魔法使いの戦い⑥襲来バーン・イフリート

「はぁ極楽極楽。」

「ホント呑気ですわね、あなたわ。」

 ラミラとヨウは湯船で穏やかな時間を過ごしていた。風呂場の中は湯煙が充満していた。

 「そっちこそ。」

 ヨウは浴槽に肘を置き力を抜きもたれかかり、ラミラは浴槽に寄りかかり肘を置いていた。二人の口調と態度はとても穏やかだ。

「やっぱり、お風呂は力が抜けますぅ」

 魔法使いは風呂に弱い。訳では無い。人は絶えず安息を願うモノ。特に戦いばかりのこの世界ではこの様な穏やかな時間は貴重なのである。

「「ファ~」」

 二人は、ため息をつきながらこの貴重な時間を満喫していた。そんな時だった。突如として安息の時間が破られた。

 バゴォン

 何処かで、天井が落ちた音がした。長髪執事が最強戦力である二人のもとへ駆けつけとびらを開く。しかし、そこに二人の姿は無かった。

 「せっかく、貴重な時間を満喫していたのに。ホント邪魔ねあなた達。」

 「へぇ、村に帰ってたんだ。お邪魔虫」

天井を燃やし落としたのは、炎魔人の一人バーン・イフリートだった。その容姿は幼い少年の様だが、ボルノよりも数段上手である。鬣は炎で形成され肩に炎を露出させているのにも関わらず、あまり熱気を感じない。それ程までに魔法の制御能力が高いのである。

「強敵ね。」

「そうですわね。」

ラミラと、ヨウは身を寄せ合い小さな声で心中を吐露する。ここは、平和村の上空。激しい戦闘は避けたい。

「聞こえているぞ。」

炎魔人の探知手段は至ってシンプル。自身の熱気を周囲にぶつけ補足するというものだ。しかし、バーンからはその様な熱気は感じられない。

「正直、驚きましたわ。これ程魔法の扱いに長けている者がこの地に出向いてくるなんて。」

「怖気ついたか?だったら、素直にその村を受け渡し軍門に下れ、悪いようにはしない。」

「誰が。」

バーンの言葉で頭に血が上ったのか、ラミラは突進をかける。その時だった、村の端方で物音がした。

「ッ。」

ラミラは、急停止して音のした方を見る。村は燃えていた。その周囲にバーンの取り巻きらしき者達が複数見えた。そして、ラミラはたじろぐ。なぜなら、その全てが超人種の下位種だったからだ。数刻前に戦った炎魔人の取り巻きはただの火属性持ちだった。下位種を連れているということは、その中心に居る人物はそれほどまでに強いと言える。ラミラは、目の前の強者にもう一度視線を向ける。

「バーン・イフリート。噂には、聞いてましたが。それ程までに手練れということになりますわね。この男。」

そういいながら、ヨウはラミラに近づく。目の前の赤い炎を宿す炎魔人に気を取られていては、村を守れない。故にヨウは決断する。

「村は任せましたわ、ラミラ。」

「OK。こっちは任せた、ヨウ。」

そういい放つや否や、ラミラは燃え盛ってる場所へと急下降する。そして、ヨウ・スフキとバーン・イフリートが対峙する。

「果たして、俺の相手が、お前ひとりで務まるのかな。三属性」

「さぁ、それはどうでしょう、焚火男。水風・タイフーン」

戦いの火蓋が、切って落とされる。先に仕掛けたのは、ヨウだった。湿った暴風が辺りを席捲する。

「炎・ブラスト」

バーンはそれに対抗し抑えていた熱気を開放し周囲に拡散する。その熱気は席捲している、ヨウの風を吹き飛ばそうとしていた。

「おや、おや、その程度ですか。」

バーンの炎は約2千℃に達する。それ程の炎が烈風として、放射されている。それなのに関わらず、ヨウの表情からは余裕が見て取れた。

「あ?その余裕づら、さっさと引っぺがしてやるよ。」

「貴方に、それが出来るといいですけどね。」

まだ周囲には、ヨウの残した風が霧となり残っていた。そのことをまだ、バーンは気づいていない。


時を同じく、ラミラは取り巻き立ちの元に辿り着いていた。

「ねぇ、あなた達ここで何してるのかしら。」

その言葉にはとげがあり、皮肉の混じった笑顔を浮かべていた。

「見て、分からないのかよ。この村を手に入れる為、まずは力を示すために燃やしているんだよ。」

取り巻き立ちは、ラミラに挑発し返す。ラミラの笑顔には徐々に怒りが露わになっていた。

「そう、だったら。私も力を示さないとね。」

「立った一人でこの人数の下級者相手に・・・。」

取り巻き達の余裕のある表情が徐々に変化していく。辺りに暴風が吹き荒れる。

「風・ハリケーン」

その風は、村の火をかき消しながら、バーンの取り巻き達を囲む。取り巻き達は応戦する為一斉に魔法を繰り出す。

「「「「「火・ブラスト」」」」

その火は合わさり爆発する、その火力はボルノ・イフリートが繰り出した烈風と同等のものになっていた。

ラミラは、ほくそ笑む。ボルノと対戦した時は寝不足だった。だが今は仮眠を取りふろにも浸かった為。万全とは言わないまでも体力は回復していた。とはいえ魔法量は回復していない。

では、どうするか。答えは簡単だ。ステゴロ一択。超人種とは言えど下級者は未だ人の身である。たしかに、体温は常人より遥かに高いが、ラミラにとってはそれほど問題視するようなものではなかった。

暴風は、炎によってかき消されながらもラミラは、攻撃の手を休めない。取り巻きは全部で10人程、それを相手にラミラは殴る蹴るを繰り返す。途中、火の放出魔法を喰らうことがあったが、そんなのお構いなしだ。

そして、取り巻き達はある異変に気が付く。自身の魔法等の火力が弱まっているのだ。

「どういう、事だ?まだ大して魔法を使ってない、はずなのに。魔法が、、弱まっている。」

ラミラは、不敵にほほ笑む。

「ようやく気がついたのね。」

魔法使いは、火属性持ちなら火から等その属性に準ずるモノから魔法を奪取できる。

「火・アブソープ」

本来、魔法使いは魔法使いから奪取するのは難しく、やるとしても放出された魔法を奪取するぐらいだがこれも難しい。なぜなら、魔法はそれを繰り出す魔法使いの支配下にある。あえて言い換えるなら、魔法は魔法使いによってコーディングされている状態にあると謂う事だ。そして、体外に出た魔法はそのコーディングが失われ霧散する。通常、霧散した魔法は奪取できず残っていたとしてもコーディングがある限りその支配力を上回る事が出来なかったら奪取できない。つまり、魔法は魔法使いに守られているのである。

「私はね。盗むのが大の得意なの。」

「でたらめな。」

ラミラは、そんな守られている魔法を我が手に収めるのが得意だった。とは言え触れずに奪取するのは難しいその為のステゴロ。これを選択した理由はもう一つある。下位種の魔法支配力はかなり高く、並の魔法使いなら奪取なんて不可能だ。いくら得意といえど一度或いは、数秒触れただけでは何の足しにもならない。だから、ラミラは殴る蹴るをひたすらに繰り返していた。そう、これをした目的は、打撃によるダメージを与える為ではない。自身の魔法量を回復する為、ほんの僅かな奪取を繰り返していたのである。

「これは、ほんのお礼。火・ブラスト」

その魔法は爆発し、取り巻き達を一掃。上空から見る村の一部に大きな穴が開いた。

「口ほどにもないわね」

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