世界創造物語4ー④ 幼き少女の願い
空へと吹き飛ばされていた収は間一髪のところで、暴発した異能を回避していた。
「くそ。生きてるのはまだいいけど。このまま落下したら、まじで死ぬな。それと、葉もなんとかしねぇと。」
収は上空2000m近くまで飛ばされていた。それに加え、暴発した異能が吹き上げてきたのだ、生きているのが奇跡である。
「とはいえ、異能量もあと僅か。どうしたもんか。・・・うん?」
収は柱状になった葉の口から放たれた異能から、彼女の声らしきものが聞こえた。
「収。最後の頼みがあります。今、私の異能は重ねる為の世界を構築しています。そこで、異能を扱う者達と、そうでない者達を分けたいのです。お願いします。」
収は落下しながら、葉の言葉を聞き取る。その表情は一瞬苦痛に満ちていた。
「最後とかいうな。それに、強力な異能を収束させようとしたせいで、あまり異能量が残ってないんだ。」
少年は、諦めるなという思いを少女にぶつけつつ。何もできない自分の無力感に苛まれながら彼女に向け、叫ぶ。突如として、そんな少年の背中を押すように葉が吹き荒れ収を異能の柱へと近づける。
「収。大好きです。」
収と葉。二人が出会ってから、日は浅い。しかし、葉にとって収は恩人とも言える存在だ。世界の動乱から身を遠ざけられた代償として孤独を味わうこととなった日々。そんな孤独から開放したのが収だった。外に出て幼い少女は世界の絶望を目の当たりにする。しかし、そこでの出会いの中に人のぬくもりを知った。そのすべてのきっかけとなったのが収だった。
「―ツ」
そんな少女の思いを受け留めた少年は異能の柱に手をやり吸収する。
「葉。俺も好きだぜ。お前の事。」
柱から、少女の笑い声がした気がした。少年の表情は覚悟が決まったのか、すごく晴れた表情をしていた。
「異能者。収容」
創られようとされていた、世界の中に収は自身の力で異能者を収容しようとする。
そんな風景を、シンとルナは見ていた。ルナはこの先を見届けようと決意の眼差しで、シンはこんな結末を導いた者への憎悪の眼差しで。
「お姉様。お兄様。二人にも頼みが有ります。見ての通りこの世界は層の様になり分断されます。そして上空の世界には異能者を住まわせ地上の世界には、そうでないものを住まわせます。しかし、そうなると地上に住むもの達は自然の恩恵を受けることが難しくなります。ですので、なんとかしてください。それと、宇宙から侵略しようとして来ようとするであろう方々も。」
異能の柱から聞こえた少女の声は、途絶えそうな意識の中で必死に振り絞って紡がれた声だった。そんな妹の声をきき姉は微笑む。
「何とかって、まだまだ語彙が幼いですね。まぁ、姉として妹の願いを聞くのは当然の事ですね。そうは思いませんかシン」
ルナの声は涙に震えていた。目の前にいたはずの妹の体はもうない。彼女の魂も消えかかっている。
「ふん。」
シンは座り込みただ、泣いていた。世界が分断されようとこの二人はそんな世界を行き来できる。異能の柱が消えるまで、二人は泣き続けた。
異能の柱が消える直前、収の魂もすり減っていた。膨大な異能をその身で受け行使したからである。
「葉。君の魂はこの世界にも置いていくべきだ。そして、君の生み出した世界を見守っていけ。収束三点。」
収は自身の放った異能の点の行き先を見届ける事無く、力尽きた。その点は奇しくもとある共通点を持つ女性のもとに宿命的に宿り、その点は葉の魂を引き付けた。その宿主の一人、エリファは腹をさすりながらこう呟く。
「まだ、膜は破いてないのですけど」
―異能の柱は、消滅。葉の意識は完全に消え、世界は分断された。
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