交差する世界② 絆

「ここは、どこ?」

 金髪の少女は、目を覚ました。彼女は頭痛に苛まれ、状況を把握できずにいた。起き上がろうと、体を動かすと、体に無数の切り傷を負った褐色肌の少年が歩み寄ってきた。

「おっ、目を覚ましたかラミラ。」

 そういわれた少女は、はっと息をつく。気を失う前の記憶が蘇ってきたのである。ラミラは、慌てるように飛び上がった。

「ねぇ、ここはどこなの?ヨウは?ヨウはどうなったの?」

 三人の炎魔人との一戦。勾玉により大幅に強化された彼らに、ヨウとラミラは歯が立たたなかった。苦戦を強いられたなか、ヨウの策を受け入れ炎魔人を村の住人から引き離すことに成功。しかしその後、ラミラの魔法はヨウによって暴走させられ今に至る。

「落ち着け。慌てても仕方ねぇだろ」

「はぁ?落ち着いてられるわけないでしょ。いくら、ヨウが強いからと言ってあの炎魔人三人相手して勝てるとは思えない。早く助けに行かなきゃ。」

 アルラの制止をラミラは受け付けなかった。それ程までに事態は深刻だ。炎魔人さえも従える鳳凰の支配地、炎舞。いや、炎舞に限らず超人種の支配地には例外なく無数の魔法使いが奴隷として飼われていた。

「まてまて、助けるって言っても。俺たちがどうにかできる相手じゃねぇだろ。冷静になれ。」

「はぁ?じゃぁ何?見捨てろっていうの?ヨウはね私にとっては、家族同然なのよ。」

 アルラの思いとは裏腹に、ラミラの怒りはどんどん過熱させられていく。そうなる要因の一端にこの場の気温が影響していることに彼女は気づいていない。

「それは、村の住人も同じじゃねぇのかよ。」

 アルラはラミラの言葉が気に食わなかったらしい。平和村は、ヨウとラミラが作った村だった。村の住人は全て彼女たちに救われ、お互いを助け合い生きてきた。

 ラミラはそのアルラの言葉に、直ぐ言い返すことは出来ず顔を翳らせ、そっと息をつく。

「たしかに。そうね。でも、あなた達とヨウは私にとって全く別の存在。」

 その表情に、ミカやその他の元村人の子供達、大人たちまでも怯えていた。そんなのお構いなしにラミラは言葉を続ける。

「私にとって、ヨウは誰よりも特別な存在。だから、何が有っても私はヨウを見捨てない!…見捨てるわけには、行かないの。」

 ラミラの、目元に涙が溢れる。彼女の頭にはまるで走馬灯のように、ヨウと過ごした思い出の日々が浮かぶ。そして、ラミラは物心ついた時の事を思い出す。

 

物心ついた時の最初の記憶は、見知らぬ老婆と空を飛んでいると憶だった。何故、そんなことになったのかは未だ思い出せない。ただ、力を誇示したいだけの魔法使いとの争いに巻き込まれていたという記憶が朧げにあるぐらいだ。

「おや、目が覚めたのかい?お嬢ちゃん。」

「アナタ。ダレ?」

「儂かい?儂はしがない鳥人類(ハーピー)じゃよ。」

 鳥人類。それは、風の単属性持ちが自身の魔法を鍛え、人の身を捨てた者。つまり、風の上位種である。その見た目は、人とおおよそ同じ見た目をしているが、背中から翼をはやせるのが特徴である。彼女達は、魔法使うことなくその翼で空を飛べる。

 しかし、現在。彼女は翼を展開していない。代わりに風で作った絨毯のようなものに、ラミラと自信を乗せ飛行していた。

「お前さんこそ、名前はなんて言うんだい?」

「ラマエッテ、ナニ?」

 この争いだけの世界で今まで幼女は、まともな教育を受けておらず推定5歳にかかわらず言葉を発するのがやっとの状態だった。

「名前すらないのかい。あんた。困ったねぇ。」

 そういいながら、老婆は自身の胸元にある羽毛から一枚の紙を取り出した。

「あんた、これを握って力を込めてみな。」

 そういわれた幼女は、不思議そうな表情を浮かべながらも静かにその紙を受け取った。

「コレ、ナニ?」

「これは、魔法紙。魔法を吸う特殊な木から生成された紙でね。これに魔法を込めたら、その人がどんな属性を持ってるもか分かるのさ。とはいっても、基本属性だけだけどね。」

 そういいながら老婆は、もう一枚の紙を取り出した。それを、幼女は不思議なものを見るような視線で見つめる。

「実際に、儂がやって見せよう。いいかい?ちゃんと見てるんだよ。はぁ」

 老婆は紙の角をつまみ力を流した。そうすると、紙が真っ二つに斬れた。その光景に、幼女は関心を抱く。

「分かったかい?こんな感じで魔法を込めると、紙がそれに反応する。例えば、風属性持ちならこのように切れる。水属性なら濡れ、火属性持ちなら燃え、木属性持ちなら苔が生え、土属性なら崩れる。ほら、やってみな。」

 そういわれた幼女は、目を瞑りながら力一杯魔法を込めた。しかし、紙は何も反応しない。

「そんなに、力んでたら出るものも出らんよ。もっと自然体で。」

 老婆にそう助言された幼女は深呼吸をし、もう一度力を込める。すると紙は次のような反応を示した。まず、紙には切れ込みが入った。その後苔が生えて燃え湿った。

 一連の反応を見た老婆は、思いっきり幼女を抱きかかえた。幼女は驚きの余りその紙を手放し、紙は崩れるように飛ばされていった。

「お前さんは、すごい。逸材だよ。四属性持ちなんて早々いるもんじゃないよ。儂は、運がいい」

 幼女はきょとんとした表情を浮かべていた。今思い返せば、この老婆は鼻から自分を売り飛ばすつもりだったのだろうとラミラは思う。

 最低限の教養をみにつける為のボロ屋で過ごしているうちに、あのお事件が起きラミラとヨウは出会ったのだ。


「私は絶対、ヨウを助ける。誰がなんと言おうと、何が有っても!」

 ラミラの目つきは、決意そのものを表しているようだった。アルラは、その視線に吞まれ

目を逸らす。

「分かった。そこまでの覚悟があるなら俺もとめねぇ。村の事は、俺とキイラに任せろ。」

 その言葉を耳にした執事のような女性が、アルラの方に不安げな様子で歩み寄る。

「いいんですか?止めなくても。」

「しゃあねぇだろ。あんな目されたら、誰にも止められねぇよ。」

 そう、小声で言い合ってる二人をよそに、茶髪の幼女がラミラの方に不安げ気な表情を浮かべ歩み寄ってくる。

「ラミラ、お姉ちゃん。」

 今にも泣きだしそうな幼女の顔を見て、ラミラはそっと屈みこみ自身の手を、彼女の肩に沿える。

「大丈夫よ。ミカ。絶対。帰ってくるから。」

「絶対だよ。」

 自信と決意に満ち溢れているラミラの表情とは裏腹に、ミカの表情は不安に満ち満ちていた。

「じゃ、行ってくる。」

 一度周囲を見渡したラミラは、そう言葉を告げるや否や洞窟の出口めがけて飛び出した。

「お気を付けて。」「ちゃんと帰ってくるんだぞ。」「バイバイ、またね。」

 村の人々は、そんなラミラを送るかのように言葉を発した。その言葉を聞きつつラミラは涙ぐみ決意をさらに高める。

 長いトンネルのような洞穴を抜けその目の前には、燃え盛る炎の土地。鳳凰の支配地・炎舞があった。

 おそらくヨウは、自身が炎舞に捕らえられる事を悟り予め私や村の住人を炎舞の近くに飛ばしていたのだろうと、ラミラは思考する。

「ホント、抜け目ないわねヨウ。」

 ラミラは、ヨウを救出すべく鳳凰の支配地・炎舞へと潜入をかける。

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