間章世界創造物語 第三部 幼き少女と少年との出会い
世界創造物語3-① 収と葉
「暗い。暗いよう。お兄様、お姉様。」
アースが失踪した。その直前に生まれた娘と、その兄姉をおいて。そんな噂が街に広まり、ぼやが多発していた。
「魔法で成長させたとは言え、ヨウの異能量はまだ乏しいのです。」
「確かに、なら。葉は城に閉じ込めておくのが正解か。」
この何もない部屋に送り込まれる前の兄と姉との会話を、少女は思い返す。あれから、幾つの時間が過ぎただろう。定期的に小窓から食料と水が支給されるが、それ以外は只々暗い塀の中に一人。幼い少女の精神は徐々にすり減っていた。
ポツン。コロ‥。
天井から、水滴や小石が落ちてくる。孤独。生まれて間もない少女は、只々寂しさに心支配されていた。
「お母様。臣下の皆様方。町の皆様方。お兄様、お姉様。」
短いひと時の幸せの時間。彼女が今まで精神を病むことが無かったのはそんな思い出があったからだ。ぼや騒ぎが起きた。彼女の耳にはそう知らされていた。
「町の方々、大丈夫でしょうか。」
そんな彼女の静かの言葉が届いたのか、天井から多量の小石が落ちてくる。そして、一人の少年が幼き少女の前に降り立つ。
「んだよ、せっかく神の屋敷侵入したのに何もねぇじゃねぇか。」
それは、十歳ぐらいの少年だった。彼の侵入した天井の穴から、光が差し込む。
「あなたは、一体。」
目の前に現れた白髪の少年に少女は無意識に言葉を発する。すると、少年がこちらを向く。
「ヒィ。」
少年と目のあった少女は、驚き焦り萎縮した。そんな少女に少年は驚きつつも言葉をかける。
「俺の名前は、収。夢は、そう。世界平和。よろしくな。」
少年の表情はとても明るく、親近感が沸いた。少女は暗闇の中で確かに光を見つけた気がした。
「にしても、お前。なんで、こんなところに居るんだ?悪さでもしたのか?」
「いえ、これは、お兄様とお姉さまが…。いえ、何でもありません。」
少年は、怯えながら訳ありげに話す少女に戸惑いつつ少女の元へ歩み寄りしゃがみこむ。
「なぁ、お前、外に出たくないか?」
「いえ、、それは。」
怯えながらも、兄と姉の言いつけを全うしようとする少女はその問いに即答できなかった。
「こんなところに居ても、どうにもならないと思うぜ。」
「うう。」
そんなことは分かっている。あれ以来、誰もここには顔を見せていない。届けられている食料だって、誰からの物なのかえさえ分からない。少女にとってはここは監獄そのものの様に感じていた。
「なぁ、お前。名前は?」
「葉。」
少女は、孤独の闇の中で力なく少年の問いに答える。少年はより少女に顔を近づける。少女は無意識のうちに少年の心に惹かれていく。
「葉。もう一度聞くぞ。外に出たくないか?ここに居れば、生きていけるのかもしれない。でも、それだけじゃ腐っちまう。見たくないものも見るかもしれない。でも、ここに居るよりかはきっと楽しいぜ。俺が保証する。」
少年はそう言いながら、ニッと笑う。少女の顔にも少しばかりの光が宿る。
「収。と言いましたっけ、貴方の名前。」
「ああ。言ったぞ。」
少年は少女の口調と雰囲気にに少し戸惑いつつ、その場に立ち上がり手を腰に当てる。
「私を、外に、連れ出してくださいな。」
「分かった。行こう、外へ、自由がお前を待っている。」
笑顔で少年は、少女に手を伸ばす。少女もまた、笑顔でその手を掴み立ち上がる。
「はい。」
少女の力強い返事を受けた少年は、自身の入ってきた穴の方へ目を向ける。
「よし、行くぞ。」
「ちょっと待ってください。」
「えっ。」
少年は、少女の思わぬ言葉に腰を抜かす。少女はそんな少年をよそに何かをつまむような仕草を取る。
「多羅葉、生成。」
「なんだそれ。」
少女の手中に、一葉の葉が生成された。少年は、その葉をじっと見つめる。
「手紙ですわ。」
「なるほど、それがお前の異能だな。」
「ええ、実は初めて使ったのですが、上手くいって良かったです。」
少女は安堵したような笑顔を見せる。手紙には自身の異能を流し込み、謝罪と思いを記す。
「じゃあ、今度は俺が異能を見せる番だな。」
そういいながら、少年は手を空に翳す。いや正確には収が入ってきた屋根にある穴の縁に。
「座標、収縮」
収の異能により、天井と収との物理的距離が縮まり瞬間移動を実現させる。
「これが、あなたの異能ですか?」
「そう、あらかじめ設置した異能点との距離を収縮させたんだ。」
少女は今起きた現象に驚き少年の異能に関心を抱く。それに対して少年は得意げに答えた。
―数分後、食事を運びに来た葉の姉ルナは葉が部屋から抜け出していたことに気が付く。
「これは。」
空になった、部屋の中心に一葉の手紙を手に取る。そこには拙くこう記されいた。
『ごめんなさい。お兄様、お姉様。少し外を見てまいります。そして、私のできる事を探してきます』
「まったく、困った妹ですわね。」
そう言いながら幼き少女の姉は、ふと笑みをこぼす。そんな少女を月光りが照らす。
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