平穏⑥ヨウの思い

 青い髪の少女は人がまばらに居る道の中黒い髪の少女の家へと走りゆく、街灯が故障してるのか、その場所は暗かった。暗い道の中に、黒い髪の少女がいた。

 「ねぇ、あなた、どいう言うつもり?」

黒い髪の少女は、驚いたように後ろを振り向く。そこには、少し息を切らした誕生日会の最中である筈の少女がいた。


「ヨウさん。いきなり、家を飛び出してどうしたのでしょう?」

白い髪少女は、首をかしげる。少年には自身の妹がどこに向かったのか予想が付いていた。

「なぁ、二人はカナについてどう思う?」

「えっ?まぁ、彼氏さんの前でいうのはあれだけど、少し不愛想な人だなともう。辺り強いし。」

不意な友人の兄の質問に戸惑いつつ頭頂部で髪を束ねた少女は返答をする。

「けど、怪我や無理に対しては人一倍敏感で、この前私が膝を擦りむいたとき率先して応急処置をしてくださいました。」

 白い長髪の少女は静かに過去の出来事を思い返しながら少年いそう告げる。白と黒髪の少年はそんな二人の返答に微笑む。

 「なんだか、うれしそうですねお兄さん。」

 トモエは、そっと心中を吐露する。トモエは、中学時代最強との呼び声が高かった少年にあこがれのような思いを抱いていた」。

「ああ、自分の彼女が、悪い印象持たれて無くて少しほっとしてるかな。ほら、カナって少し勘違いされるところあるから。」

「それは、そうかもしれませんね。」

白い髪の少女は、そっと言葉を放つ。何となくだが、黒い髪の少女がこの少年み惹かれた理由が分かった気がする。それはきっと、ヨウも同じなのだと。


「どうして、あなたがここに?」

「そんな、事はどうでもいい」

黒い髪の少女の問いに青い髪の少女は答えない。ただ、自身の心に席捲する思いをぶつける。

「手紙、読んだわ。」

 「そう。」

黒い髪の少女はやけに冷静だった。そんな少女は必死に戸惑いを隠そうとしているだけなのだが、それを看破できない青い髪の少女は激昂を交え言葉を放つ。

「あなた、どういうつもり?自分の叶えられなくなった夢を人に託すだけ託して自分は顔を出さないなんて。ふざけてるにも程がある。」

黒い髪の少女は、彼女の表情をじっと見つめる。青い髪の少女の目元には涙が浮かんでいた。

「あなた、やっぱりいい人ね。」

黒い髪の少女から発せられたのは、意外な言葉だった。しかし、その言葉は静かに心に響く。

「正直ね。分かってはいたわ。貴方は別に、私を嫌っているわけではないと。貴方は兄の事が物凄く好きなだけなんだと。」

意表をついた彼女の言葉に、少女の表情は照れた表情へと激変する。カナはそんなヨウに対して、クスって微笑み言葉を紡ぐ。

「いいと思うは、人を愛する、好きになるという気持ちはコントロールしきれるものじゃない。」

「べ、別に私はそういう感じじゃ。」

「いいのよ別に、馬鹿にしないわ。私だって大概おかしいもの。」

カナの言葉にヨウは翻弄される。対して、カナは一貫して冷静だ。

「あなたも知ってるでしょ、私の膝の事。確かに、直接の原因は私ではあるけども、きっかけはあなたの兄。」

青い髪の少女は、ようやく冷静さを取り戻す。前も聞いた筈のその話だが、今と前では受け取れるものが変わってくる。

「けど、私はあなたの兄の事が、すごく好き。何故かしら、恨んでないわけじゃない筈なのに。嫌いになるどころか、好きという思いが日に日に高まっていくのを感じる。」

少女はそういいながら、自身の胸の鼓動を感じるかのように俯き手を当てる。青い髪の少女はなぜか共感できてしまう自身の心に怒りを覚える。

「ひとまず、かつての私の夢は、あなたに託す。だから、あなたの兄を私に託してくれないかしら。」

大人びた口調で言葉を淡々と告げる少女に、青い髪の少女は負けたくないという強い表情が沸き上がる。

「それは、無理。私は、私の夢のために生きる。それが、例えあなた達の夢と被っていたとしても関係ない。」

その少女の言葉は、彼女の信念の象徴を表す。恐らくどこかで聞いているであろう二人に対しての言葉でもあった。

「それに、あなたのその願いは誰にも叶えられない。」

「それってどういう。」

黒い髪の少女は戸惑う。先ほどまでに感じられた、少女の雰囲気とは別の何かを感じる。それを敢えて言葉で表すなら、神々しさ。神など実際に居るか曖昧な存在にたいする説得力のようなものが彼女にはあった。

「別に、それは、時期に分かる事よ。」

「もしかして、今朝、あなたが私に告げた事と何か関係あるのかしら。この本に書かれていることが真実だと。」

黒い髪の少女は、今朝の事を思い出し世界創造物語と表紙に書かれた書物を取りだす。

「さて、どうでしょう。と言いたいところだけど、その質問には答えるは。その代わり一つ頼みがあるの。」

「頼み?」

青い髪の少女から汲み取れる、神々しさとも呼べる独特な威圧感に少し飲まれつつも少女は問う。

「ええ、シュウを頼むわ。とは言っても、多くは望まない。傍に居て欲しい。彼にとって貴方は大切な存在なのだから。」

「ええ、それは構わないは。というより、はなからそのつもりだもの。だって、私にとっても彼はとても大切な存在なのだから。」

 黒い髪の少女は力強くそう言い切る。青い髪の少女は、安堵の表情を浮かべ言葉を告げる。

「世界創造物語は、――――――――――――――――。そして、真の執筆者は―。」

「えっ?」

少女の思考は彼女の言葉に対する理解を、拒絶した。実際に告げられた青い髪の少女の言葉は、それ程衝撃的なものだったのだ。

 「それは、そうと。パーティあなたも参加しない?ケーキ初めて成功したの。」

 少女から醸し出されていた、独特な雰囲気が嘘のように消えた。カナは戸惑ったがこれ以上の詮索に危機を覚え辞めた。

「それは、無理ね。私、これから、病院に行かなくちゃいけないの。」

「病院?まだ治ってないの?」

「まぁ、日常生活においてはサポーターをつけなくても大丈夫なぐらいに回復はしてるのだけどもね。」

「過信しすぎたと。」

「まぁ、そんなところね。」

 青い髪の少女は呆れたような表情を見せ溜息をつく。そして、その場にしゃがむ。

 「ちょっと見せて。」

 青い髪の少女は、患部に手を触れる。カナは膝から不思議な感覚を覚える。

 「何をしたの?」

 「ふふ、内緒。まっ、プレゼントのお礼みたいなものかな。」

 青い髪の少女は、微笑みながら立ち上がり言葉を発した。黒い髪の表情は困惑していた。

 「早く、病院行きな。そして、余り無理しない事。」

 「ええ。そうするわ。」

 黒い髪の少女は、困惑しながらも自身の身に着けている腕時計に手をやる。情報が多すぎて脳の処理が追い付かない。

 「じゃ、シュウの事をよろしくね。」

 ヨウは明るい口調で告げながら、シュウの居る家へと帰る。

―それが、この世界における進藤ヨウと、黒崎カナの最後のやり取りとなった。

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