第二章 魔法使いの戦い

魔法使いの戦い①ラミラ・フーキカ

碧い髪の少女は夢から覚め目を開く。きっかけは外の物音であった。この世界のいたるところで魔法が行使され、昼夜問わず争いが続いている。久方ぶりに夢見たあの時代よりかはマシかもしれないが、弱肉強食であることは変わらない。

「おはよう、ヨウ。よく眠れたようね。」

彼女の、寝ていた隣には金髪の少女がいた。彼女の髪は肩にかかるほど長くその表面は絶え間ない戦いの中痛んでいた。

「おはよう、ラミラ。ええ、おかげさまで。」

ラミラとヨウは魔法で作った木の家を拠点にして暮らしていた。とは言っても、太い木の中に居住スペースを切り抜いてそれを隠すように、表面をドアの様に埋め直しただけだが。

「でも、少しうなされてたけど、夢でも見てたのかしら?」

「ええ、久しぶりに。でも、そんなに悪い夢ではなかったわ。」

ヨウは、夢で見た少年の事を思い返す。その少年は死の間際に役割と命をくれたのだ。

〈君の生み出した世界を見守っていけ。か。確かに収の言う通りですね。〉

ヨウは思わず微笑んでいた。彼女の瞳も碧い。その瞳も。微笑んでいるヨウを視界の片隅に置きながら、ラミラは家の外にあらかじめ巻いていた風の魔法に意識を寄せる。

「それは、良かったわね。でも現実は地獄その物よ。」

「確かに、そうですわね。でも、この程度の地獄、私たちにかかれば造作もないですわ。」

ヨウは、立ち上がりラミラと並ぶ。その表情は覚悟そのものだ。ヨウは自身の魔法を木々の隙間から大気やラミラの魔法に乗せ相手の気配を探る。

「敵の数は、100人程かしら。」

「うーん、もう少しいるようですよ。」

ラミラはやや息を切らしている様子だ。それに加え彼女は、ヨウにとっては未熟な魔法使いである。気配探知においてもヨウの技術の方が高い。

「細かいところはいいの、厄介なのは超人種達ね」

超人種。それは魔法による進化を遂げた者達の事である。そもそも魔法は基本、水火木土風の五つの属性に分類される。属性を一つしか持たない者を単属性持ち、複数持つのを複属性持ちと分類する。複属性持ちの利点は手数が多いことにある。各属性にはそれぞれ優劣が存在する。複属性持ちはそれを補うことが可能になる。

「そうですわね。常人が使う魔法とは威力が桁違い。それに・・・」

ラミラとヨウは冷や汗を掻きながら、会話していた。そんな中もの凄い熱が押しよせ木を溶かす。ラミラとヨウは間一髪の所で上空へと難を逃れた。

ラミラとヨウは複属性もちである。複属性持ちは自身の持つ異能量を配分する為、手数が多い代わりに各属性に避ける異能量が限られる。その点、単属性は無駄な配分を考えなくて済む。

「炎魔人(イフリート)。相変わらずでたらめな炎ね。」

「ホントでたらめですわ、木は普通溶けるのではなく燃えるのですよ。」

炎魔人。超人種の一種である。単属性持ちは複属性より一属性に割ける異能量が多いとしても属性の優劣を覆すのは難しい。そんな中、一族性を異常なまでに鍛え上げ人の形を捨て属性の優劣さえも覆した者。それが、超人種である。

「へっ、消し炭にでもなったか」

炎魔人の取り巻の一人が溶け切った木を見て、そこにいた筈の人たちをあざ笑う。

「相変わらず、気配探知はザルなようですわね。ここは、いったん退きましょ・・・ラミラ?」

ヨウの提案を聞く前に、ラミラは赤く燃える炎魔人に攻めようと急降下しながら攻撃態勢に入っていた。

「誰が、こんな炎で消し炭になったですって?冗談じゃないわ!」

ラミラの頭には完全に血が上っていた。急降下しながら自身の手に異能を込める。ヨウはラミラを制止するために下降する。

「ラミラ、冷静になりなさい。ここは、一時退却し・・・。」

「風水・ハリケーンスプラッシュ」

全く制止を促すヨウの言葉が目に入らないまま、ラミラは魔法を繰り出す。辺り一面が魔法で作られた水分量が多い竜巻風に包み込まれる。

「火を消す方法なんて、水以外にあるのよ。」

魔法属性には優劣がある。水は火に強く、火は木に強く、木は土に強く、土は風に強く、風は水に強いという感じだ。では、火と土、土と水などについては、どうなるのか。基本これに関しての優劣はない。魔法によって起こされる事象はその魔法を使う者のイメージによって委ねられる。

「そうだな、だが風は火を拡大させるにも使うのだ。炎・ブレス」

ラミラの出した魔法が熱風にかわり霧散する。ラミラのイメージ力と赤く燃える炎魔人のイメージ力が拮抗したのである。

 ラミラは、霧散した魔法から現れるかのように着地する。辺り一面が炎魔人の魔法の影響で高温に包まれている。

「なかなかやるわね。」

ラミラの体は、汗でびしゃびしゃになっていた。息も切れ、顔も火照っている。

ラミラはそういいながら、手のひらに力を籠めイメージする。

「水木・ランス」

水と木の魔法に自身のイメージを乗せ、槍を形作る。そんな、ラミラの様子を見て、炎魔人は嘲笑う。

「おいおい、冗談はやめてくれよ。水はまだいいとして、木属性の魔法を使うとは、馬鹿じゃないのか?」

炎魔人の煽りにラミラは不敵に微笑む。そしてラミラは重心を一瞬下に落とし、自身に風の魔法でバフをかけ、スピードを増し疾風の如く突進をかける。炎魔人はすぐさま、ラミラの動きを目で追うのをやめ、体内から体外へ灼熱の熱風を咆哮しながら吹き荒らす。その熱風は優に100度を超える。その熱風に押され、ラミラの動きが一瞬止まる。その隙を炎魔人の視野が捕らえる。赤く燃える炎魔人は足が爆発するほどに魔法を集中させ、爆発的な加速を経て猛突する。

「炎・ボム」

炎魔人の拳をラミラが、槍で受け止める。直後、その打撃は爆弾が弾けるかのように爆発。爆発後ラミラの姿は、霧散したのかその姿はどこにもない。

「おお、さすが炎魔人。跡形もなく厄介者を消しやがった。」

炎魔人の取り巻きは歓喜の渦に包まれていた。ヨウとラミラはギルドの食料を盗むという厄介者として扱われていた。

「・・・。」

炎魔人は、己の拳を見つめている。あれほどの者が、あの一撃で霧散するわけもない。それにその手答えには違和感があった。

「誰が、跡形もなく消えたですって?」

歓声の中から突如としてラミラの声が聞こえる。その声と歓声が止むのと同じタイミングで、取り巻きと炎魔人は周囲が霧に覆われていることに気が付く。ラミラは周囲の風に紛れ姿を隠していた。機を見計らい彼女は自身と周囲の風に水分を付与し霧を発生させた。

「というか、湿った木は燃えにくいのが常識よ。」

水が槍状に保たれるというイメージを持つのは割と困難である。炎魔人の攻撃をもろに喰らっては、一たまりがないと察したラミラはそれを受ける為の槍を木の魔法を使いイメージを固めその上に水を纏わらせていたのである。

「ふん、だからどうした?」

炎魔人は霧に囲われながらも、煽るように問い返す。そして、再びの咆哮。その霧を晴らすかのように熱風をまき散らす。その霧から水分が消える。

「あなた、確か言ってたわよね、風は火を拡大させるものだって、私もそう思うわ、けどね火を強めるのはもう一つあると思わない?」

ラミラの声が、聞こえ切った後突如として周囲を包んでた風が一点に集まり始め輝きを放つ。それは、金髪の魔法使いの拳から具現化された猛火の種。

「火木風・ストーム」

複属性持ちの魔法使いは、無意識のうちに一属性に使う異能の量を決めている。その結果一つの魔法属性が異能切れで使えなくなっても他の属性で戦うことができる。但しその反動で単属性持ちの魔法と比べて威力が出しにくくなる。それこそ超人種なら尚更火力不足に陥りやすい。

 では、複属性の魔法技を行使するとどうなるか。

「俺様相手に、炎火力勝負か面白い!炎・ボルケイノ」

「「ボム」」

お互いの魔法により具現化した猛火の渦が衝突する。その渦を起点に辺り一面を焼き尽くす程の熱風が暴れまわる。しかし、この技はこれに留まらない。拳が衝突するのと同じタイミングで拳に纏った魔法技が爆発し熱風がより破壊力を増す烈風へと変わる。

 取り巻き達の視界がホワイトアウトすると同時に吹き飛ばされる。技のぶつかり合いで生じた衝撃はが地面や大気を焦がすかのように響き渡る。

 複属性の魔法技を行使するとどうなるか。その技のイメージが確固たるモノへと増強され、物凄い威力を発揮する場合もある。

 取り巻きの視界が回復する。衝撃の中心地だと思われる場所には、長い金髪の魔法使いの少女が立っており、その正面には取り巻きのリーダー、ボルノ・イフリートが自身を包んでいた赤く燃えていた炎を消し焦げたからだが露わになり、膝をついている様子が映っていた。

「これが、四属性持ちの力・・・」

この世界の住人は全員魔法を操る。その内の約半分が複属性持ち。複属性持ちの大半が二属性であり三属性持ちは稀有な存在である。四属性持ちは絶滅危惧種よりも貴重な存在で、ラミラの存在を知らない者の多くは存在しないただの噂話だととすら思っている。

 少女は、こちらを見ている取り巻きの一人を見つけ睨みつける。その様子を見てた取り巻きは再び気絶。突如として吹き荒れた風に少女は包まれ姿を消した。

―ラミラ・フーキカ。全属性を操る伝説の存在・神に最も近い存在として名の高い少女の名である。

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