交差する世界③ 友達
「おやおや、あいかわらずですねお二人さん。」
ふとどこからか声がした。それは、スピカとポリカにとって聞きなじみのある声だった。
「相変わらず。どう声を伝播させてるのやら。」
ポリカは、ため息交じりに声を呟く。するとその瞬間。障壁のごく一部に白い光が灯る。
「行って、みますぅ?」
「そうね。どうせ、会えないだろうけど。」
やり取りを終えた二人は、先程の光が灯った場所へと向かい下降した。辿り着いたその場所には、誰もいない。
「やっぱり、いない。」
「ヨウさん。いい加減姿を見せて下さいよぉ。毎回毎回、声だけでは寂しいですよぉ。」
その声の主。いや、正確には言葉の主というべきか。その人は、未だかつて彼女たちの前で姿を現すことは無かった。
―だが。
「そうですね。そろそろ頃合いかもしれませんね。いいでしょう、姿を見せてあげましょう。」
凛とした言葉が、彼女たちの頭に直接流れてくる。二人は、もうすでに慣れていたが常人にはとてつもない違和感をお覚えるだろう。
「え、本当に姿を見せてくれるの?〈わざわざ調査しに来たかいがあったわ。ヴィーナス様にいい報告ができるわ。〉」
ポリマは、驚きと喜び交じりの声を発する。すると、突如その障壁の一部を覆うかのように葉が生成されていく。
「ええ、まぁ。そろそろ事態が動きますので。」
その言葉は、今度は脳からではなく耳かられっきとした音声として聞こえてきた。複数の葉が、一か所に集まり人型を形成する。
「はじめまして。ですかね?スピカ様。ポリマ様。」
一か所に集まった葉が、突如として蒼色の光に包まれる。やがてその光は消え、一人に少女の姿が露わになった。
「か、可愛いですぅ。」
そう絶賛したのは、スピカであった。その少女の身長は、150cm程。地球人の中では平均的な部類だがスピカの身長が250cm、ポリマでさえも200cm程ある為彼女たちにとっては小柄でかわいらしく見えるのであろう。
ヨウの周りを、スピカが舐めるように様々な角度から見つめている。ヨウは、ただその場に浮き止まっていた。彼女の髪は蒼い。その佇まいは凛としていて気品があった。彼女の体から胞子状の蒼色の光が絶え間なくゆっくりと放出されている。精霊。彼女の容姿を表すのにこれ以上ない言葉である。
「おほめにあずかり、光栄ですわ。」
ヨウは、そう言葉を発した。ポリマはスピカとは違い興奮し舐めまわすように見たりしない。彼女は只その場でその容姿に見とれていた。
「そろそろ、よろしくて?あまりこういう風にみられるの、慣れていないのですの。」
ヨウの表情は、あまり変化が見て取ることが出来ないが少し迷惑がっている様子だった。
「おやおや、失敬。」
そうスピカは、彼女の正面に立ち返る。彼女の瞳もまた蒼色だ。その瞳にポリマは魅了されていたが、呼吸を整え我に返った。
「まさか、あなたの姿がこの目で見れる日が来るとはね。目に見えない言葉の精霊さん。」
目に見えない言葉の精霊。ヨウは姿を見せずに言葉を伝播することから、そう周囲の星々から離れた位置に属する惑星の中でも噂になっていた。
「まぁ、確かに。この惑星を守護するにあたり姿を見せない方が都合がよいと思っていましたからね。」
「というと?」
ヨウの言葉に、ポリマが聞き返した。彼女はずっと不思議に思っていたのだ。なぜ、この惑星を守護する者が一向にその姿を見せないのかを。
「何も姿を見せないまま、言葉を伝播させると。障壁の雰囲気と相まって幽霊が出たぞ~と騒ぎ立て逃げ惑う人が大勢いるのですよ。」
そういいながら少女は、クスクスと笑いを堪え切れずにいた。姿を見せない理由は他にもあった。姿を現していれば、いつどこから狙われるか分かったものではない。しかし、姿を見せなければ標的を見つけられず狙われることもなくなるのだ。
ポリマは呆れたというような態度を示すかの様に手を腰にあて呟く。
「まぁ、たしかに。薄気味悪くて不気味だものね。趣味悪いわよね貴方。」
「そうですよねぇ。ポリマ、初めてここに来た時ビビりまくって泣き出しましたもんね。」
今は慣れたと発言するポリマを、スピカが茶化した。茶化された少女は、女に向かって顔を赤くし罵声を浴びせる。
「忘れなさいよ。そんな事、第一初めての頃あなたもビビり散らかしてたじゃないの?」
「そ、そんなことありませんよぉ。ねぇ、ヨウさん。何とか言ってあげて下さいよぉ。」
図星をつかれたスピカは、ヨウに助けを求めた。そんな二人のやり取りを見て、ヨウはくすっと笑う。
「どっちも、どっちです。」
「ほらぁ。」
「もう、ヨウさんてばぁ」
ヨウの言葉を聞いて、スピカは何故か得意げになりスピカは意気消沈とした。そしてふと冷静を取り戻したポリマは、ヨウの方へと振り向き問いを投げる。
「そういえば、事態が動くって何?何か起こるの。」
ヨウは、確かに言っていた。事態が動くから姿を現してもよいと。ヨウはその問いに対し微笑みで返した。
「ええ、確かに。事態は動きます。隠しても仕方のない事ですが、お二人にはとある約束をしていただきたいのです。」
「「約束?」」
二人は、思わず声を揃えて呟いた。本当に仲が良いなぁとヨウは、又微笑み言葉を続ける。
「ええ、この惑星を。そして、シュウという名の少年を守ってほしいのです。生きているかはわかりませんが。私にとって大事な人ですから。」
辺りは、静寂に包まれていた。今はまだ遥か先にあるが、その光は刻々と地球へと近づいていた。
「それ、私たちになんの得がるのかしら。私たちは金星人。他の惑星を守る道理なんてないわ。」
「そうですよ。面倒くさすぎますよぉ。」
彼女たちの意見は、至極真っ当だった。今は公正な取引が行われているとはいえ、いつ争いになってもおかしくないのだ。他の惑星を守る余裕なんてない。
「無理を承知でお願いしているのです。私には、もう時間が有りません。あと数時間ほどしか残されていないのです。」
ヨウの表情は、真剣そのものだった。ヨウと二人は500年位前からの知り合いだ。そんな中。始めて姿を現し自身の惑星と自身の大切な人を託そうとしている。
「時間がない?どういう事?あと数時間って?それになぜ?私たちなんかに頼むの?」
「そうですよぉ。気になりますぅ。教えてくださいよぉ。じゃなきゃ、守れるものも守れませんよぉ。」
ヨウの必死な思いを感じ取った二人は、それでも受け入れられない様子を露わにし問を掛ける。
「勿論。ただでとは、言いません。この本をあなた達に差し上げます。」
そういうとヨウは、一冊の本をどこからか取り出した。或いは生成した。その本の表紙には世界創造物語と書かれていた。
「なんですかぁ?この本はぁ?」
スピカは近寄り、本の表紙をまじまじと見つめる。その本は、彼女たちの読める書体で記されていた。
「この本は、この惑星における真実が書かれています。時間がない理由もこの本を読めば分かります。」
「なる程ね。本一冊で、この惑星を守れと。
「一冊では不満でしたとなら、複数用意します。」
そういうと、ヨウの目の前に複数の本が生成されていった。それに対しポリマは呆れと怒りの言葉をぶつける。
「そういう事じゃない。」
「そうですよぉ。第一。なんで、あまり親しくもない私たちなんかに託すのですかぁ?」
その問いに、ヨウはすぐ答える事無く泣き出した。本当は自分がこの惑星と収を守りたい。そして何より、この二人は自分にとって唯一と言ってもいい友人と呼べる存在だった。
「私は、あなた達を他の誰よりも信じています。迷惑なのは、百も承知。ただどうか、聞き入れて下さい。私にとって貴方たちは、友人と呼べる数少ない人たちですから。」
その少女の涙と思いには、様々な言葉が含まれていた。その言葉を受け取った二人はそっと手を差し出す。別の惑星で生まれた友人の方へと。
「しょうがないわね。分かったわ。」
「ほんと、特別ですよぉ。こんな面倒事受け入れるのわぁ。」
二人の申し出に、蒼い髪の少女は涙を流し手を取り、その本を差し出した。それは確かなる絆を表すかのようだった。
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