世界創造物語・完③ シンvsラミラ
―白と黒髪の少年のその叫び声は、その思いを伝播させるかのように、
ケンとナンは、神の子(シン)へと攻撃を仕掛ける。ケンが殴りかかるのを神の子は易々と躱し、男の腹部へ拳をぶつける。
〈ふむ、この感覚は…〉
ケンは、その場に蹲る。シンは、そんな男から拳を放しそれを見つめる。突如、神の子の視界が揺れる。否、より正確には彼の足場が傾いたのだ。シンは、ナンの方へと視線を向け地面に細工を施しているのを確認する。
「おやおや、驚きました。まさか、名力に覚醒していたのですか。」
名力。それは、名が体を表す異能。この異能は後天的に覚醒する為世界が分断されてから数十年後、覚醒前の人物は皆地の界へと送り返されていた。
「ああ、その通りだ。」
堅(ケン)は、腹痛に苛まれながらも再び立ち上がる。手加減されているとはいえ、シンから受けた先程の一撃は普通なら気絶させられるほどの一撃だった。堅は、自身のその異能で腹部を堅くさせ攻撃から身を守っていた。
「ですが、僕との差は歴然ですよ。あなた達位の力なら、異能を使わなくても倒せます。」
「言ってくれる。」
その言葉は、はったりでは無かった。軟(ナン)はシンの腹部に手を触れる為、駆け出し手を伸ばす。神の子は、余裕を崩さず特に躱すそぶりを見せなかった。畳みかけるかのように、堅はそこめがけて堅く握り締めた拳を突き出す。
「軟弱化」
「堅固の拳」
本来なら、その一殴りは致命的な一殴りになっているはずだった。軟の異能で軟弱化させたのち、堅の異能で堅い拳をぶつけたのだから…
だが、、神の子には通用しなかった。確かに二人の異能は少しは彼に影響を与えたのであろう。いや、そう思いたいだけなのかもしれないが。彼は、表情一つ変える事無くその場に只立ち尽くしていた。
「これで、理解(わか)ったでしょう?異能とはいわばエネルギー見たいなもの。その量に決定的な差が有れば、どんな異能も無意味なのですよ。」
「バ、バケモノめ。」
その言葉に神の子は、嘲笑うかのようにニヤリとその片口角を引き上げる。堅の堅い決意が揺らぎそうになる。
少年は、一人影を落としながら店へと向かっていた。ヨウが目の前で光に貫かれて死んだ。しかし、そこに死体は無い。姿形が無くなった少女に対して、現場は一時騒然となったがいつまでも道端で蹲っているわけにもいかず、父母と合流する為に歩みを進めていた。
そして、少年はそこで衝撃の光景を目の当たりにする。コンクリートの地面が一部沼の様に軟化し周辺の建物のガラスにはひびが入っている。ここは、高級レストラン街防犯対策の為、そうやすやすと傷のつく素材は使用されていない筈だ。
だが、少年の目に焼き付いた光景はそんなものでは無かった。
「ふん。ようやく来たか。」
「シュウ。ニゲロ。」
そこには少年らしき人物と、父母の姿があった。少年は、その父母の首を掴み持ち上げていた。
その少年らしき人物と、白と黒髪の少年視線が交わる。花緑青の髪色の少年は、二人を手から離す。
「久しぶりだな。収。何千年ぶりかな?」
その言葉は、ここには居ない誰かに問いかけられているように聞こえた。少年は、直ぐに答えを返す事が出来なかった。思考が追い付かない。漠然とした視界の中で、自身の父母が倒れているのを理解し、焦点が定まる。
「お前、誰だよ。さっさと父さんと、母さんから離れろよ。」
「誰とは、ぶしつけな物言いだな。これでも一応神の血を引いているんだけどなぁ。」
シュウの声は、恐怖と苛立ちと嫌悪感に震えていた。そして今度は、ここに居るシュウに向けシンは言葉を返した。
「だが、まぁいい。お前を殺せば、俺の復讐は果たされる。」
「何を言っ…」
シュウが言い切る前に、シンは自身の指先を少年に差し向けた。銃の様に構えたその指先に、黒紫の光が灯る。技が発動されようとするその瞬間、空から少女の声が鳴り響いた。
「風・ツイスターフィスト」
突如としてシンの上空から竜巻が発生し、彼に襲い掛かる。その竜巻からやや遅れ、金髪の少女が空から舞い降りた。
「あなたよね、さっき叫んでいたの。」
突如発現した謎の竜巻と、現れた謎の金髪少女。畳みかけるように起きた異常事態に少年の思考は混乱を極めていた。しかし、状況は待ってはくれない。突如として発生した竜巻それがかき消され霧散したのであった。
「なんて、やつ。」
「ふん。この程度か、ラミラ・フーキカ」
霧散した風の中に、少年の姿が浮かび上がる。花緑青の髪色の少年は、ラミラの攻撃を受けても尚余裕の佇まいを保ち、傷一つけられる事なかった。
「あなた、一体何者?なんで私の事知って…」
言いかける中、ラミラは彼の姿を見失った。シンは目にもとまらぬ速さでラミラの背後へと駆け寄っていた。コンマ数秒遅れて生じた余波により、少女は状況を理解した。
「こんなものか。これで、俺に近しい存在等ともてはやされているのか。がっかりだ。」
「なにを?」
シンに背後を取られた少女は、手刀を喰らわせようと急旋回するも既にそこには、彼の姿がなく空ぶった。
「遅い。ヨウは一体、何をこいつに教えていたんだ。二流。いやこれは、三流以下だな。」
シンは、元居た場所へと戻っていた。目にも止まらぬ速さで移動する花緑青の髪色を持つ少年。それに、相対する金髪の少女。白と黒髪の少年は、彼女の手刀に怯み尻もちをついていた。
〈なんだよ。こいつら。意味わからねぇ。これは、夢?夢なのかぁ?〉
少年は、現実から目を放そうとした。しかし、状況は例え数秒の間でも気を逸らし幸せになろうとする彼を許してはくれなかった。
「あんた、そこでぐずぐずしてないでとっとと逃げなさい。話は後。こいつは、まじ。ヤバい」
「逃がすと思うか?」
それは、魔法では無かった。花緑青の髪を持つ少年は拳を鋭く突き出していた。その拳から発生させられた衝撃波のようなものが少年へと襲い掛かった。
「ッ。」
少年は、恐怖に怯み身動きが取れなかった。衝撃波が接触する間一髪の所で、ラミラは少年に接近し、体勢を崩しながらも風の魔法を発生させ衝撃波を霧散させた。
「ほう。」
花緑青の髪を持つ少年は、これには感心した表情を見せた。間一髪の所で白と黒髪少年を守った少女は、体勢を戻しつつも相対する敵への警戒する視線を解かなかった。
「ねぇ、あなた。なんでこの少年を狙うの?」
立ち上がった金髪の少女は、相対する手に質問を投げた。その問いにシンは不敵な笑みを浮かべながら問いに答えた。
「そいつが、俺の復讐の対象だからだ。」
「復讐?こんな貧弱そうなやつが、あんたに何かしたとでもいうの?」
「ああ、そうだ。より正確には、そいつに眠る魂の持ち主にだがな。」
「なるほどね。」
そういいながら、金髪の少女は徐に一冊の本をどこからか取り出した。そこの表題には世界創造物語と書かれていた。
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