世界創造物語4ー② 無力な神の子

アースの根城には彼女の娘と息子がいた。その城の明かりは消され月夜が城の中を照らしている。

「酷い。」

 アースの娘。主として光の魔法と斥力の理力と空間支配の神術を受け継いだ少女は窓から動乱の光景を見つめていた。何かを祈るように組んだ少女の手は震えていた。

「余り外を見るな。見てても何も変わりはしない。」

主として、闇の魔法と引力の理力と時間支配の神術を受け継いだ少年は無慈悲に事実を伝える。

「だからと言って、これを見て見ぬふりはできないわ。」

少女は振り向きざまに涙を飛ばしながら、悲しみと怒りを訴えるかのように少年に言い放つ。

「もとはと言えば、こうなったのは全部私たちのせいじゃないですか」

少女は涙を流し、悲痛を叫び、自分の無力さを嘆く。

「私たちにもっと力が有れば。」

その声から勢いはなくなっていた。彼女は自分の無力感に歯を食いしばり拳を強く握る。例え神から力を受け継いだとしても、異能量が乏しくすぐに枯渇してしまう。

「それは違うな。争いこそ人の本質。ただそれだけのことだ。」

少年は冷酷の物事を判断する。絶対的支配者が居なくても人の本質が助け合いならばこんなに醜い争いは起こらなかった筈だとその赤い瞳を細め視線でも訴えかける。

「私は、そんなことは無いと思います。人は本来優しさにあふれている、そう信じています。」

アース失踪前の聖典日。信者の表情は優しさに満ち溢れていた。その表情が偽りではないと彼女は本気で信じている。互いの主張をぶつけるかのように、お互いはにらみ合う。

「いいよ、別に。こんな話しても無駄なだけだからさ。」

少女と少年の言い争いは今に始まったものではない。それに、恐らくだが彼らの性格はそれぞれ受け継いだ異能による影響もある。そもそも、人間の本質なんてものは分からない。

「で、どうする?このままにしたくはないんでしょ。僕は一応年下としてルナに従うよ」

ルナ。アースの娘。彼女は少年と双子ではあるものの出産されたタイミングがやや早い。普段、姉なんて呼ばない少年だが、ここではあえてそう呼ぶようにした。

「とはいえ、当てが有りませんね。」

ルナは落胆していた。彼女は身に纏っている白いドレスをぐっと握り締める。アースが居ない今。この星で一番強いのはと聞かれたら、間違いなくこの二人だ。互いの力は拮抗し、二人で協力すればこの惑星ごと壊すことができる。だが、彼女達はそれを望まない。

「やっぱり、あれをやるしかないんじゃないか。」

「あれは危険です。そもそも、できるかどうかすら怪しいんですよ。」

「心配には及びませんわ。姉様」

二人が言い合ってたその奥。城の通路の陰から、一人の少女が現れた。少女は城の中に入りやがて月夜に照らされた。その髪はアオイ。彼女もまた神術により実年齢よりかは成長した姿をしていた。とはいっても、二人とは術者が異なるが。

「及ばないとは、どういう事ですか?葉(ヨウ)」

ルナは自身の妹に問いかける。彼女の実年齢は実に幼い。そして、念を押して勝ってに外に出るなと言いつけたのにも関わらず、葉は城を出ていた。

「いい人が見つかりましたの。」

「いい人?」

「ええ、この動乱が始まり被害が拡大したころ言ってましたわよね。このままでは手に負えない。力が必要なのだと。」

 アースが失踪した後この動乱はここまで大きいものではなかった。その頃は、アースの臣下の管理下でルナとその弟シンは鎮圧のために動いていた。しかし、混乱に生じて牢に捕らえていた囚人たちの脱走により被害が拡大。臣下たちは、主の氏族を守るため子供たちを城の中に置いていく事を決意したのだった。

「はい。だからこうして、城で待機してるのです。」

異能量が増える要因は幾つか存在する。一つ目は時間。二つ目は己と向き合い潜在意識を高める事、謂わば精神統一の訓練を行うことである。しかし、二つ目に関しては今は望み薄である。この動乱の悲惨な光景にやられ、彼女たちの心は揺らぎ続けているからである。

「それで、いつになれば必要量だけ異能を蓄えられるのですか?私の成長にも異能を使っていたのでしょう?」

「それは・・・」

葉の投げかけに、ルナは言葉を詰まらせる。彼女の言っていることは正しい。

「それまでに、何人の人が犠牲になればいいのですか。」

普段あまり主張する事のなかった少女は、言葉に怒りを乗せ声を荒らげる。

「私は、戦場を実際に見てきました。私を守ろうと多くの人が死にました。」

彼女はこれまで起こってきたことを切ない表情をしながら振り返る。

「この動乱を止められるのであれば、私は支配者にだってなれますわ。」

彼女の眼は決意そのものを表していた。しかし、ルナはそれを認めたくなかった。妹には幸せに暮らしてほしいそう願っていたからだ。だからこそ、城からの外出は禁じていたし、動乱にも連れ出さなかった。

「それが危険だと言ってるのです。」

ルナは考えを改めさせようと言葉を強め、身を乗り出す。シンは柱に座ったままこちらをただ眺めているだけだった。

「いいえ、私にはできますわ。あなた達の協力が有れば。姉様も知ってるのでしょう私の名に与えれた異能の事を。そして私はあの少年に出会いました。これで儀式に必要なものはすべて揃たのです」

演技がかったそのセリフを吐きながら少女は何かを仰ぐように天井を見つめる。ルナは葉の言う通り彼女の名に与えられた力の事はしっている。そもそも、シンと話していたアレとは彼女の異能を使うというものだった。だがら、ルナが気になったのはそこではなかった。

「あの少年とは?」

「そこに居る奴の事か?」

シンがルナの問いに割り込む。シンはずっと城の通路に居る得体も知れない気配が気になっていた。

「察しがいいですねお兄様。収(シュウ)入ってきなさい。」

収と呼ばれた少年はゆっくりと葉の隣へと近づいていく。名は体を表すというこの世界には名が異能として覚醒することが稀にある。収はその覚醒者だった。

「はじめまして。収と申します。よろしくお願いします。」

少年は礼儀正しく紳士のような所作で挨拶をする。

「収?なる程。確かにその異能が有れば、アレの成功確率は高まるな。」

シンは、別に収に心許したわけではない。だが、立ち上がりそう言葉を紡ぎながらルナのもとに近づく。

「どうする?ルナ。これでこの動乱を鎮める為のピースは揃ったんじゃないか。」

「そう、、、ですね。」

ルナは数秒沈黙して手を強く握り締める。これで、力の暴発は抑えられるだろう。だが、リスクが無くなったわけでも無い。かといってこのままでは被害の拡大は収まらない。ルナは思考を回し結論を出した。

「収と言いましたね。貴方は葉から話は聞いているという認識で間違いないのですか?」

「はい。」

「それなりに、リスクがあるという覚悟はありますか?」

「はい。」

ルナは。ここまで聞き終えそして、覚悟を決めるかのように目を閉じ息を吸う。そして目を見開く。

「では、あなたに協力をお願いします。」

地球の神の力を半端に受け継いだ少女は、目の前にいる自分よりやや背の高い白髪の少年に世界の命運を託した。

「承知しました。」

「では、明日儀式を行います。今日はもう城で休んでいて下さい。」

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