魔法使いの戦い⑨村人の絆

〈うう。ヨウ、大丈夫なの?〉

 幾度なく武器を切り替えながら戦うフレイム。それに押されるヨウの姿を見てラミラは不安の表情を露わにしていた。ラミラの手を幼い少女を引っ張る。

 「ラミラお姉ちゃん。本当に大丈夫なの?助けに行かなくて。」

 「ええ、大丈夫…だと思う。それに、、」

 少女の問いにラミラは自信をもって答えられなかった。現に今ヨウは何か好機をうかがっている様子だ。それに助けに行けばフレイム一人相手ならこの状況を打開できる。しかしだ、今は静観している炎魔人二人。魔法量が心もとないラミラが助けに行けば、静観を決める必要がなくなり、状況が悪くなるだけだ。

 「本当にいいのかよ。このままで。」

 ラミラの帰還を快く思ってなかった褐色の肌に無数の切り傷がある青年が、ラミラの方へ攻寄る。

 「アルラ」

首元をつかまれた、ラミラは視線でアルラに対抗する。アルラの視線は何かを訴える。

「あいつらは、前からちょっかいかけてきた。だが、お前たちが返ってきたとたん状況がさらに悪化した。本当、何しに帰ってきた。」

「ちょっと、アルラさんやりすぎです。」

執事のような佇まいの女性、キイラが仲裁に入ろうとする。しかし、アルラの腕力にかなわない。

「私は…別に、望んで帰ってきたわけ、じゃない。」

ラミラは、自分の言葉に疑問を持ちつつも言葉を紡ぐ。その言葉に納得いかないアルラは、ラミラを投げ飛ばす。

「チッここで、話してても埒が明かねぇ。お前が行かねぇなら、俺が行く。少しぐらいの隙なら作れるだろ。」

 その言葉を聞いたラミラは、立ち上がりながらアルラに飛び掛かり肩を強く握る。

「馬鹿いってんじゃない!あんたが行ったってなんの役に立たない。今の私でさえ足手まといに…」

少女は、涙ながらに訴えかける。その様子を褐色肌の男は見つめる。そう、この場で一番悔しい思いをしているのはラミラだ。

ヨウの言う通り万全な状態なら支障をきたさずに勝利できる相手。しかし、村を離れて約一年。ずっと魔法を放出し続けていた。風の魔法は、探知探索に優れている。自身の身を守るには必要なことだった。だが、今それが弊害になっている。

「私は、私に向かってくる敵をここから遠ざける為に村を出た。ヨウも同じ。村に犠牲になってほしくないの。」

「ラミラお姉ちゃん。」

「ラミラさん。」

涙ながらに訴える少女の言葉に村人達は心討たれる。それは、褐色肌の男も同じ。それは、紛れもない少女の本音だった。少女の思いを受け取った男は溜息を付く。

「なら、守ってくれ。この村を。」

「でも、」

男の言葉に、ラミラは冷静さを取り戻す。だが、今の魔法量ではそれは敵わない。

「と言っても、場所としての村じゃねぇ。ここに住む人たちをだ。」

「どういう。」

「まだわからねぇのかよ。この村を使えってことだよ。」

 少女は驚き、周りを見渡す。村の人たちは皆頷く。そして、村の木々も頷くようにそよめく。

「ここには、木も水も火も風もある。十分だろ。」

「そうね。」

少女は、頷き覚悟を決める。村に住まう者達を守る為、飛翔する。ヨウに迫る刃めがけて。

「何しに来たんですか、ラミラ。そんな少ない魔法量で。」

「そうだ貴様、今度は燃やし尽くしてやる。」

 ヨウは驚きと心配の言葉を、ボルノは夏の虫を見るかの口調で言葉をぶつける。対して、ラミラの表情は自信に満ちていた。

「消し炭になるのはどちらかしら。」

「なにを⁉」

 ラミラの態度に堪えられくなったボルノが突進をかける。しかし、ラミラはニッとわらう。

「ヨウ、行くよ。」

「なる程、そういう事ですか。」

 ヨウは、理解した。そして二人は、手のひらを村に向けながら腕を広げる。

「水風木火・」「水風木・」

「「アブソープ」」

  本来、触れずに魔法の奪取をするのは不可能に近い。しかし、それは定着していたとしても魔法は魔法使いに守られているからである。では、奪取を望んでいるとするなら。

 村に込められていた魔法が、その最強戦力二人の元へ流れていく。それを感じとったボルノは突進をやめる。村はどんどん縮小する。それに伴い二人の魔法量がどんどん膨れ上がる。

 「こ、これは。」

 炎魔人三人は、驚愕する。彼女達の取った行動もそうだが、その膨れ上がる魔法量に。

 「チッ。 バーンこれを使え。」

 フレイムは、鳳凰から預かっていたスペアの鳳(ほのお)の球をバーンに渡す。バーンはそれを受け取り魔法量と体力を回復する。その頃には村は、跡形もなくなっていた。

 「「行くわよ。」」

 魔法を充電し終わった、二人には強者の雰囲気が醸し出されている。二人の姿が消える。いや、正確には目で捉えられる速さを超える。

 「水風・ブロー」

 炎魔人は無数の打撃を喰らい続ける。だが、それがどちらの打撃かは分からない。彼女たちの本来の実力は正に圧倒的なものだった。

 「すごい。」

 「ああ、本当にな。」

 離れているところから見てもそれは明らかだった。彼女達の姿は見えないが、三人の炎魔人達が疲弊していくのが分かる。そして、炎魔人達は意図して密集させられていく。

 「「水風木・サイクロン」」

 密集した炎魔人の下方から、突如として裂くような暴風が吹き荒れる。その風には水や木も含まれ、切り刻もうとしていく。

 炎魔人は何とか抵抗しようとする。先に切り出したのはフレイムだった。

「炎・フレイミングブラスト」

 フレイムは、その風を振り払おうと高火力の熱風を放出する。それにつられて、他二人も熱風を放出する。

「炎・バーニングブラスト」

「炎・ボルケイノブラスト」

三人の高火力が合わさる事でようやく、風が晴れる。しかし、三人は息を切らす。

対して、複属性持ち二人は上空で弱まる炎を眺める。そして、拳に魔法を込め強く引く。

「「これで、終わりよ(です)」」

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