交差する世界⑥ 終わる世界

―「奕葉」この技は、世界を重ねる技。その前段階として、世界を分断し構築する。

「うう。」

 炎舞から離れ、ひとまず落ち着いたラミラは、ヨウの胸に顔をうずめていた。そんなラミラにヨウは微笑み、頭を撫でる。

〈フフ、こんなにも心配してくれたのですね。ラミラ。あなたは、ホント優しい子です。〉

 ヨウの微笑みに気づいたラミラは、顔を上げ彼女を覗き込み、顰めっ面を浮かべる。

「もう。本当に心配したんだからね!」

「はいはい。分かってますよ。」

「所でヨウ。なんで、外に出れてるの?監禁されていると思ったのに。」

 ラミラは、今更ながらに疑問を投げた。ヨウの力を見て流石に殺しはしないのだろうと考えてたラミラではあったが、自由に動けているとは想像だにしていなかった。

「それは…。」

 ヨウはその問いに、どう答えたらよいか分からず言葉を詰まらせる。そこに一人の男がやってきた。

「俺も知りたいな。」

「フレイム…」

 ラミラは、思わぬ刺客に息をのむ。今の彼は人型で、勾玉の力を受けていない。しかし、先の戦いでかなりの成長を遂げているはずだ。ラミラは、臨戦態勢をとる。しかし、ヨウは云ったて冷静のまま、言葉を発する。

「再戦ですか…。負けたままなのは、少々気に食わないですので、僅かな時間ですがお相手しましょう。」

「別に、戦うつもりは無かったのだがいいだろう。俺も、増した力を試したいところだった。」

 フレイムのフォルムとその炎の色が変わる。その炎の色は橙ではなく、黄色だった。

〈やっぱり、こいつもパワーアップしている?でも待って、僅かな時間って…何?瞬殺できなくもない…かもだけど。〉

 ラミラの脳内は、目の前にいる炎魔人の姿と、先程のヨウの台詞で頭がいっぱいだった。

「ずいぶん、力を上げたようですわね。」

「お陰様でな。」

 フレイムは、ヨウめがけて突進をかけようもそれに応えるかの様に突進して拳を繰り出す。

バコン。

 拳が衝突し、爆発音と衝撃波が鳴り響く。ラミラは、その戦いの中に入っていかなかった。いや、入っていけなかった。

「強くなりましたが、まだまだの様ですわね。」

「言ってくれる。」

 戦いは、ヨウの優勢で進められていた。そんな中、フレイムは炎の剣を生成する。

「炎・フレイムソード」

 フレイムはその剣で、彼女に斬り掛かる。ヨウはその刀に対して魔法を全身に覆わせて応戦する。

「水風木・エンハンスドベール」

 ヨウは全身に魔法をかける事により、攻撃への耐性と身体能力の向上を図った。勝負は依然ヨウの優勢だ。

 一方、ラミラは戦いが始まる直前から、その場に立ち尽くしていた。

〈ラミラ、よく聞いてください。時間が有りません。〉

 ラミラの脳に直接、ヨウの音声が鳴り響く。戦闘中のヨウの表情は何処か苦しみながらも笑っていた。

〈時間がないって、どういうこと。これは何?〉

 ラミラは、頭の中でそうヨウに問いかけた。初めての経験にラミラは困惑を抑えられていない。

〈細かい説明は後です。時間が有りません。〉

〈だから、なんで?〉

〈ラミラ、私の事は好きですか?〉

 質問には答えずに、質問してくるヨウ。そんな彼女に、ラミラはムッとし投げかけられた、問いに恥ずかしさを覚える。

「す、好きだけど。」

 思わず、肉声で発声してしまった。突如として発せられた金髪少女の告白にフレイムの剣が一瞬止まる。

「はぁ?」

「隙やりです。」

 フレイムは、その隙をヨウにつかれた。ヨウの蹴りに吹き飛ばされた男は、剣を地面に刺しながら踏みとどまり、反撃の体勢を整える。

「てめぇ、こざかしい真似を。」

「あなたに向けてな訳、ないじゃないですが。」

 ヨウはフレイムを嘲笑する。それもそうか。と、フレイムは納得する。では、誰に向けて?と一瞬考えそうになったが振り切り、炎の剣を強化しヨウめがけてを振るう。

「炎・エンハンスドソード」

〈ラミラ、あなたの思い。確かに受け取りましたよ。私も、大好きです。貴方の事。〉

「うう。」

 ラミラの心に、様々な羞恥心が宿る。彼女の頬は、フレイムが発する温度とは別の要因で赤く染まっていた。

〈そんな、あなたに。お願いが有ります。聞いてくれますね?〉

〈うっさい。別に、聞いてあげてもいいわよ。〉

 ラミラは、ヨウに対して実に分かりやすくツンデレな態度を見せる。

〈この世界と…収という少年の事を頼みます。〉

〈はぁ?世界?てか、シュウって誰よ?〉

〈この本を読めば全てわかります。〉

 ラミラの頭の中に一冊の本が生成される。実に不可解な感覚だ。その本の表紙には世界創造物語と書いてあった。

〈うう。この本何?〉

〈この本は、とある人にお願いして執筆してもらった本です。〉

〈とある人って?〉

〈今から、ざっと。二十数年前、この下に存在する世界の男に頼みました。その男の名は、確か…忘れました。〉

「おい。」

 ラミラは、思わず肉声で突っ込んでしまった。その恥ずかしさを表情に出しながらも、ラミラは心の中で聞き返す。

〈それで、具体的には何してほしいわけ?〉

 その問いに対しての返答は無かった。代わりに、ヨウは自身に纏わせていた、魔法を解除する。


「多分、間に合わないですぅ。今戻らなきゃぁ。」

「は?何言って…」

自身の惑星へと向かう中、スピカは突如進行をやめ遥か先を見つめていた。ポリマは、言葉を継けがら視線を向け言葉を切らす。

「あれって。」

 そこには、禍々しいような神秘的なような光があった。その光は、地球へと向かっているようだった。

「行きましょう。」

「ちょっと。」

 スピカは、進路を切り替えその光の先へと向かう。その光の先には、先程双方の同意で別れた。蒼い髪の少女の姿があった。


「フレイム、あなたと決着つけられないのは残念ですが、ここまでの様ですね。」

「なに?」

 男は、そう告げる少女に対して怪訝の表情を見せる。碧い髪の少女の言葉を受け、金髪少女はハッとする。


―その光は、少女を貫き世界を貫いた。

 少女から、その思いを託された三人は、その光景を目の当たりにする。

「あとは、頼みましたよ。」

 どこからか響く、その声はとても満足そうな口調だった。その声は、同じく思いを託された黒い髪の少女にも伝わる。

 その光景を目の当たりにした、四人は奇しくも同じタイミングで、絶叫する。

「「「「ヨウ」」」」

 その中でも最も大きな声で叫んだ、黒と白髪の少年は、再び更に大きな声で叫び喚く。

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