世界創造物語・完② シン襲来

「ねぇ、アナタ。今の光ってもしかして。」

 シュウの母であるナンは、その旦那と共に店のあるビルの前で自身の子供たちを待っていた。

「ああ。」

 突如、その近くで天から一筋の光が落ちた。二人は顔を見合わせる。数秒後、息子の悲痛の叫び声が光の落ちた場所から聞こえてきた。

「「シュウ。」」

 二人は、その声の方向へと振り返った。その時だった。その背後に異様な悪寒を感じたのだ。

「おやおや、お二人さん。どちらに向かわれるので。」

 その少年らしき人物から発せられる存在感オーラにやられたのか、辺りは静寂に包まれた。

 二人は、恐る恐る其の声の主へと振り返る。その少年の髪色は花緑青。目の色は赤紫。背丈は中学生の平均並みだが、彼から放たれる威圧感は相対するだけで降伏を余儀なくされる程だった。

「あなたは、シン。」

「おやおや、ご存じなのですね。」

 ナンは、指先などを震わせながらも虚勢を張り、声を振り絞った。対してシンの態度は余裕その武士。表情は笑顔だが、真には笑っていない事が目を見なくても明らかだった。

「なぜ?貴様がここに?」

 ケンもまた、虚勢を張り言葉を振り絞る。そんな二人を嘲笑うかのように神の子はゆっくりと口を開く。

「なぜって、分っているでしょう?あなたなら。世界造像物語の著者、進藤ケンなら。」

 末尾に、鋭い視線が添えられる。その視線を向けられた男は、無意識に後ずさりしってしまう。

「だとしても、私たちには関係ないことだわ。あの書物だって、あなたの妹からの情報提供が有って書き記したものだもの。」

 女は、神の子に対し言い訳がましく言葉を発する。世界創造物語。この本は、夢か幻か或いは現実の中でシンとナンの目の前に現れた少女が告げた物語。それを、ケンが書き起こした書物であった。

「ええ、知ってますよ。」

「ではなぜ、あんたがここに来たんだ。」

「うーん。」

 神の子は、首を傾げた。数秒の間のはずなのに、何時間が経過したと錯覚させられるような密度の濃い時間が流れる。

「奕葉が終わったから。というのもありますが、今日僕がここに来たのは、復讐の為ですよ。」

「復讐だと?」

 ケンは、その言葉に反応する。いやな予感がする。最も大切な人物が手に掛けられる、そんな感覚だ。

「ええ、復讐です。僕の大切な妹を手に掛けたあの少年を殺すために今日ここにきたのです。」

 神の子は、手を天に掲げそう宣言した。そんな彼にナンは怒りの感情を覚える。

「貴方の、妹を手に掛けたですって?」

「ああ、そうだ。あの少年さえ居なければ、葉はあの時死ぬことは無かった。あいつが、あいつさえ居なければ、余計な期待をせずに済んだのに。」

「そんなの言いがかりだわ。」

「そうだ、第一。それと俺たちは、何の関係もないだろ?」

 ナンの怒りに、ケンも便乗する、だが、シンはたじろぐ様子もなく冷静に声を荒げる様子もなく言い返す。

「それが、関係あるのですよ。お父さん。貴方の息子にね。」

「なんだと?」

「貴方も知っているでしょう。異能とは、その思いによって発現し影響を与えるものだと。」

 異能力。それは、通常の理から外れた力。種類によって、その発現方法や扱うモノ、影響は異なるが、心や魂に対して深い結びつきがあるのは共通している。

「それがどうした?」

 ケンは、淡々と語るシンに対し言葉を強く投げかけ問いただそうとする。そんな彼を無視して神の子は言葉を紡ぐ。

「あの少年の魂は、今も生きているのですよ。貴方の息子、シュウの中にね!」

「なん…だと…。」

 ケンは、確かに自分の息子にシュウと名付けた。だが、別に収のような男に育って欲しいともって名付けた訳じゃない。モノや関係は、いずれは壊れてしまう。だがそれでも諦めず立ち直り生きるすべを身に着けて欲しいという思いを込めシュウと名付けたのだ。

「有り得ないわ、あの少年。収はとっくの昔に死んだのでしょう?転生でもしたというの?馬鹿馬鹿しい」

 ナンの指摘は最もだった。通常、人間は転生出来ない。他者に異能を授ける方法は、無いわけではないが、特異な技術が必要になる。それに、そもそも収の生きてた時間と現代では時間が離れすぎている。時空間を操れたり、それらに関わる異能を身につけていれば、話は別だが収やシュウにはそんな力は無いはずだ。

「方法までは、僕にはわかりません。ですが、彼の魂があなた達の息子に宿っているのは確かなのです。きちんと確かめましたから。」

「それで、なぜ今更こんな世界に来たのかしら?」

 ナンは、このまま話していても埒が明かないことを悟り、話の方向性を変えた。

「いや、確認出来た時に殺してもよかったのですが、僕の妹の分裂体が異様になついていましたのでこの時を待つことにしたのですよ。」

「ふん。妹思いなんだな。」

「ええまぁ。」

 シンは静かに言葉を発し視線を落とす。その視線は何処か寂しさを感じさせるものだった。

「これで、理解できたでしょう。僕の思いが。あなた達には危害を与えるつもりはありません。僕の妹の分裂体が、お世話になった人たちですから。用があるのはあなた達の息子進藤シュウあの少年だけです。」

 神の子のその言葉に、二人の親は臨戦態勢をとる、自身の大切な息子を守るために。そして、目の前にいる自身の異能やみに呑まれている、│娘の実兄しょうねんを救い出すために。

「おや、やる気ですか?貧弱な人間の分際で?」

「「そんな易々、大切な我が子差し出すわけ無い┃だろうが《でしょうが》!」」

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