世界創造物語3ー③ 一時の幸せ
収の案内の元、二人は避難所へと辿り着いた。道中、真横の建物が崩壊したり、火事が起きたり、超局地的な大雨に振られたりしだが、無傷で収の元居た場所に帰還することが出来た。
「あ、収お兄ちゃんだ。」
白髪の少年の元に、ぼろぼろの服を着た幼女が駆けつけてきた。少年は、静かにその幼女の頭をなでる。幼女の左腕は無い。少年と少女は、周辺を見渡す。ここに居る誰もが傷を負っていた。
「これが、今の実情。」
少女は静かにふと呟く。少女は、自らに憎悪の目が集まっている様な感覚を覚える。そして、気が付く。自分は幽閉されていた訳でなく、守られていたのだと。
「これからは、もっと酷くなる。」
支配者は居なくなり、今まであった法が無効化された事により善悪の基準が覆る。弱肉強食。これこそが、今の秩序である。少女は自身の無力さと悲惨な光景に心痛めるのをぐっと堪え笑顔で明るく言葉を発する。
「皆さん。注目。私は葉と申します。このボヤの中、収様に助けられました。どうぞよろしくお願いします。」
少女の言葉に答える者はいない。何かを考えるその気すら沸かないのが、今の彼らの心情のようだ。
「収お兄ちゃん。お腹空いたよう。」
幼女は、下を向き少年の腕を引っ張る。少年は下を向く。数秒黙り込み言葉を発する。
「ごめん。食料は見つけられなかった。」
現実は、残酷だ。考える気力が湧かないほど自身の空腹には気が付かない。実際はそんな事は有り得ないのに、思考力や気力がない方が幸せだと感じてしまう。そんな雰囲気がこの場を支配する。
「そんなぁ。」
幼女は、落胆し膝をつく。そんな幼女に、白髪の少年に連れられてきたアオ髪の少女は歩み寄る。
「大丈夫ですわ、見ててください。」
少女は、幼女の視界に自身の手の平をやる。幼女はぼんやりと少女の手を見つめる。
「水木葉・葉物野菜生成。」
少女の手から、ランダムに葉物野菜が生成される。今回、生成されたのはキャベツだった。少女は、眼を見開く。しかし、それよりも後ろにいた先ほどまで無気力だった者達の方が関心を高めている様子だった。
「食べれるのか、それ?」
少年は嫌悪感を抱き、少女に問いかける。異能の定着には、魔法量と時間が必要になる。定着していない異能で生成された食物を食べたところで、慢性的な空腹は満たされない。
「ええ、食べられますわ。異能を強めてますので、約30時間ほど待って下されば、定着します。」
本来一人の異能者が中濃度の異能量を放出し続けた場合、キャベツ一つ定着するのに40日程かかるとされている。
「そんなに早く異能って、定着するの物なのか?」
収は、少女の異能定着速度に驚きを隠せずにいた。そんな少年とは裏腹に幼女は悲しそうな表情を浮かべる。
「私は人より4倍の異能量を持ち合わせておりますので、それだけの短縮ができます。」
「成程な。でも、キャベツ一玉にそれだけの時間がかかっちまうとこの人数は補えそうにないなぁ。」
少年は少女の異能に尊敬の念を抱きつつも、周囲を見渡し、言葉を詰まらせる。
「さらに短縮する方法が、幾つかあります。収。貴方の力貸してくれませんか?」
そういうと、少女は掌に具現化させたキャベツを消す。少年は少女の指示に従い掌を上に向ける。その上に少女は手の甲を乗せ掌に力を込める。
「水木葉・大葉生成。」
少女の掌に一枚の大葉が具現化される。少年はその大きさに驚いていた。
「定着に必要な異能量は種類と数によって異なります。しかし大きさは、実際に収穫される物に個体差があるように、異能者によって異なります。」
少年は、少女の説明に理解はできたが納得は出来なかった。なぜなら、生成された大葉は避難所全域に広がりそこそこの厚さがあった。
「これは一体なんだ?」
少年は思わず疑問を言葉に出す。大葉はこんなに大きい葉ではない筈。意味が分からなかった。
「私が生成したのは、大葉ではなく。大きい葉っぱです。」
「なんだ、それ。」
「説明は後、それより定着するまで後、10時間ほどかかりますので気を抜かないでくださいね。」
定着するまでの間、葉は巨大化を続けていた。異能者のイメージにより発現される異能の形は異なる。彼女のイメージした大葉は文字通りの大きい葉であった。
「さて、召し上がれ。」
大きい葉は、無事定着を終えた。その味は、食べる場所により、様々な味がするものだった。
「いい雰囲気ですわね。」
「だな。」
二人は、皆が巨大な葉にかぶりついている様子を、そっと眺めていた。
「所で大丈夫なのか、葉?」
「何がですか?」
「異能量だよ、異能量。これだけ大きい物を食べれる形でしかも追加性質まで与えるなんて。」
「一つ訂正しておきますわ。私は追加性質を与えていません。むしろその逆、性質の削減です。」
異能の定着に必要な時間を削減する方法は、濃度の上昇、異能者の増員、性質の削減などがあるとされる。今回生成された大葉はそれら全てを駆使して生成有れた。
そして、今回巨大な大葉の生成に成功した一番の要因が性質の削減である。本来、大葉には決まった形や味、風味などがある。だが、それらの性質を無視した。魔法による、生成及び定着とは、いわばコピー。正確にコピーしようとすれば、手間がかかり定着に時間がかかる。それは、魔法が非自然的に物を生成するのと同時に、一種のこだわりに起因するからとされている。今回、ヨウは大葉へのこだわりを捨て、ただ文字通りの大きな食べれる葉を生成したのだ。
「ものはいいようだな。」
「ええ。しかし、この大きさとなると疲れましたのでそろそろ寝たいと思います。朝になれば光合成もできますし。収は大丈夫なのですか?」
「ああ、養分の吸収は得意分野だからな。」
それを聞いた葉は城に閉じ込められる前の、兄と姉の会話を思い返す。
「この騒ぎを鎮める為には、新たな支配者が必要だ。」
「その為に、葉を異能の器にするというのですか?」
「それしか方法はない。」
「認められません。それには不確定要素が多すぎます。それに…。」
二人の会話を思い返した葉はそっと少年の頭に触れる。そして、少年の膝の上で眠りにつく。
翌日明け方、避難所は襲撃された。収と葉は何とか害なす者達を退ける。しかし、異能量と生命力を補填する間の時間、避難所に居た者達が二人を守ろうと盾になり全員が負傷し多数の死者が出た。
二人は生き延びた者達を、別の避難所へと誘導。死者への追悼を行い、その場を後にした。
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