魔法使いの戦い④ 平和村

「あ、ラミラお姉ちゃんだ。」

茶色髪を二つに束ねた幼女がラミラの方に駆け寄ってくる。それに続いて10人程の子供たちも駆け寄ってくる。

「久しぶりね、ミカ。それに皆も。」

ラミラは心無しか気まずいという態度を取りつつも、微笑みながら子供たちを受け留める。ミカと呼ばれた幼女とその他の子供達もまたラミラの帰還を笑顔で迎える。ここ平和村の子供達の殆どが戦争孤児であり争いや捕獲者から逃げ延びた者或いはヨウたちに救われた者達である。

村の中心地の外れ・居住地帯。ここで村人たちは生活を共にしている。村全体の大きさは約30㎢。その殆どが迷路上のジャングル地帯である。その内、居住地帯の面積は約1㎢程。居住地帯の環境は調整されており、ある種の保育園や学校などの役割を担う施設や住居などが完備され、村人達が協力して魔法を使い食料や水などの資源を生産・調達・貯蔵をしている。因みにジャングル地帯にあった部屋のようなふくらみの殆どは罠のような働きをし侵入したものは原則外に出れない仕掛けになっている。

「帰って来たのか、ラミラ。お前、村を捨てたんじゃ無かったのか。」

褐色肌で肌に無数の切り傷がある青年が、腕を組みラミラを睨みつける。男に対しラミラは刺すような視線を向けからかうような態度をとる。

「別に?第一私が村を裏切る気なら、ヨウは私について来ない。そんなこともわからないのかしら?」

 男は何も言い返さなかった。だが腑に落ちてもいない。ラミラが村を出て約一年が経過している。村の最強戦力二人が突如として何処かへ行ってしまったのだ。裏切った訳ではないにしろ納得はできない。

「それより、汗びっしょりだし、お風呂でも入りたいわね。風呂場の位置変わってないわよね。」

部屋のような膨らみのごく一部は食糧庫や風呂場など生活関係施設のような働きをしている。

「それがですね、ラミラ様。色々ありまして。部屋の位置を少しずらしております。」

突如として黒い長髪で前髪の分け目に碧色のワンポイントメッシュがある長髪の執事のような佇まいの女性が現れた。彼女の言葉に対しヨウは怪訝な表情を見せる。

「色々とは、なんですか?」

「えーと、それが・・・。」

女性は、言いずらそうに目を逸らし左肘を右手で握り締める。ヨウはさらに回りを見渡す。すると、村の住人全ての人が暗い表情をしてるのが見て取れた。

「何か、不吉なことがあったようですわね。一旦はそれでいいです。お風呂から上がりましたら、話を聞きます。それまでに、まとめておいてください。それと、キイラ。風呂場まで案内して。」

 執事のような佇まいの女性、キイラ・フキはヨウとラミラに風呂場の位置を案内する。風呂場は居住地帯の間隣りの部屋に移されていた。部屋の中は緑一色。全て木属性の魔法で生成された蔦で構成され、中には水属性の魔法で生成された水を火属性の魔法で暖められたお湯が張ってあった。

「案内ありがとう。」

「では、ごゆっくり。」

キイラは、風呂場を後にし、ヨウとラミラは風呂場の中に入りヨウが入場口を閉じる。そして、ラミラはシャワーの形をした蔦に魔法を流し、お湯を出す。立ってシャワーで汗を流すラミラをヨウは座り横目で見ながら村人たちの態度を思い返す。

「ラミラは、どう思いますか?村人たちの態度。」

「別に、普通じゃない?まぁ、何かあったようだけど、直ぐに言ってこなかったし別に平気でしょ。」

 ヨウは静かな口調で問いかけた。それに対してラミラは呑気な口調で返す。碧髪の少女はそんな金髪少女の態度が許せなかったのか、何か起こった事に対して何もできなかった自分への腹立たしさをぶつけるかのように立ち上がる。そのままの勢いで汗を流している少女を振り向かせ壁に押し付け怒号を浴びせる。

「なんであなたは、いつもそんなに呑気なんですか?今も尚、どこかで、苦しい思いをしている人たちだっているのです。村の人たちだって…。」

「はぁ?誰が、呑気だって?」

「呑気でしょうが!いつも自分意思だけ、周りの事を考えず突っ走って迷惑かける。」

「誰が自分勝っ」

「違うとは言わせません。先ほどの、炎魔人戦だってそう。自分の力を過信して体力も魔法量も心許ない中突進をかけ、勝てたのはいいですけど直ぐに魔法切れを起こし倒れる始末。私が救出しなかったら、今頃どうなっていたか。」

「別にそれは、」

「それに、無事に勝てたとしても、あの一戦の影響で最上位種の鳳凰(フェニックス)が攻めてきたら、どうするんですの。あんなのが来たら、私たちではどうにもなりませんわ。」

ラミラの言葉はまさに火に油を注ぐような返しだった。それほどに鳳凰は厄介な存在である。

そもそも、異能者の寿命というものは普通の人間よりかは複雑なものとなっている。普通、人間は生命力が尽きると心肺停止状態になって寿命が尽きる。しかし、異能者は自らの異能で心肺を動かす事ができる。つまり、生命力が尽きても異能量さえあれば死ぬことは無い。さらに卓越した異能者はそれに準ずるモノからも、力を奪取することが可能である。

鳳凰を含む最上位種は皆力の奪取に物凄く長けている。ある程度の技術を有する火属性を持つ魔法使いならば、火や炎から力の奪取が可能である。だが、大抵の場合調理に使うぐらいの大きさの火では余り魔法量の足しには成らない。キャンプファイヤーレベルの火を枯らすことでようやく魔法量が回復する程度である。しかし、鳳凰は線香花火で飛び散る火花一粒程の炎で寿命が尽きた状態から体力の全快を果たすほどの効率で火を浴びれば浴びる程強力にもなる。

現最上位種の面々は力を誇示する事はあっても、争いの場に出ることは滅多にない。彼らは異能者だけのこの世界で、物凄い数の戦闘や訓練をこなし自身の異能を鍛え上げ超人種の下位種となった。それに飽きず更に鍛え上げ自身の身を捨て自身の身と魔法属性を混ざり合わせる事により上位種となった。さらに、自身の魔法を神同様に信仰し他者からも信仰を経て自身の魔法属性で姿を形作り最上位種となった。だが、最上位種が本気で争えばこの世界は崩壊するとされ自身の支配領域の発展の具合で今は争っている。

「いいですか?炎魔人は、上位種。ですが、上位種と最上位種の間には天と地ほどの差がある。それは、あなただって、分かってるでしょ。」

「ええ、分かってるわ。でも、舐められたらそこで終わり。上位種程度に後れを取ったら何の抑止力にもならない。それに」

ヨウの激しい口調に、ラミラは体を押されつつも鋭い視線を向け言葉を放つ。それにヨウはほんの少しだけ、押す力を弱める。

「それに?」

「それに、じゃあ、何故ここに連れてきたの?」

「それは…」

 形成が逆転する。ヨウの言葉に先ほどまでの迫力がない。ラミラの視線はさらに鋭さを増す。

 「巻き込む可能性がある。村を守りたいって思うならここに来るべきじゃなかった。巻き込みたくなかったから、私はこの村を出た。それは、ヨウだって知ってるでしょう。」

 四属性。数多の魔法使いのうち神の次に希少な存在。しかし、その力は最上位種に劣る。多くの属性を持つということはできる事の幅が広いと言う事。支配領域を発展させたい者達にとってはぜひ手に入れたい存在なのである。

とある事件までラミラは水の魔法を使える事を隠していた。しかし、事件以降ラミラが四属性持ちであることがバレ、村に被害が出ないように村に何も告げず出ていったのである。

 ヨウはラミラの言葉を理解していた。数多くの敵から狙われるであろうラミラを守りたい。そんな思いでヨウは村から飛び出てラミラと行動を共にしていた。

 「でも、いいわ。助けられたのは事実だし、新たに拠点を作るにしても魔法量が無駄になる。だから、ここに居るのは正解。多少の攻撃の妨げにもなるしね。」

 「そうね。」

ヨウは、小さく相槌をする。ラミラは、そんなヨウを横目で見つつシャワーを浴び続ける。

 「所で、ラミラ?」

今度のヨウの口調は冷静ながらも皮肉の混じったモノだった。そんな、碧髪少女の言葉に対して金髪少女は、とぼけた口調で返す。

「なに?」

「いつまで、シャワー浴びてるつもりですの?いい加減変わってくださいな。」

「ちょっと、まってまだ途中…」

 喧嘩して激しい意見の衝突をすることが有っても、互いを信頼しているパートナのような関係性を持つ二人の黄色い声が風呂場に響き渡る。

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