平穏⑤誕生日会

「「ハッピーバースデイ・トゥーユー、ハッピーバースデイ・トゥユー、ハッピーバースデイ・トゥユー、ハッピーバースデイ・ディアヨウ、ハッピーバースデイ・トゥユー」」

明かりを全て消した部屋の中、暗闇に16本の蝋燭の火が灯り生誕を祝う唄を歌いながら食卓へと運ばれる。センターテーブルには毛先がウェーブ状の少女が一人で椅子に座り待ち構えている。

部屋の中には甘い香りと蝋の香りが混在し漂う。やがてそれは、センターテーブルへと置かれた。

「「ヨウ誕生日おめでとう!」」

照れた表情を浮かべながらヨウは、自身の前に置かれたケーキの上にある蝋燭に対し目一杯息を吸い込み勢いよく吹き出す。吐息に吹かれた蠟燭の火は一斉にして消え辺りは暗闇へと変わる。

「さっすが、ヨウッチ。一息とは、なかなかやるね。」

トモエは何だか誇らしげな口調で言葉を発しているがその姿は見えない。

パチン

静寂の中、何かのスイッチを押した音が聞こえ辺り一面が照明によって照らされる。スイッチを押したのは白髪の少女だった。

「さて、写真を撮りましょうか。」

「えーさっき撮ってたじゃん食べようよ。」

トモエは早く、自分たちが初めて成功させることが出来たイチゴやベリー等のフルーツが乗ったケーキを食べたいようだ。

「いえ、だめです。まだ、ヨウさんがケーキの正面に居る画は撮れていません。」

ノゾミは暗い部屋の中で回していた携帯端末のカメラで撮影した動画を確認しながら反論する。

「えー別によくない?」

トモエは、気だるい表情を浮かべヨウの元へ振り向く。ヨウは照れ臭いという感じの表情を浮かべていた。

「撮りますよー、トモエさんどいててくださいね。ハイチーズ。」

写真を確認したノゾミは、自身の携帯端末のキックスタンドを突出させ、テーブルの上へと置く。

「はい、今度は三人を撮りますよ。トモエさんもっと近づいて。」

ノゾミの指示を受け、めんどくさそうに動くトモエ。そんな中、玄関先から物音がした。それは、玄関が開く音だった。

―十数分前、進藤家に続く道路にて

「なぁ、カナそのプレゼントだけどさやっぱり、直接渡さないか?」

「えっ?」

シュウの提案にカナは意表を突かれた表情を見せる。カナとヨウは未だ良好な関係を築けてるとは言えない。カナはそう自覚していた。それは、シュウも同じように考えているはずだ。

「そのプレゼントに込めた思いを直接伝えた方が、これから先良いことが起こるかもしれないって俺は、思うんだ。」

カナは、シュウの言葉に戸惑う。シュウの言いたいことは理解できる。しかし、これまでの経緯を知る自身の心はそれを否定する。私は、ヨウから兄を奪ったのだ。ヨウのシュウに対する思いは兄妹愛以上の何かを感じる。それに、私は割り込んだのだ。どんなに、弁明したとしても決して和解には至らない。彼女の心にはそんな罪悪感に似た心情が席捲していた。

「これ以上、私は。貴方の妹に苦しんでほしくない。」

少女は立ち止まり、自信の心の醜さを自覚し涙ながらに偽善を述べる。少年はそんな表情を浮かべる少女に振り向く。

「じゃぁ、なんで、プレゼントを渡したいなんて思ったんだ?」

少女は、少年の方へ顔を向ける。それは、戸惑いそのものを体現するかのような表情だった。

「だから、それは、あなたの彼女として。」

少女の予想通りの回答に少年はふと、溜息をつく。それだけではないはずだと少年は看破する。

「本当にそうか?普通、彼氏の妹なんかにプレゼントなんて贈らないだろう?しかも犬猿の仲である相手に贈り物を届けるなんて、変だよ。」

少年の言葉に少女は言い返せなかった。少女は周りに興味ない。だから、周りの恋愛事情なんて知らない筈。でも、なぜだろう、少年の言葉に説得力を感じる。

「そして何より、どうでもいい相手、本当に嫌っている相手に対して、自分の思いなんて託さないし託せない。」

少女は悟る。彼の言葉の説得力の正体に、自身の本当の思いに。心が痛む。少年は少女の表情の移り変わりに注視し微笑みかける。

「ヨウと、仲良くしたいんだろ?俺の彼女としてでなく、かつてのライバルとして、更には友達としいて。」

少年の言葉がここで途切れる。少女の表情に明るさが宿り始める。そして、本心を吐露する。

「そうね。」

―時間は現在へと戻る。

 玄関を開いたのは白と黒髪の少年だった。少年の手には二つの紙袋と自身の手荷物があった。少年の表情はあまり晴れていない。けど少年は彼女の思いを託されておりそれを届ける義務があった。

「あ、シュウさん。お久しぶりです。お邪魔しております。」

そんな、ノゾミの言葉を無視しシュウは居間に入りヨウの傍へと歩み寄る。

「ヨウ、これ誕生日プレゼント。カナから。」

ヨウの心に怒りが灯る。今朝、カナの事に対し喧嘩したのにかかわらず、又この男はカナと一緒に居たのかと。顔をやや赤くし少女は立ち上がる。

「要らない。あの女からの贈り物なんて受け取りたくない。」

少年は少女の言動にやや押されながらも、少女から預かったモノを強く突き出す。それを見かねたノゾミが口を開く。

「ヨウさん、どんなに憎たらしい人からでも、贈り物には思いが込められてます。それを無碍にすることは許せません。」

「そうだよ、ヨウッチ。お兄ちゃん取られて嫌な気持ちいしてるのは分かるけど受け取らなきゃダメだよ。」

生地が焼けるのを待つ間、二人はヨウの口からカナとシュウが付き合ったこと、それで今朝喧嘩した事を聞いていた。二人は最初話を聞いて、シュウとカナは最低な人問う言う印象を持っていた。しかし、そんな彼女が贈り物をしてきた。ヨウと別の中学だった二人は三人の関係性なんて知らない。しかし、話を聞く前の二人は周りに無関心という態度をとっていても配慮は欠かさない。それに、ヨウが話すシュウはそこはたとなくいい人で実際に会ってもチーム思いの努力家という印象が強かった。

二人の友人の言葉に感化された少女は、勢いよく差し出された袋を奪うようにし手に取る。そこには、ラッピングされたプレゼントらしきモノとは別に手紙があった。

少女は、その手紙を開く。手紙には自身が憎む少女の思いが綺麗に記されていた。手紙を読み終えた少女はそのまま、家を飛び出す。

「あの、女。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る