラミラは思っていた。だが、この時の雨。地の界の住人には不思議な光景に見えていた。余りにも局地的に雨が降っていたからである。

「違う。魔法で発現させた雨だ。」

「えっ。」

 ラミラは、シンのその返答に驚愕した。あの量の魔法量でどうやってこの量の水を生成させたのだろうと。雨が降ったのは、ほんの数秒の間だったが辺りには水滴や水たまりが’点在していた

「まぁ、より正確には生成というより、誘発させたと言った方が近いかもしれんが。」

「誘発?」

 長年魔法を扱ってきたラミラ。だが未だに、彼の言わんとしていることが想像もつかなかった。

「お前に問う。魔法の定着には、何が必要だ?」

「えっ、魔法量と時間」

 突然の問いに、ラミラは戸惑いつつも自信ありげにそう告げた。ラミラの答えは、間違っていない筈だ。その性質の為、弱き魔法使いは奴隷として魔法の行使を強制させられているのだから。

「確かに。そう思うのは無理もない。だが、正確には違う。必要なのは、魔法力だ。」

「え?」

 魔法力。それは、魔法の威力を表す単位のようなもの。だが、これと定着の関連性は直ぐにラミラは思い返せなかった。

「魔法。もとい、異能を行使するには想像力(イマジネーション)が必要になる。自身の持つ異能とその想像力を結びつけることにより異能は影響を及ぼす。ここまではいいな?」

「うん。」

 シンの告げたことは、言語化などわざわざしたことは無かったが、異能を扱うモノにとってごく当たり前の事だった。

「そして、異能力はその想像力強さを表したものだ。まぁ、たいていの場合現実に発現させた異能の影響力に対して扱われることの方が多いが。」

 彼がここまで言っていることは、ラミラにはある程度は理解できた。ヨウに拾われてから、魔法についてみっちり教えてもらっていたからである。

「つまりだ、その想像力が強ければ強い程、威力つまり異能力は高まるというわけだ。ここまでは理解(わか)るな?」

「…。」

 この時、ラミラには返答する程の余裕はなかった。一見、優しく言葉を投げかけらているようだが、シンから無意識的発生させられている独特な威圧感に押しつぶされそうになっていた。

「まぁいい。本題にかかろう。異能の定着に時間と魔法量がかかるのは、通常の発動よりより精密な想像力と、その異能で足りないものも補わなければいけないからだ。まぁ、簡単にいえば何もわからないまま木だけで家を建てようとするようなものだな。本来ならそれだけで家は出来ん。」

これに対する、ラミラのリアクションは無かった。だが、内心ではヨウにそんなこと習った気がするなぁと思い返していた。

「理解しろ。自身の異能を!そしてこの世界を!」

 シンは、両手を天に掲げわざとらしい態度と口調で、そう言葉を発した。やがて咳払いし正気に戻り言葉を紡ぐ。

「よし。教鞭垂れるのも、ここまでにして。次は実践だ。かかってこい。」

 空気は一変し、より一層強い威圧感がシンから放たれた。ラミラは、身構え再度自身の魔法でより一層強い強化を施した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る