第四章 交差する世界

交差する世界① スピカとポリマ

「フッフフ~、フッフフン、フッフフフ~」

数多の星々や岩石が蔓延るこの世界で、蜂蜜色の髪をもつ女の鼻歌が響き渡る。その女は金の星屑に似たオーラを放っている。

「ご機嫌ね、スピカ。鼻歌なんか歌っちゃって。そんなに、あの惑星に着くのが楽しみなの?」

 紺色の髪を持つ少女は、先行しながら鼻歌を歌っている少女に視線を向け問いかける。その少女は小柄で一見すると児童に見えなくもない見た目をしている。

「そんなわけないじゃないですか。ポリマ。障壁に囲まれているだけの、さびれた惑星ですよ。」

 声をかけられた女は、無意識にオーラを放っている。その光の上から見てもその容姿はスタイル抜群で、体の中心にある胸が絹ごしに目立っていた。

「まぁ、たしかに。否定はできない。では、何故鼻歌を?」

 スピカは、進行を止め振り返った。とは言え、実際には理力の影響で目的地に近づいている。

「決まってるじゃないですか。気晴らしの為ですよぉ。」

「あっそ。」

 そういいながら、ポリマは何食わぬ顔で彼女を追い越した。彼女のその態度が気に食わない少女は、むっとした表情を浮かべた。

「なんですかぁ、その態度わぁ。聞いてきたのそっちじゃないですかぁ。」

 そういいながら、子供の様に腕で地団駄を踏む。そんな彼女を横目に捕らえながら無視し、紺色の髪を持つ少女は口を開く。

「着いたわ。」

 そこには、紫のような黒のような色の障壁に包まれた一つの惑星があった。この惑星は、地球と呼ばれ、かつて惑星最強の神と評された、アースという女神がいたとされる。

「本当、この惑星はいつ見ても変わらないままね。なぜ、ヴィーナス様とウェヌス様はこんな惑星の調査なんて、依頼してきたのかしら。」

 ポリマは、自身を引き寄せていた理力から逃れその惑星を目視できる位置に留まる。そこに、スピカが追い付いた。

「さぁ?私たちが使えない。無能だからじゃないですかねぇ。」

「〈イラ。〉使えない、無能はあなただけでしょうが!一緒にしないで頂戴。この前、あなたが城の金像をぶち壊したおかげで、どんだけ苦労したと思ってるのよ。」

 どうやら、ポリマの琴線に触れたらしい。彼女は顔を大きくしたような表情を浮かべ唾を飛ばしながらスピカを怒鳴りつけた。

「そんな事、今はいいじゃないですか。過ぎた事ですよぉ。」

 スピカは、降参の意を表すかのように手を挙げながらも呑気な態度を取り続けていた。

「たっく。」

 この能天気馬鹿に何言っても、効果がないと判断した少女は、地球の方へと振り返る。

「ホント、なんでこんな惑星の調査なんか…。」

「同感です。こんな惑星に一ヶ月かけてくるぐらいなら、城で労働してた方がマシですよぉ。」

「あんたは、ろくに仕事なんてできないじゃないの!」

「うー失礼な!力仕事ぐらいならできますよ!」

「そんなの、ろくに役に立たないじゃない。少しは、機械の使い方覚えなさいよ。」

「機械、機械。みんな、うるさいですよ。私は、体動かす仕事がしたいんですよぉ。」

「わがままいわないの。」

〈たっく。なんで、ヴィーナス様はこんな能天気体力お化けなんかを側近に選んだのかしら。あげく、頭脳明晰、成績優秀な私のペアに選ぶなんて…。〉

「はぁ。」

「なんですかぁ、今のため息は。失礼極まりない香りがプンプンしますよ。」

 スピカとポリマは共に金星の女神・ヴィーナスの側近である。金星は、金が豊富で資源と金に溢れている。当初は金を加工するのに力のある者が採用されていたが、機械化が進み武力ある者の需要は減っていった。更に、火星の神・マルスの働きの影響で惑星間の公正な取引が行われ戦争の需要もなくなっていた。

「別に?力がすべてではないとしても、力を誇示したい奴は無数に居る。弱い者を蹂躙したいと考える奴らもね。そういう時は、あんたは役に立つと思っただけよ。」

 スピカは生まれもった素質に加え、鍛錬を怠らずその理力は神に匹敵するとまで言われていた。他の惑星では、度々紛争が起きているという噂が有れど金星の平和を保たれているのは彼女の影響あってこそだろう。

「へッヘーン私は、強いのです。」

 そうスピカは鼻を伸ばし、腰に手を当てる。そんな、彼女に対しポリマは溜息を混ぜながら呟く。

「なんか、そう自分から言うととても強そうには見えないわね。」

「なんですかぁ?さっきからぁ。もしかして、喧嘩売ってますぅ?」

 スピカは、ポリマに詰め寄る。それに対してポリマは目を閉じ手を腰に当て毅然な態度をとる。

「あんたに、喧嘩なんて売る訳ないじゃないの。」

「おやおやぁ、私に負けるのが怖いんですぁ?そうですよねぇ、この前の訓練試合でも私が異能使うまでもなくボコボコにされてましたもんねぇ。」

 彼女の煽りに対して、少女はぐうの音も出なかった。実際、スピカとポリマの力の差は歴然だった。

「うっさい。私が、あなたぐらいの年になれば、異能無しの貴方には負けないぐらいの実力が付くわよ。」

「おやおやぁ?年のせいにするのですかぁ?10ぐらいしか変わりませんよねぇ。それに、お互い異能有の勝負で勝つ自信はないのですかぁ?」

 スピカの嘲笑は続いた。今は嘲笑される立場にあるポリマだがヴィーナスの側近約10人の中で2番手3番手の実力者である。あえて補足するなら、彼女たちの見た目は10代前半~20代前半の見た目をしているが、実年齢は1000歳を超えている。

「うっさい。長く生きてる分、異能量は増えていくのだから、当然でしょうが。」

「知らないのですかぁ?異能量は精神訓練や運動量等での向上が図れるのですよぉ」

「ぐぬぬ。」

 努力は報われるという話があるが、それは天才が努力をしない事が前提としてあるからだ。ポリマは努力家だ、家は貧しくとても恵まれた環境では無かった、そんな中でも努力し側近迄上り詰めた。彼女の知識量は神に次ぐもの或いはそれを超える者との評価されている。しかし、いやだからこそというべきか、彼女は知っているのだ。越えられない壁があるということを。

「おやおや、あいかわらずですねお二人さん。」

 ふとどこからが、声がした。それは、二人にとっては何度か耳にしたことのある凛とした声だった。

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