第五章 世界創造物語・完
世界創造物語・完① 最期の日
「はぁー楽しかった。」
「プレゼント、ありがとね皆。」
「いいえ、ではまた明日。学校で会いましょう。」
誕生日会はとても賑やかなものだった。カナは来なかったが、シュウやトモエ、ノゾミは各々が準備したプレゼントをこの会の主役に渡し、ヨウはその場でそのプレゼントを開封した。トモエからは競泳に特化したゴーグル、ノゾミからは競泳用ではない水着、シュウからは誕生日石であるスフェーンの組み込まれたブレスレットが贈られた。
「おっ邪魔しました!」
閉まる扉の隙間から、元気よく手を振るトモエの姿が見えた。やがて扉は閉まり、シュウは優しく微笑む。
「ホント、元気な子だよなぁ。トモエちゃんは。」
「そうね。長距離だったら、一度も勝てたことない。」
シュウは、その言葉に違和感を覚えた。別に、その戦績について意外におもった。という訳では無い。中学時代、他校に所属していたトモエとノゾミは、カナとヨウにとって強力な敵であり彼女達の得意分野では、一度も勝てた事無かった。
「なぁ、ヨウ。元気なくないか?」
「えっ?別に?そんな事ないわ。」
ヨウは、明かに動揺し散る様子だった。思えば、ヨウは友人二人の去り際に挨拶を返していなかった。彼女は、理解しているのだ。自らの運命を。
ふと、彼女は大切な人から贈られた自身の左手につけられているブレスレットを見た。スフェーン。七月の誕生日石。ヨウに贈られたのは、緑色に輝き見る角度によってその輝き方が変化するというもの。予算の都合上、ブレスレットの中に小さくワンポイントあるだけだが、その輝きと共に神秘的な存在感を放っている。その宝石言葉は、永久不変そして、改革。まるで、この惑星を作り替えその場に存在し続ける彼女を表すかのような宝石だ。
「ふーん、そうか。」
シュウは、彼女の違和感に気が付きながらもあえて追及はしなかった。誰だって、楽しい時間から覚めた時、少しは虚しさのような感情を抱くものだ。
「あ、そうだ。」
シュウは、何かを思い着いた様子で突如として声を発する。ヨウは、そんな少年に視線を送る。
「ヨウ。ちょっと待ってて。」
そういうとお少年は、勢いよく階段を駆け上がった。そして、一分にも満たない間隔で少年は、階段を駆け下りてきた。
ドッカーン。階段から物凄い音がした。少女は、急いでその場所に駆けつけた。そこには、無残にも倒れている少年の姿があった。
「ぷっはは。大丈夫?お兄ちゃん。」
「だっ大丈夫。」
どうやら少年は、盛大に足を滑らせ壁まで転がり落ちたようだ。思わず笑ってしまった少女は、滲み出てきた涙を指で拭いながら、少年に手を差し出した。少年は、そんな自身の妹の表情を見て、安堵の表情を浮かべその手を取る。
「ありがとう。それと、これ。」
立ち上がった少年は、ラッピングされた何かを彼女に差し出した。ヨウは、戸惑いながらもそれに手を伸ばす。
「改めて、ヨウ。誕生日おめでとう。」
少年の表情はとても笑顔だった。その表情に、癒されていくのを実感する。そして、少女は決意した。最後の瞬間まで、少年の前では笑顔でいようと。
「ありがとう。お兄ちゃん。」
少女の満面の笑みにつられて、少年も照れ臭そうに微笑む。
「おう!」
二人だけの和やかな時間が、そこには確かに流れていた。ふとお少年は、我に返り時計を見る。
「やっべ。もうこんな時間。早く着替えないと約束の時間に間に合わなくなっちゃう。」
「ホントだ。早く着替えて。」
この時、ヨウの心情には二つの思いがあった。シュウの妹としての思い。そして、世界の運命を知る者としての思い。この先に起こる事を考えると、動きやすい今の服装の方がいいのかもしれない。ただ、少女は滅多に見れない少年のドレスコートを見る為、妹としての思いを優先した。
二人は、自室に戻り着替えを済ませた。ヨウの服装は、紺色の大人の色気漂う、ドレスワンピース。シュウは、白のワイシャツにネイビーのスーツに深い青の蝶ネクタイ。二人はこれから、母と父が待っているであろうイタリアンとフレンチが混ざり合うというコンセプトの高級レストランに向かう。
「お兄ちゃん。鍵持った?」
「ああ。」
少年は、あまりにも自身の妹が可愛すぎて、正気を保てていなかった。カナには幼いと言われたが、水色のショルダーポーチは彼女の今の服装にぴったりのように思えた。
「綺麗だ。」
「ふふ、ありがとう。」
そう言葉を交わした二人は、家を後にした。外は、夏とは言え日がない為少し冷えていた。
「ヨウ、寒くないか?」
「ううん。平気。」
彼女は、少し寒さを感じていたが気にしていなかった。どうせ、あと数分で私は死ぬ。だったら、最高にかわいい姿をできる限り最愛の男に届けたい。そう、彼女は割り切っていたのだ。
そしてしばらく歩き、交差点へと差し当たった。高級レストランや宝石店が並ぶこの通りに街頭や店から零れる暖色の光が照らしている。
少女の肩は震えていた。それに見かねた少年は、自身の上着を少女にかぶせようとする。その瞬間、少女は道路へと飛び出した。
「お兄ちゃん。今までありがとう。だーい好き。世界を、私の大切な人たちを頼んだよ。」
―それが、地の界のヨウの最後の言葉となった。
振り返りざまに、そんな言葉を告げた少女に車が差し迫る。その車の運転手は、突如として現れた少女を交わすためハンドルを切る。
そこに、一筋の光が落ちる。その光は少女を貫いた。
その光景を目の当たりにした少年は、駆け寄る力もなく膝から崩れ落ち悲痛の叫びをあげる。
「ヨウ…ヨォォオウ。」
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