魔法使いの戦い⑦三属性vs上位種

ヨウとバーンの戦いはまだ続いていた。

「たかが、三属性に負けたら、炎魔人との面子が保てねぇんだよ。炎・ソード」

バーンは、炎の剣を具現化し手に持つ。それに対しヨウは微笑みながら水の槍を具現化する。

「水・ランス」

ヨウは具現化した槍を振り回しながら後ろに構える。その槍の長さはヨウの身の丈より長く穂先は三つに分かれ、魔法の密度が高い。

「重そうな、槍だな。」

「いえ、それ程でも。」

炎の剣はヨウをめがけ斜めに幾度となく斬り掛かる。それをヨウは水の槍で難なく捌く。。

「こけおどしが!」

バーンは捌かれ続ける事に苛立ち、剣の火力を高め大きく振りかぶり降ろす。しかし、降ろした先にはヨウの姿はない。

「こっちです。」

ヨウは、バーンの背後に回り込んでいた。そして一言告げながら、槍を突き出す。槍がバーンの背中を捕らえる。刺されたバーンは背後に居るヨウに対し遠心力を付けながら、切りかかろうとするが、とどかない。バーンの動揺が見て取れたヨウはすかさず槍に魔法を込める。

「水・エクステンド&スプラッシュ」

ヨウの繰り出した水の槍は伸長し、バーンを背中から胴へ貫く。伸びっ切ったところで槍はバーンの腹の中で一点に集まり、弾ける。体内から魔法を受けたバーンの体温が急激に低下する。

「おやおや、辛そうですね。」

「なぜ、お前はそんなに平気なんだよ。」

 ヨウは未だ、余裕の表情を見せる。対してバーンは息を切らし飛んで体勢を保つのがやっとの状態に見える。

「だって、一度も攻撃が当たってませんもん。」

「貴様、ふざけるなよおぉぉォォオ炎・マージ」

ヨウの煽りに激昂したバーンは体外へ自身に溜めていた炎を放出する。辺りは灼熱の炎に包まれる。

 「ちょっとまって、これ大丈夫?」

 取り巻き達との闘いを終えたラミラは、背後に熱気を感じ振り向く。そこには、巨大な炎の塊があった。炎の塊の前にヨウを見つけたラミラは、ヨウの元へ飛びよる。

「あら、ラミラ。そっちは片付いたのですか?」

「ええ、まぁ。それよりこっち。やばくない?」

「いや、それ程です。」

ラミラはこの炎の塊をみてやや怖気づいている様子だった。対して、ヨウは多少汗ばみながらもその炎に対し勝利を確信しているような笑顔を見せる。

「これを見ても、余裕の表情を見せ

るか。とことん、俺を侮辱しやがって、貴様!」

マージ。一体化の魔法。魔法使いはその属性に準ずるモノの力を奪取できるだけでなく、その属性に準ずるモノに一体化及び、形状変化が可能である。ラミラの倒した取り巻き達は気を失ったまま浮上し、その炎の塊に取り込まれる。

「あいつ、仲間を犠牲に!」

「ふん!所詮この世は弱肉強食。弱い奴は、喰われる。それが、自然の摂理。」

取り込んだ取り巻き達の魔法を奪取したのか、その炎の火力が跳ね上がる。ヨウは、そんなバーンの言葉に怒りの表情を露わにする。

「それは違います。真の自然の摂理とは、平穏下の競争です。」

「何を、意味の分からんことを!マージドエンハンス!」

バーンの怒りが頂点に達する。その炎の火力がさらに跳ね上がる。ヨウはラミラに向け手を開く。

「下がってなさい、ラミラ。まだ、万全ではないのでしょう。」

「でも…」

「万全状態の貴方ならなにも臆する事もないでしょう。それに…」

「それに…」

ラミラは心配そうにヨウを見つめる。対してヨウは迫りくる灼熱の炎を目の前に居てるのにもかかわらず、堂々としていた。

「もう、布石は打ってあります。」

「そう。じゃあ、ここは任せるわ。村も心配だし。」

ラミラは、ヨウの言葉を信じる。そして、その場を後にし村に戻る。村の端に住人達は避難していた。

「ラミラお姉ぇちゃん。」

ミカは心配そうな眼差しを、ラミラに向ける。ラミラはミカの頭をなで再び上空を見る。

「大丈夫、ヨウは強いから。」

バーンはヨウのとった行動に増々怒りを感じ、限界突破していた。

「俺は、炎魔人だぞ。属性の優劣を覆すものだぞ、いくら、貴様が水使いとはいえ、貴様が俺にかなうことは無い。」

「たしかに、その通りですね。ですがそれは正確ではありません。確かに上位種は属性の優劣を覆しました。ですが、それはただ単にその枠から外れたというだけです。」

そう、ヨウの言う通りである。水は火より強い。しかし、上位種が扱う属性は炎。水は炎より弱い。但し、炎は基本属性(水、火、木、土、風)の中では水が苦手。そして炎は水の上位属性には敵わない。

「それがどうした。」

「まだ、分からないのですか?魔法の優劣は、属性だけでは決まりません。その者の魔法量や思いによってその威力は変化します。」

「だから、それがどうしたと言っている。もういい、村諸共消し炭になれ!エンハンスドストライク」

突進のスピードが上がる。ヨウは、手を広げ自身が発生させていた霧に、魔法を込める。ヨウが用意していた布石。この戦いの火蓋を切った技、「水風・タイフーン」。発動後、周囲を席捲したこの技は、バーンにかき消されながらも霧として残されていたのだ。再度魔法を込められたことにより霧は雲へと変化する。

「水風・クラウドバースト」

岩を粉砕するほどの激しい豪雨がバーンに集中的に降り注ぐ、というより噴き上げる。バーンの炎は徐々に弱まっていき、やがて人型に戻る。

「ば、ばかな。」

バーンの体には無数の水滴が付いていた。ヨウはそんなバーンに対し、水の魔法を使った弓矢を向ける。

「貴方の負けです。ここは、もう退きなさい。そして、この村に二度と手は出さないと約束してください」

ヨウは少し息を切らしながら警告する。いくら、鳳凰に傷を負わせた女と言えど限界はある。炎魔人を上回る威力を放ったのだ、ヨウの魔法量は半分を切っていた。

「いやだ。」

その言葉は、まるで子供の様だった。そんな姿を見たヨウは、溜息を付き矢を放とうとする。

「そうですか、ならば容赦はしません。水・アロー」

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