間章 世界創造物語 第四部 失われた支配者

世界創造物語4-① 動乱

アースの失踪後世界は動乱の渦に包まれていた。絶対的支配者が居なくなった事で異能を操れるものとそうでないもの差が大きく開いたのであった。

「くそ、ドコモかしくも戦場、逃げ場なんてどこにも在りはしねぇ」

男は異能を扱えない。それでも知識や知恵を使い今日まで生き残っていた。建物は燃え盛り、辺りには暴風が吹き荒れ、地面から木々が次々へと生えわたり、天からは高圧な雨が降り注ぎ、地面そのものは隆起したり断裂したりしている。そんな中男は走り生き残ってきたのである。   

不幸中の幸いか魔法の定着には膨大な魔力が必要となる。その為、主に狙われるのは戦力が乏しい魔法使いの方。無能力者は捕らえたところで何の役には立たないため、積極的には狙われることはなかった。だからと言って、安全という訳では無い。魔法で作り出された現象そのものについては定着に必要な魔法量が足りず消えることが多い。しかし、魔法による影響は残る。例えばこうだ。魔法により、木々をはやした場合。大抵の場合必要な魔法量が込められてなかった場合、やがてその木々は消える。しかし、その木々が何かを貫いた場合、その影響のみが残り貫かれたままになるという感じだ。

「はぁ、はぁ。あれから何日たった?なぜ、アース様は助けに来て下さらない?なぜこんなにも世界は荒れ狂っているんだ?」

男は疲れ果て、走るのやめ手を膝につく。男は、特段筋肉質とは言えない。多少体力があるだけのおっさんである。辺り一面は火の渦。大抵魔法として出された火はすぐに消えるが、その火が何かに引火した場合、引火した炎は燃やし尽くすか消化されるまで消えることは無い。

「クッソ、辺り一面黒煙だらけでまともに呼吸できやしねぇ。アース様から授かったこの水晶に秘められている加護も切れかかっている。」

 アースは力ない者が不当に殺されないよう自らの異能を込めた水晶を彼女の信者に渡し加護を授けていた。しかしその加護の力は永遠のものではない。そうじゃない理由は二つ。一つは幾ら地球の神といえど魔法量に限りがあるという事。もう一つは加護の力の悪用を防ぐことだ。故にアースは月に一度聖典の日を設け信者達を集め水晶に異能を充電する。アースの加護は強力だ。大抵の異能は弾くし高威力の異能であってもその影響を薄め限りなく所持者に害を与えない状態にする。それだけでなく、異能を弾く事や所持者が強く望むのであれば水晶から魔法属性(水、火、木、土、風)の放出が可能である。

 しかし、聖典の日彼女が現れることは無かった。故に水晶の中にある加護は枯れていった。とはいえ、すぐに枯れることは無い。そもそも充電するのにも時間がかかるため、一回の充電で二か月は加護の効果は残る。とはいえ加護は使い続ける程その量は減少する為二か月目の最終週にはその効果は無いに等しい状態になる。こんな世の中では尚更心許ない。男は、殆ど加護の力に頼らず生きてきただからこそ、未だに加護の庇護下にある。しかし聖典の日からもう二週間以上経過している。平常時より加護の恩恵を受ける機会は多く中には水晶が枯れ果て死に至る者もいた。

 その場に留まっていては何時建物が崩れ何が降り注いでくるかが分からない。男は走り逃げる為再び前を向く。

「なんだよこれ。」

彼の目の前に広がるのは死骸の山だった。魔法の定着に必要な魔法量は他人から調達可能。しかし、条件としてその魔法と同じ属性を所持している必要がある。だから、魔法使いは魔法使いを労働者として雇っていた。今となっては只の奴隷に乗り下がっているだろうが。

しかし、彼の目の前に広がる光景はそれだけでは辻褄が合わない。死骸には水晶らしき破片がある。勿論アースの信者であれば異能者もその水晶は与えられていた。だが、そこら中に転がっていたのは顔なじみの無能力者達だった。 

「あぁこれ、私がやったんだ。」

男の後方から、女の声がした。背後のビル月夜に照らされている彼女はまるで悪魔そのもだった。

「なんで?こんな事を。」

「なんでって、面白いことを聞くね君。」

男の声はかすれていた。膝に力が入らない。そんな男をあざ笑うかのように女は地に降り立つ。降り立った少女の瞳は赤く肌は赤茶色い。少女の様なお姉さんのような見た目をしている。女がり立った反動で男は地に尻をつく。

「面白いからに決まってるじゃん?今まではさ、私利私欲のために人を殺すとアースに罰されるからできなかった。誰もあの女には逆らえない。でも彼女(アイツ)はもういない。死んだかどうかは分からないけどこんな世の中になっても彼女は現れない。こんなに楽しい事は無いじゃないか。」

女は狂気そのものだった。男は只々私利私欲のために殺す彼女を許せなかった。その正義感が仇となる。

「お前だけは、絶対に許せない。」

水晶に思いを念じ魔法属性を加護として放出する。属性の選択などしない、ありったけの思いを彼女にぶつける。魔法の威力は本来その術者の魔法量やその物に込められている魔法量来よって決まる。

「へぇ。これは凄いね。」

彼女は放出された加護に対し手を伸ばし受け止める。彼女の手は木属性の魔法により武装強化され、又接触点には水属性の魔法を放出し対抗していた。

「そんな枯渇寸前の水晶でこんな威力が出せるんだ。君才能あるよ。もしかしたら、魔法使いとして覚醒する未来もあったのかもね。」

魔法使いは先天的素質が必要とされてるが、後天的に目覚めるという事例も少数だがある。

「でも残念。あなたはここで終わり。」

魔法の威力はその魔法量によって決まる。多少思いの強さによってそれが覆る事はあるが、ここまで気力を振り絞って生きてきた男にはそんな余力は残っていなかった。

「水木・スパウト」

彼女は、加護を受け止めてている手に力を込め水と木属性を混在させ噴出する。彼女の目算では加護だけではなく男諸共消し飛ばす予定だがそうはならなかった。

「君凄いね。名前は。」

水晶は枯れ果てていた。男には女に対抗する術も気力も無かった。男は死を悟った。

「シンドウ・レンマ」

男はそう名乗った。女微笑みながら片手に緑の光を灯す。無力ながらもここまで生き残ってきた男に敬意を示すかのように。こう告げる。

「いい名前ね。私の名前は、エリファ・スフキ。」

「なんだ、三属性持ちかよ。そりゃあかないっこねぇな。」

男は歯向かう気力を失った中で呆れたような笑いを込める。魔法使いは姓を名乗らず、名前の後ろに所持属性を付けるのが慣例となっている。彼女は類まれなる才を持っている。

「あなたの事は覚えててあげる。でも、恨むのはやめてね。異能の根源は思いだとする話もあるし、恨むならアースを恨みな。」

男は、ふとため息をつく。そんな事できるはずもない。魔法を持たない自分がここまで生きてこれたのはアースのお陰だ。

「じゃあな。悪魔。せいぜい長生きしろ。」

男は、笑顔を放つ。死ぬときは格好よく死にたい。それが男のロマンというものだ。

「ふん。見栄っ張りね。殺すのが惜しくなるほどに貴方はいい男かもしれない。けどね。そうはしない。私は殺しが趣味。そんな奴は無数に居る。ここで生かしてもどうせあなたは死ぬ。」

男は黙ったまま、その場に座りつくす。少し長いなぁと思いながらも。

「だから、あなたの精器だけ残しておくことにするは。だから、枯らさないでね。強く思ってなさい。」

「えっ。」

男の表情があほずらへと変わる。せっかく見えを張りきりっとした表情を見せていたのが台無しだ。女はそんな男が面白くなって吹き出し、光らせてない方の手で筒本を隠す。

「じゃあねレンマ。木・ハール」

男は彼女の手から放出された木に胴を打ちぬかれ死んだ。女は死骸に近寄り戦利品を受け取る。

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