魔法使いの戦い⑧援軍

「炎・ファイアリーフィスト」

ヨウの弓から無数の水矢が放たれる。しかしその水の矢はバーンに接触する前に、上空から放出された炎柱のようなものによって蒸発させられた。

「これは、これは。大層な援軍だこと。」

その火元には二人の男がいた。ヨウはその男の登場に冷や汗を掻く。

「私もそう思う。」

その男には余裕を感じられた。先ほどまでのバーンの戦闘をどれだけ見ていたのかは、分からない。とはいえ、その結末は見ていたはずだ。それ程の強者なのかとヨウは思案する。

「なら、そのお焦げを持っていかえっていただけると、有りがたいのですが。」

「それは、無理な相談だ。平和村を手中に収めよと鳳凰様の命令なのだからな。」

 ヨウは、その言葉にややたじろぐ。バーンがこの地に来た頃から予想をしなかったわけではないが、最上位種がこの村を狙っているとなると、ここで退けても村の安全は担保されない。

「鳳凰ですか。まさかあの鳥まで関わっているとは、それ程この村に価値を見出していると言う事でしょうか。」

「さぁな。」

対する男の口調は、至って冷静だ。それもそうだろう、なぜなら男の後ろに居る男は先刻ラミラに敗れた、炎魔人だからだ。

「ただ、お前たちには価値はある。」

 男はそう言いながら、村の端に目をやる。そこには、少女を覆いながら上空をみるラミラがいた。覆われている少女は、涙ぐんでいた。また数十人の村の人たちも不安と恐怖に震えながら上空を見つめている。

三人の炎魔人。その脅威が上空にはいた。中でも、ヨウの矢をかき消した男。見た目は、髪などが燃えている事を置いとけば、執事のような青年といった感じだ。しかし、彼の体はその殆どが炎で構成されている。髪以外、その炎を露見させない。フレイム・イフリート。今最も鳳凰に差し迫っているとされる男だ。

「一つ、取引をしないか?」

「取引?」

フレイムは怖いほど冷静だ。いくら三人の炎魔人が揃っているとはいえ、一人はラミラに敗れ、もう一人は先ほどの戦闘で虫の息。この余裕はどこから来るのだろうか。それを探る為ヨウは会話を続ける。

「ああ、お前たち二人が私たちと一緒に来れば、私たちは一旦退くと約束しましょう。如何ですか?」

 ヨウは、フレイムの提案を鼻で笑った。なんの取引になってない。なぜなら、村の最強戦力二人が村から出るのだ。一旦退いたところで、また攻め入ればいい。

「それ、本気で言ってます?」

「ああ、そうだ。」

 半笑いで言い返したヨウに、フレイムは大まじめに返した。どうやら、煽られたのが分かってないらしい。離れたところから一部始終を聞いていたラミラは、堪えきれず吹き出してしまう。それに、つられそうになりながらヨウは言い返す。

「折角の提案ですが、お断りさせていただきます。」

言い返されたフレイムは、落ち込みもせず逆に昂って声を大にしてなぜか笑顔で言い放つ。

「そうか!残念だ!じゃあ、戦うしかないな!」

「「は?」」

ヨウとラミラは困惑していた。先ほどまでの冷静な感じはどこへいったのかと。しかし

、ヨウはある事に気が付く。炎の色が変化していることに。

「その髪。」

「あぁ、これか?これはな。感情に応じて色が変化するんだよ」

一般に炎の色は変化するとその温度が変化するとされている。しかし、魔法によって発生する炎にそれが適応するのかはいささか疑問である。なぜならどの炎魔人もその上の鳳凰ですら炎の色は赤い。

「炎の色が変化するとは、中々稀有な体質ですわね」

「そうか?鳳凰様だって変えられるぞ。」

確かに昔、鳳凰と対峙した時の炎は黄色だったと、ヨウは思い出す。そして、今のバーンの色は橙。

「まぁでも、俺は感情によって変化しちまうからなぁ。それに、自力では橙色が限界だし。」

〈なるほど、恐らくは基礎温度から更に温度を高める事によって色が変化するという事でしょうか。しかし、まぁこれ程熱が漏れてこないと、触れる以外で測ることはできませんね。〉

 「おっと、話過ぎたな。さっさと始めようぜ。」

  そういうや否や、フレイムは突進をかけてくる。ヨウの対応がコンマ数秒遅れる。

 「炎・ウェポン」

 橙色の炎を放つ男の拳には、炎で具現化されたメリケンサックのようなものがあった。

 「あっつ。」

 ヨウは、その拳を喰らい火傷を負う。それに勢いづいたフレイムの攻撃は止まらない。

 「水・グラブズ」

 二撃目以降、ヨウは水魔法で具現化した手袋を纏い打撃を受ける。しかし、打撃に触れるたびに手袋は蒸発、徐々に自身の掌が熱せられていくのが分かる。ヨウの顔が段々と険しくなる。

〈このままでは、埒があきませんね。なにか、攻撃に移るためのきっかけを作らなければ。〉

「まだまだ、行くぜ。」

 遠目で見ていたラミラは驚愕し、ヨウは冷や汗を掻く。技名の発声無しに武器が変化したのだ。いや、発声無しに技が切り替わるケースは無くはない。だが、恐るべきはその頻度とタイミングである。勢いづいたフレイムの武器は、メリケンサックからフレイル。フレイルからブーメランカッター、剣、クナイ、鞭、三節棍、鉤爪等攻撃の度に切り替わる。どれも、対処法を間違えれば致命傷になりかねない。ヨウはひとまず回避に専念する。

 〈この切り替えの量さすがに焦りましたが、段々と躱すのは慣れてきました。しかしどーしましょ。攻める隙がありませんねぇ。〉

 フレイムは段々と自身の攻撃が当たらなくなっている事に苛立ち攻撃の手を加速する。しかし、バーンとは違い加速させる度にその精度と威力が上がる。

 〈この男凄まじいですわね。これは、本当に。〉

 ヨウに剣先が差し迫る。回避不能、防御も難しいヨウは何かを諦めようとした。だが、その剣がヨウへ影響を及ぼすことは無かった。 

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