世界創造物語3ー② 外の世界
収の異能により、アースの根城の屋上へと辿り着いた少女は衝撃の光景を目の当たりにする。
「これは、何がどうなっているのですか、収。」
「これが今の世界だよ、葉。」
町の世界中に火事が起き、建物等は風化していき、所かまわず木々が生い茂る。多量の雨の中、人々の悲鳴がそこら中から聞こえてくる。
「私が、幽閉される前のボヤ騒ぎはこんなにひどくなかった筈。」
少女は静かに、この悲劇を受け入れることを無意識に拒絶する。この生き地獄を過ごしてここに来たであろう少年は、悲惨な光景を見ながら静かに告げる。
「これから、これがどんどん広がっていくんだ。」
「なぜですか?」
ボヤが起きている事は少女にも伝えられ、実際にその光景を城から眺めてはいた。
「アースが失踪したからだよ。」
「お母様、が失踪したから?」
少女の不意な言葉に、少年は少し驚く。確かにここはアースの白の中だが、娘ならなぜ、あの何もない部屋に閉じ込められていたのかと。
「君、本当にアースの娘なのか?」
「はい。そうですが?」
本当なのか?少年は黙り込む。アースに息子と娘がいるのは知っている。しかし、聖典に登壇していたのは、アースとシンそして、ルナだった筈。葉という名の少女は知らない。
「なぁ、葉。」
少年は言葉を詰まらせる。過去がどうであれ、この騒ぎの原因はアースにある。もし仮に、この少女がアースの娘であるなら…。シュウに憎しみの感情が沸きだす。
「なんですか?」
「何でもない、下に降りよう。」
少年は、自身の心に沸いた感情に蓋をする。少女は、少年の表情に違和感を持ちつつもあえて追及はしなかった。
「分かりました。」
少年の異能により、二人は地上へと降り立つ。比較的安全な場所に降り立った為、不気味な静けさだけがそこにあった。
「これから、どうするのですか?収。」
少女の問いに収は沈黙を保つ。未だ、この少女にどう向き合っていけばいいかの結論が出ていない。
「収?」
少女は、不安げに少年の顔を覗き見る。少年は、わざとらしく驚いたような表情を見せる。
「な、なに。」
「何って、これからどうするのですかと聞いているのです。(プクーッ)。」
少女は、少年の態度に訝し気になりフグの様に頬を膨らませる。そんな少女の表情を見た少年は、吹き出しそうになるのをこらえようとし、我に返る。
「これからな。フッ。」
結局、少年は平常に戻れず吹き出した。しかし、少女への憎悪には一応区切りをつけることには成功した。
「何、笑っているのですか。」
少女は顔を赤くし、身を乗り出し姿勢を保つためにパタパタと手を上げ下げする。
「べっ別に、可愛いなぁって思っただけだよ。お姫様。」
少年は微笑みながら少女にそう言葉を返す。少女は、少年の不意な言葉に対し背を向け耳を赤くする。
「さて、これからどうするか?」
照れている少女を見守りながら、少年は軽い口調でそう言葉を放つ。驚いた表情で少女は少年の方へ振り返る。
「まさか、ノープランなのですか?」
「いや。元々、あの城には食料を探し求めに行ったんだ。まぁ、結局そこに居たのは何の足しにならない少女だったけど。」
ぼやが起き物流が止まり、奪い合いとなった食糧。そんな中、弱者は強者に勝てる訳もなく食料が行き渡らない状態にあった。
「なるほど。」
少女は、顎に指を当て思考を張り巡らせる。確かに、収の異能では食料の生成は不可能。しかし、調達と考えればさほど困難ではない筈。食料収集。この技で賄えるのだから。
「なぜわざわざ、自ら出向いているのですか?」
少年は少女の鋭い思考に少し驚いたように微笑む。そして、ここに至るまでの経緯を少女に告げる。
「始めは、確かに異能に頼ったさ。だが、俺の異能は痕跡が残りすぎる。」
「痕跡?」
「ヨウも知っているだろう?異能にはその足跡のようなものがあるって。」
「ええ、まぁ。」
「そして俺の異能の場合、瞬間移動であり空間転移じゃない。」
「なるほど、そういう事ですか。」
異能には痕跡が残る。異能を放出したのちそれが残滓となりそれが留まる。その残滓は目に見えず気配探知に優れている者でなければ平常心では感じ取ることが難しい。又その残滓は放出された異能量や濃度により探知のしやすさが異なる。それが、異能の痕跡。いわば、異能の残り香である。放出後、定着しない異能はその残り香と共に影響を残す。残り香はやがて消えるが、影響は消えることは無い。
そして、収の異能の場合。他者から見ればその残り香だけでなく、収集した食物は独りでに移動したように見える。それを辿ればシュウの元へと辿り着くことができ、少年に多大なリスクを背負わすことになる。
「意外とリスクが高いのですね。」
「そうなんだよ。それに、俺一人の食料って訳にもいかないし。」
シュウは、少女と出会う前に避難所にいた。そこでは、力なき者が身を寄せ合い互いを鼓舞しあっていた。
「なんとなく、事情は分かりました。では、私をそこへと連れて行ってください。きっとお役に立てますわ。」
少女は、強者の凶気から弱者を守るための一歩を暗い城の一室で出会った白髪の少年と共に踏み出した。
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