魔法使いの戦い② 二人の出会い
外から、何やら激しい物音が聞こえる。誰かに助けを求めようとしても金髪の少女の周りには誰の気配も感じられない。暗い部屋でただ一人、幼い金髪の少女は震えていた。そんな時、正面の壁が魔法で吹き飛ばされる。そこに女性のシルエットが浮かぶ。
「ねぇ、あなたの名前は?」
女性は歩み寄り、そう、金髪の少女に話しかける。その女性の髪は碧く透き透っていた。金髪の少女は戸惑い怯えながらも、彼女の問い答える。
「フ―キカ。」
少女の声はとてもか細く、ぎりぎり聞き取れる位の声量と震え具合だった。
「それは、属性名でしょ。そうじゃなくて、あなた自身の名前を聞いてるのですのよ。」
碧い髪の少女の口調がやや強まる。そんな口調や表情に押されたのか、金髪少女の震えが強くなる。
「大丈夫、私はあなたの敵じゃない。」
碧く透明なベールに包まれた少女からは、悪意は感じられない。でも、いやだからこそ、少女は余計に戸惑っていた。少女の震えや恐怖は悪意にさらされた時のそれでは無かった。むしろその逆、見放される
かもしれないという恐怖だった。彼女にはまだ、名前が無かったのだ。そもそも、属性名の他に名前が存在するのは何となく聞き覚えがあるだけで、偉い人たちに許される特別なものだと思っていたからだ。
「ら‥まヒィッ‥らぃ。」
名前はない。彼女はそう言ったつもりだった。しかし、体の震えや涙や鼻水の影響で思った様に発音できなかった。そんな中言葉を放った為かそこにしゃっくりも混ざった。そんな彼女の言葉に碧い髪の少女は困惑の表情を見せる。そんな彼女の表情を見て金髪幼女はさらに怯え縮こまる。見放されてしまうのではないか。怒らせてしまったのではないだろうか。そんな思いが幼女の心を埋め尽くす。
〈うぅ、まぁ縮こまるのも当然ですかねぇ。とは言え・・・名前は聞けましたし(たぶん)、次に進みましょうか〉
碧い髪の少女は縮こまる金髪幼女に頭悩ませつつも、表情を切り替え明るく言葉を投げる。
「行きましょ、ラミラ。外へ、自由が待ってますよ。」
突如、部屋の中に心地よい風が吹き光が壁の穴の中から差し込んできた気がした。ラミラと呼ばれた少女の中から、不安等の負の感情が晴れていく。そんな心情と名付けられた嬉しさから表情が明るくなり元気よく頷いた。
「うん!」
そんな表情と言葉を受け取った女は彼女の思いと裏腹に、あっちゃんと聞き取れてたと胸を撫で下ろす。
―これが、碧い髪の少女、ヨウ・スフキと金髪幼女、ラミラ・フーキカの最初の出会いである。
そして現在、ラミラは飛行するヨウの背中で心地よさそうに寝ていた。
「うう。」
「あら、ラミラ起きましたか?」
ラミラは呻き声を零しながら、徐々に目を開けていく。目を開けながら意識が鮮明になる。鼻の先から安心させられるような匂いがする。
「いい匂い。」
そっとラミラは心中を吐露する。あの時、商人に拉致られそうになった時もヨウが助けに来て背負ってくれた時もこの匂いに救われた。そんな声を聞いたヨウは、飛行を停止する。
「起きたなら、降りてくださいな。」
「えー魔法切れで、動けないよ。」
幼いころの夢を見たせいか、ラミラは無性に甘えたい気分になっていた。そんな金髪少女の思いが通じたのか、ヨウはそっとため息をついた。
「目的地に着くまでですよ。」
「やった。」
ラミラは、まるで幼い子供の様に笑顔で微笑む。ヨウからは少女の顔は見えないが彼女の微笑んでいる様子が脳裏に浮かんだ。
「目的地に着いたら、お説教ですよ。」
「えー。」
お説教という割にはその口調は優しく、ラミラの返しにも笑顔が混じっていた。過酷な世界の中でひと時の優しい時間が流れる。
「まったく。」
そう、ぼそっと呟きながらヨウは再び進行を始める。速くもなく遅くもないスピードで。心地よい風がラミラのそばを流れてゆく。
「そういえば、目的地ってどこに向かっているの?」
心地よい風にあたりながら、幼さが残った金髪の少女は甘い口調で、碧い髪の少女に問う。
「平和村ですわ。」
「ふーん。」
平和村。元々この世界は、地面と天に障壁があるだけの世界だったとされている。そこに五属性全てを操る者、即ち神がこの世界に魔法使いを収容した。というのがここ空の界の伝説である。魔法使いたちは何もないこの世界で生き残るため、自身の魔法を極めていった。この世界に生えている木々や食物、川や雲などそういったものは全て魔法によって作られたものだ。しかし、魔法の定着には魔法量が必要となる。定着してない魔法は効果をなした後、直ぐに消える。この世界では、弱き者は奴隷として扱われそのまま死に至るのが自然の摂理とされてきた。それに異を唱えたのがヨウである。弱き者を守るために作った村それが平和村である。
「着きましたわ。」
ラミラはヨウの顔の横から、前を覗く。そこには、無数の木や葉が絡み合いドーム状になっているまるでジャングルみたいな村があった。
「そう、ありがと。」
その口調から幼さは完全に消え代わりに冷徹さを感じられるものへと変わっていた。呟いたのち、ラミラはヨウの背から離れる。
二人は、緩やかに着地をし平和村の入り口の前へ立つ。入口の上には、平和村と書かれた看板があった。
村の扉には魔法探知機がある。とは言っても正確には魔法を使って順に蔦や枝葉などの絡まりを解くことによって解除される鍵のようなものが備わっているだけだ。
「アンロック」
ヨウは魔法探知機に手を触れ開錠すると、入場口代わりの穴開く。二人は、村の中にはいる。入った瞬間に自動的に穴は塞がる。村の中には緑に生い茂る太い蔦のようなものが部屋をなしていた。
「相変わらず、ここは蒸し暑いわね。」
「しょうがありません。あなたも戦闘中に言った通り湿った木は燃えにくい弱点を補うにはこれが最善ですのよ。そしてこの熱風も身を守るためには重要なんですよ」
二人は村の中に進んでいく。蔦の隙間や周囲には花も咲いており、小川も流れている。更に村の中には熱風が循環し高温を保っている。この村はジャングルのような迷路のようなものになっており迷ってしまえばこの高温の中で一生を過ごすことになる。因みに周囲に流れている小川は熱湯になっている。二人は迷路に迷わない様に又、トラップにかからない様に慎重に歩き進めていく。そして、光が零れる一際明るく広い部屋へとたどり着く。
ヨウは部屋の外壁をなす蔦に手を当て入場口と同じ要領で開錠し中へと入る。その中は火の光に照らされて心地の良い風が吹いていた。
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