平穏②高森デパート

高森デパート。市内随一の巨大商業施設である。建物の敷地面積はおよそ10万㎡地下を合わせ10階建てで、各フロアには飲食店やアパレル店は勿論、ホームセンターや書店、映画館、食料雑貨店に子供向け商品、ディスカウントストア、スポーツ用品、宝石専門店、化粧品専門店、カラオケ、ライブ会場、温泉施設など安価なものから高級商品まで幅広いジャンルの店舗が揃っている。

「いつみても、でかいなぁホント。」

「ホントね。」

二人はデパートに足を踏み入れる。デパートの中には子供連れの学生やワイシャツ姿の大人達、学生たちでにぎわっていた。幾度となくこの地を訪れているが、終業式直後というのもありいつも以上に賑わっているため、いつもとは別世界に居る気がした。

「さて、どこから行くか。」

少年はフロアマップを見ながら、誕生日プレゼントを買うのにふさわしい場所を探してみる。

「そういえばシュウは、何をプレゼントするの?」

「あ、俺か?エナメル質の青色のショルダーバッグかな。」

少年は恥ずかしそうに携帯端末を取りだし写真を見せながら告げる。案外、人に自分が何を贈るのかを伝えるのは少し恥ずかしい気持ちになるのだと実感をする。

「ふーん、少し幼い気もするのだけれど、普通に似合う気はするわ。」

「え、幼い?まぁ、そうかもなぁ。」

少女の言葉に、少年はハッとさせられた。でも、既に購入してしまっているし、自分で使う訳にもいかないと当惑の表情を見せる。

「そんなに、気にする必要は無いと思うわ。ほら、こういうのは気持ちが大事っていうじゃない?」

「まぁ、それはそうなんだろうけどさぁ。でもなぁ。」

少女の言葉に少年は納得しようとするが、何か役に立つモノを贈りたいと腑に落ちずにいる。

「そんなに悩むくらいなら、新たに買い足せば良いのじゃないかしら。」

「そ、そうだな。」

そういいながら、少年は携帯端を操作し銀行残高と支払い履歴を確認する。とりあえず、10000円以下なら何とかなりそうだ。

「予算が気になるなら、無理しない方がいいと思うわ。何なら、私が半分出してもいいわ。」

黒崎家は別に由緒ある家という訳では無い。カナの祖父が宝くじを買って一等を当てたらしく、その息子のアドバイスにより株などで資産形成を行って随一の資産家に成りあがった。その恩恵がカナにもあるというわけだ。

「まぁ、大丈夫。20000円くらいなら何とかなる。」

そんなお金持ちの少女に対して、少年は少し見えを張った。だが実際、少年の銀行残高には10万程の貯金がある。一応、世界一売れている作家の息子なわけでかなり裕福な家庭ではある。とはいえだ、お小遣いで渡されるのは月5万程。そこから、部活で使う用具や部費やそ他を支払うので、あまりお金に余裕はない。

「そう、ならいいけど。」

少女は少し思考を巡らす。誕生日プレゼントの適正価格は幾らになるのかと。考えても答えは出ないので先に店内を見回ることにした。

「とりあえず、歩いてみる事にしましょ。」

「そうだな。」

カナとシュウは現在一階に居る。一回には有名ラーメンチェーン店や寿司屋や焼き肉屋、中華屋など様々な店が出揃っていた。

「とりあえず、一階には用事は無さそうだな」

「そうね。」

実は割と空腹な二人だが、誕生日会に間に合わなくなるのは本末転倒なため先に贈り物を買うことにした。二人はエスカレーターに乗る。

「とりあず、どこいく?」

少年は近づく次の階の方を眺めながら少女に呟く。少女は少し考えて口を開く。

「そうね、定番だとアクセアリーや化粧品とかになるのかしら。」

「まぁ、定番だとそうなるのか。」

少年は的の得ない返しをする。そうこうしているうちに二階へと到着。二回は、ファストフード店や子供用品店、コンビニエンスストアや100円ショップなどがあるが、贈り物として相応しいモノは売ってそうにないのでスルーした。

「ただ、あんまりそういう装飾品つけているイメージ無いんだよなぁ。」

「そうね、私もあまり見たことないかもしれないわ。」

次の階はスポーツ用品店がその階全面に展開されていた。少女はその店に関心をう抱いていた。

「私のイメージだとやはり、スイマーのイメージが強いわね。」

「まぁ、そうだな一応、中学時代に高校の記録会によっては新記録を踏破するぐらいだしな。」

シュウは高校入学後もヨウの為、友達やかつてのライバルから情報を入手していた。

「ホント凄いわよね、彼女。この前の記録会で大会新記録出したそうよ。」

「まぁ、俺の妹だし当然だな。」

なぜか、自分が褒められていないのにもかかわらず少年は得意げになる。少女は、この兄妹のスポーツセンスはどうかしていると思う。なぜなら、この少年も中学時代いくつもの新記録を出していたのである。

そんな会話を繰り広げ広げていくうちに、二人は三階へとたどり着いた。少年はスルーしようと思ったが少女は立ち止まる。

「私は、ここで済ませるわ。」

「えっ?」

カナの目の前には様々なスポーツ用品が陳列されていた。少年は呆気にとらわれていた。

「当然、あなたは別の階で購入するのよ。また後で、合流しましょ。」

少女は少年を嘲笑うかのような態度を取り、その場を後にした。一人取り残された少年は周囲の人の視線にさらされながら、その場で立ち尽くしていた。

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