魔法使いの戦い⑤炎舞

「ほぉ、ボルノが敗れたか。」

「そのようです。」

 自身の体から赤い炎を発し続けている鳥がそこには、いる。ここは、燃え盛る炎の町・炎舞。火の単属性、最上位種・鳳凰の支配領域である。

「それで相手は?」

「現在、逃走中です。」

鳳凰の側近、フレイム・イフリートは偵察奴隷の報告を受け、主であるブレイズ・フェニックスに報告する。

「逃走中?」

その鳳凰の言葉は、静かに怒りが込められていた。それを感じ取った側近は周りの奴隷や兵士たちが独特の緊張感にまみえて委縮する。

「はい…。」

何とか側近は、か細い声で言葉を振り絞る。その返事に鳳凰の怒りが沸点に達する。

「ただ敗れただけでなく、退却の余地迄与えたのか!!」

その声は、ただの怒号と言う域に収まらず、周囲の空気が共振し周辺温度が一瞬1万度℃に達する。

炎舞の平均気温は約1千℃。これは、火属性を有する魔法使いにとっては適温と呼べる範疇あるいは少し熱いなと感じる温度である。そして、炎舞の中心地、鳳凰の根城・燃え盛る炎の洞穴(ラバニックスケイブ)。ここの平均気温は5千度。これは、最上位種の加護を受けていない炎の下位種が熱中症になるか最悪死に至るレベルの気温である。

鳳凰と炎魔人以外の者達が一斉に気を失う。最上位種の加護はある程度の環境異常無効を付与されているため、奴隷を含め現時点では死者は出ていない。しかし、早急に適切な処置を取らねば死に至ってしまう。奴隷であっても貴重な労働力で有る為失う訳には行かない。

「鳳凰様。お気を確かに。炎魔人と敵対したラミラの他にヨウと思わしき人物もいたと、報告が上がっています。」

鳳凰から発せられた熱気に押され焦りつつも、フレイムは必死に言葉を紡ぐ。側近の言葉に主は冷静さを取り戻し熱波を収め長老のような人型になる。

「なるほどのぉ。あやつもしぶといのぉ。それに、四属性持ちの小娘。中々、力をつけているようじゃ。」

「そのようです。」

あの二人と対面したことがあるのかと、フレイムは少し疑問に思いながらもその、会話は淡々と行われていた。

「で、きゃつらの逃げた先は?」

「平和村だと思われます。」

主は、長くはやした炎の髭を絞りながら思考を巡らす。平和村には多くの若者や複属性もちが居ることで有名である。主は再び鳥の姿へと戻る。

「バーンはどうした?」

「奴は、兼ねてからの作戦の通り、複数の下位種を連れて平和村へと進行中です。」

「そうか、で、ボルノは今どうしている。」

あれほどに、怒りを露わにしたものに対し心配するかのような口調で名を出すのかと、少し驚きつつもフレイムは状況を報告する。

「ボルノもまた。再度挑むべく平和村に向かっているようです。」

 その言葉に鳳凰は不敵な笑みを浮かべ、自身の胸元の羽数枚を抜き取り球状に束ねる。そしてまた長老の姿に戻り、球をフレイムに差し出す。

「フレイム、お主も平和村へと出向き道中ボルノと合流しバーンの加勢には入れ。後この球は、ボルノへと受け渡すのじゃ。」

 フレイムはやや驚きの態度を示す。球の意味は理解できる。魔力を使い果たしたボルノへの回復薬代わりにするのだろう。

「上位種、三人がかりで、ですか。下位種の兵士もいるのですよ。敗れたとはいえ、ボルノは最近上位種になったばかりの新参者ですよ。」

 たどたどしくも、フレイムは自身の心中を主に吐露する。そんな、側近の言葉は主の怒りの起因となるものだった。しかし、先ほどの様に怒りを面に出すことは無かった。どおやら、長老の姿だと、自身の感情の起伏を抑える事ができるらしい。

「お主、あ奴らを舐めてはいかんぞ。四属性の小娘もだが、真に厄介なのは一緒に居るあの女じゃ。」

「あの三属性持ちですか?」

 たいていの場合、魔法使いの力関係は次の通りになる。単属性≦二属性≦下位種≦三属性≦上位種≦四属性≦最上位種≺神。無論、所持している属性により多少の変動はある。そんなことは理解している。だが、三属性と最上位種の間には分厚い壁がある。

「きゃつを、侮ってはいかんぞ。きゃつの魔法の練度は凄まじい。儂も鳳凰になりたての頃対峙した事があるが、一傷負わされまんまと逃げられたわい。」

「それほどの強者なのですか?」

鳳凰と対峙して生き延びれる者が三属性に居るなどにわかには信じがたい。それに、絶えず鳳(ほのお)に守られてる魂に傷をつけるなんて。

「まぁ、一傷つけられたと言っても擦り傷程度じゃがな。直ぐに直したわい。」

その口調は、何故か強がっているようにも聞こえた。フレイムはそんな強敵と相対する事ができるのかと、高揚していた。

〈感情が表に出るのは、フレイムの悪い癖じゃ。それはそうと、わしも出向きたいが。この地を守らないかんしのう。〉

「任せたぞ、フレイム・イフリート。平和村を手中に収めよ。」

長い炎のひげの長老は、火の球を片手に持った炎の長髪を七三分けに降ろした青年に命令を下す。

「御意。」

 迫りくる、使者に気付かないラミラとヨウは、呑気に湯船につかっていた。

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